「9900万年前の姿のまま琥珀の中に閉じ込められた恐竜の化石」を発見したシン・リダ博士を直撃!

「9900万年前の姿のまま琥珀の中に閉じ込められた恐竜の化石」を発見したシン・リダ博士を直撃!

大型恐竜の大腿骨化石とツーショットのシン博士。一般・児童向けの恐竜書籍を数多く執筆するサイエンスライターとしても知られている

恐竜観そのものを一変させる衝撃を世界に与えた若き研究者が中国にいる。36歳のシン・リダ博士だ。ひとりの恐竜好き少年だった彼は、どのようにして「琥珀」の大発見を成し遂げたのか。恐竜ファンの中国ルポライター・安田峰俊氏がアツく迫る!

■琥珀の中に眠るリアルな恐竜

「龍帝」もしくは「恐竜達人」──中国の恐竜ファンたちは、敬意を込めて彼をそう呼ぶ。36歳の若手恐竜学者で、中国地質大学准教授のシン・リダ(?立達)博士のことだ。

博士の名前が世界に知られたきっかけは2016年12月。ミャンマー東北部の辺境地帯で出土した約9900万年前の琥珀(こはく)(植物の樹脂が化石化したもの)から、羽毛を持つ小型恐竜の尻尾(しっぽ)を発見した。

小型恐竜は「EVA(エヴァ)」と名づけられ、このニュースは、科学専門誌はもちろんBBCやCNNでも盛んに報じられ、全世界が大騒ぎになった。

何がそんなに衝撃だったのか? それは、この化石が従来の恐竜化石とはまったく異なるものだったからだ。

これまで発見された化石の大部分は、鉱物化した骨や歯、糞(ふん)、タマゴ、足跡などで、恐竜の実際の体表がどうなっているかは不明な部分が多かった。だが、EVAの尻尾は琥珀の中で生前の特徴を残したまま保存されていた。つまり、尻尾のみとはいえ、恐竜のリアルな姿が目に見える形で判明したのだ。

シン博士はその後も、琥珀の中から中生代の鳥のヒナや、ヘビやカエルなどを次々と新発見している。今年10月には、軟組織を残したものとしては世界で最古のカタツムリの化石の発見を報告した。

■ミャンマーの危険地帯で奇跡の琥珀を発見!

1982年、南方の広東省で生まれたシン博士は、子供時代にテレビで日本の特撮番組『恐竜戦隊コセイドン』を見て恐竜にハマり、高校在学中には当時の中国で唯一の恐竜情報サイトを運営するオタク少年だった。

成人後、いったん就職するものの夢を諦めきれず、すぐに退職。一般向けの恐竜書籍を執筆しながら学費をためて、恐竜研究で世界的に有名なカナダのアルバータ大学大学院に留学した。

映画『ジュラシック・パーク』の主人公のモデルとしても知られる著名な古生物学者、フィリップ・カリー博士に師事し、帰国後、博士号を取得した年に前出の琥珀を発見。一躍、恐竜界のニュースターとなった。

ちなみに筆者もまた、子供時代に「恐竜博士」を夢見ていた恐竜オタクだ。一念発起して夢をかなえた同い年の彼に、憧れを感じている。

シン博士にぜひ会いたい! そこで北京に飛んだ私の直撃取材に、「龍帝」は気さくに応じてくれたのだった。

* * *

──普通、化石発掘といえば地層から「骨」を掘り出すイメージですよね。なのに、どうして琥珀に注目を?

シン 大昔の昆虫や植物が琥珀の中に封じ込まれていることは、以前からよく知られていた。14年、そういう昆虫を収集しているマニアの友達から「恐竜の足が入っている琥珀を見つけた!」と連絡を受けたんだ。

調べてみると、これはトカゲの足だったんだけれど、琥珀の可能性を感じたのはそのときだった。「絶滅した鳥や恐竜が見つかっても全然おかしくないぞ」と思ったんだ。そこで15年からミャンマーの琥珀市場へ調査に通うようになった。

──市場、ですか?

