「逸話がとにかく濃いんです」市川紗椰が推すアメリカ合衆国建国の父・ガバヌーア・モリスとは?

モリスの不倫現場のひとつだった、パリのルーブル宮(現・美術館)にて
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、市川紗椰お気に入りのファウンディング・ファーザーズについて語る。

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日本の歴史好きに「一番好きな戦国武将」がいるのと同じように、アメリカでは多くの人にお気に入りのファウンディング・ファーザーズ(建国に関わった人物)がいます。独立戦争で活躍して最初の大統領となったジョージ・ワシントン、独立宣言を書いたトマス・ジェファーソンなど、日本でもなじみのある人もいれば、よっぽど歴史好きじゃない限りアメリカ人でもよくわからないファーザーも。私の"推し"のガバヌーア・モリスも陰に隠れているひとり。有能で、かつ同じくらいぶっ飛んでいて、逸話がとにかく濃いんです。

モリスは偉大な功績をたくさん残しています。合衆国憲法の主な執筆者で、アメリカ人なら誰もが言える最初の3言「We The People」は彼の言葉です。ワシントンを含むほとんどの上流階級が奴隷を所有していたなか、いち早く奴隷制度に反対して人権のために声を上げました。マンハッタンの道路を格子状にするのを提案したのもモリスで、アメリカの繁栄と世界の都市開発に多大なる影響を及ぼしました。彼がリードしたエリー運河の開発も、ニューヨークを国際貿易中心地へと発展させました。

さあ、モリスの優秀さについてはここまで。仕事ができる半面、女癖がかなり悪く、他人の奥さんについ手を出してしまう不倫の常習犯でした。28歳の頃にとあるマダムと密会した際、早めに帰宅したマダムの旦那にバレぬよう窓から脱出しました。停車中の無人の馬車で逃げようとしたものの、脚が車輪に絡まって大ケガ。結果、左脚を切断することとなり、それ以降木製の義足で生活します。

脚の代償を払っても女癖は直らず、本人いわく義足のおかげで女性は油断するのでむしろモテたそう。義足を武器として使って戦ったり、義足だけ投げて逃げる撹乱(かくらん)作戦に使ったり、義足使いもかなりワイルド。ちなみに博物館で彼の義足を見ましたが、広〜いケースにポツンと置いてあり、なかなかシュールでした。

フランス大使時代の武勇伝も破天荒。赴任中に勃発したフランス革命では、意外にも王室側についたモリス。ルイ16世とマリー・アントワネットを助けようとベルサイユに向かいましたが手遅れ。宮殿の豪華な家具や衣類がもったいなく見えたのか、気に入ったものを運び出し、そのまま自宅に送ったそうです。その後もフランス王室の関係者には返さず、ちゃっかり私物化。どんなときでもぬかりないモリス、憎めません。

彼の死に方も耳を疑うような話。64歳の頃、モリスは排尿時に激しい痛みが続いていました。前立腺がんだったといわれていますが、もちろんそれを知らないモリスはセルフ治療に挑みました。痛みの原因はなんらかの詰まりだと自己診断し、クジラの骨を尿道に刺し......。結果、感染症で1816年に他界しました。

ウゲーな話ですが、個人的に興味深い要素があります。そもそも、なぜクジラの骨があったのか。フランス革命により、上流階級のコルセットや眼鏡に使われていた骨が余ってしまい、アメリカへの輸出が増えたそうです。モリスもそれらを購入した記録があり、私の中では「家具を取られたマリーの復讐(ふくしゅう)」ということにしています。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。死因がクジラの骨なだけに「ホゲー」というダジャレを入れなかったのを後悔している。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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