シン そう。ミャンマー東北部のカチン州バモーの郊外では、11年頃から白亜紀の良質な琥珀の化石が出るようになった。付近は軍閥のカチン独立軍とミャンマー政府軍がしばしば軍事衝突して、危ない場所なのでなかなか採掘されてこなかったんだ。

琥珀は一般的には宝石として取引されている。なので、現地の人たちは、人間ひとりがやっと入れるくらいの幅の、深さ100m近い縦穴を掘って、命綱もつけずに潜り込んで採掘しているんだ。雨が降ると坑道が崩れてしまうような、かなり危険な採掘環境だ。採れた琥珀を、バモーに集まる宝石商人たちが売っている。

僕は彼らから入手した琥珀を分析し、時代を確定していく。方法はふたつ。まず、内部に昆虫などが混入していればおおよその時代がわかる。あと、琥珀に付着した鉱物を分析する方法もある。ただ、これは後の時代の鉱物が付着しているケースもあるから、慎重に調べないといけない。

──EVAの琥珀にも、アリが一緒に入っていましたね。

シン そう。EVAの尻尾は当初、商人から「植物だ」と説明された。植物は僕の研究対象ではないが、一応買うと答えたんだ。調査では毎回、たとえ不要な琥珀でも多少は必ず買うことが、商人との関係を維持するコツでね。

現物を見ると、確かに植物に似ていたが、羽毛のようにも見えた。小型の恐竜かもしれないし、絶滅鳥類にも尾を持つ種類がいる。いずれにしても非常に重要だと思った。

──白亜紀の鳥でも、琥珀に入った化石は世界初の発見ですし、十分すごいですよ! でも、EVAが恐竜だとわかった理由は?

シン 詳しく分析してみると、羽毛の構造が非常に原始的で、鳥だとは思えなかった。何度も慎重に調べた結果、これは間違いなく恐竜だと結論を下すしかなかった。小型獣脚類のコエルロサウルス類の尾だったんだよ。

──EVAの化石は恐竜研究の上で、どういう意義がありますか?

シン EVAの化石で(鳥や恐竜の)羽毛の進化についての中間的な段階を詳細に知ることができる。そうした標本の発見は史上初だった。あと、世界で大きく報じられたことで、恐竜が羽毛を持つことが一般の人にも広く知られた意義も大きかったと思う。

■ティラノサウルスはモフモフなのか?

かつて恐竜といえば、のっぺりとした肌でゴジラのように尾を引きずって歩く、ニブい動物であるとみられていた。

だが、このイメージは90年代(学界では70年代)から変化。恐竜は現代の鳥や哺乳類のような活発な動物だったと考えられるようになった。敏捷(びんしょう)に動き続けるには体温を一定に保つ必要があり、特に小型恐竜は羽毛があったはずだという仮説も生まれた。

この「羽毛恐竜」説が事実と裏づけられたのも、中国での発見が契機だった。96年、遼寧省で羽毛の存在を確認できる状態の小型の恐竜、体長1.3mほどのシノサウロプテリクス(中華龍鳥)の化石が世界で初めて見つかったのだ。

熱河層(ねつかそう)群と呼ばれるこの地層からは、程なくさまざまな種類の羽毛を持つ恐竜の化石が見つかり始めた。なかでも恐竜の王様・ティラノサウルスの祖先に近い仲間のグアンロン(冠龍)やユウティラヌスの発見は有名だ。

彼らの化石に羽毛の痕跡が見つかったことで、ティラノサウルスも「モフモフの羽毛」で全身が覆われていたという仮説すら生まれた(ただ、体格の大きな恐竜に全身羽毛があると体温が上がりすぎるため、この説には異論も多い)。

こうした研究の進展で、近年は鳥類が恐竜類の一部に含まれていることも定説化した。すなわち、スズメやニワトリは、実は現代まで生き残った「恐竜」の子孫であることが明らかになったのだ。

* * *

──90年代以降、中国での羽毛恐竜の化石の発見ラッシュが、世界中の恐竜図鑑の復元図まで変えてしまいました。これらをどう見ますか?

シン 世界の恐竜学界に、獣脚類の進化について大量の証拠を提供することになった。鳥類の起源や羽毛の進化、彼らがどうやって飛べるようになったかを解明する上でも、大きな影響を与えている。

中国国内に目を向けるなら、良質な化石がたくさん出ることで、中国の恐竜学者はより早く世界の一流水準に到達できる。発見ラッシュの影響として、こちらも見逃せない。

──華北の熱河層群に限らず、中国はここ二十数年でドカドカと化石が出てきた印象です。

シン 理由は、経済発展の影響で工事が増えて、土を掘り返すようになったからだよ。中国では過去に数百種類の恐竜が見つかったけれど、うち3分の2は90年代以降の発見だ。

──でも、工事を急ぐ開発業者が化石を破壊してしまう例もあると聞きましたよ。

シン そうなんだよ。例えば、山東省即墨(ジーモー)市の宅地開発現場で数百個以上の足跡化石が見つかったことがある。でも、僕たちが現場に行ってみたら、すでに業者がぶっ壊していたんだ! 仕方なく捨てられていた岩盤をあさったら、貴重な翼竜の足跡化石を見つけた。全部残っていればどれほどの発見があったか。本当に悔しくて今でも心を痛めている。

従来、化石が見つかったときは1週間以内で急行してきた。でも、この事件の後は「2日以内」になった。そうしないと化石を守れないんだ。

──盗掘も多いですよね。有名なシノサウロプテリクスも、それで見つかったと聞きます。

シン 深刻な問題だ。特に熱河層群と内陸部の貴州省がひどい。比較的貧しい地域なので、現地の農民にとっては貴重な化石を掘り出せば1年分の収入が得られるんだ。

実のところ、現在の中国の学術機関が所蔵する化石の7、8割はこの手の経緯で購入されたものだ。だが、盗掘を経た化石は出土した場所や地層が正確にわからないという大きな問題がある。化石発掘先進国のアメリカやカナダでは考えられない話だよ。

■シン博士が尊敬する日本の恐竜学者

北京で別の恐竜研究者に取材したところ、「熱河層群が広がる遼寧省のほか、河南省のタマゴ化石や甘粛省の足跡化石、山東省の化石なども注目」とのことで、中国は化石の出土数や貴重な地層には非常に恵まれた国だという。

また、今の中国では国家が学問研究にお金をつぎ込むため、日本と比べて研究資金は恵まれている。例えば予算規模が237億元(約3850億円)に達する中国科技省傘下の「国家自然科学基金」からは、プロジェクトごとに「4年で100万元(約1600万円)」の研究費が支給される。

ほか、論文の発表ごとに大学がボーナスを準備し、プロジェクトによっては別途に研究費が組まれることもある。

人材についても、50種類近い新種恐竜を発見した古生物学の巨人・徐星(シュイシン)氏(中国科学院脊椎動物・古人類研究所研究員)をはじめ、シン博士ら世界水準の優秀な恐竜学者が名を轟(とどろ)かせている。

ただ、「中国では化石の発掘数の割に優秀な恐竜学者は多くない。古生物学は比較的お金につながりにくいので、学生も少ない。人材の深みがなく、日本と比べるとアマチュアの恐竜ファンの数も少ない」という関係者の声もある。

* * *

──現在の日本の恐竜学者で尊敬する人はいますか?

シン 北海道大学の小林快次(よしつぐ)先生は非常に優秀な方だ。国際的な視野があって、非常に知識が深くて尊敬している。あと、国立科学博物館の真鍋真(まこと)先生は一般向けの知識普及の分野で素晴らしい仕事をなさっておられると思う。

──小林先生は、北海道で出土したハドロサウルス類の全身化石「むかわ竜」の研究でも有名です。ただ、日本でこうした保存状態のいい恐竜化石の出土は多くありません。

シン 中国では恐竜の一頭丸ごとの化石が出ても「よくあること」という感じだけれど、日本では大ニュースだよね。ただ、日本の社会で恐竜の人気は中国よりもずっと高くて、一般の人にも深い知識を持つ人がたくさんいる。

──私も昔から大好きです。

シン 恐竜の最大の魅力は、尽きせぬ想像力と好奇心を呼び起こす点なんだ。日本人の恐竜好きは、特撮などの「怪獣文化」が入り口になっている点も大きいと思う。恐竜が趣味として広い裾野を持っていることは本当に素晴らしい。僕はそれがすごく羨(うらや)ましいんだ。中国が学ぶべき部分だと思っている。

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約6600万年前に絶滅した謎の生物・恐竜。軍閥地帯で琥珀を探し、中国の山奥で化石を採掘する大冒険の末に彼らの正体を解明するのは、まさに男のロマンだろう。

恐竜好き男子がそのまま大きくなり、世界的な大発見を連発する。そんなシン博士は、間違いなく「恐竜達人」だ。

●中国地質大学准教授 ?立達(シン・リダ)博士
1982年生まれ、中国・広東省出身。大学卒業後、就職先をすぐ退職。中国恐竜学の泰斗・董枝明(ドン・チミン)に弟子入り後、カナダのアルバータ大学に留学して修士号、帰国後に中国地質大学で博士号を取得。現在は、同大学の准教授

取材・文・撮影/安田峰俊 写真提供/シン・リダ博士

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