「仕方がなさ」を生きるSNSネイティブ世代 谷頭和希×佐々木チワワ 20代が語る若者の現実

対談をおこなった谷頭和希(左)と佐々木チワワ

2004年に刊行された三浦展氏の著書『ファスト風土化する日本』をはじめとした社会評論では、繰り返し「チェーンストアは都市を均質にする」と語られたが、その言説はいまも正しいのだろうか。その問いに、24歳のライター谷頭和希がドン・キホーテを巡りながら挑んだのが、『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)である。

その谷頭氏と、歌舞伎町をフィールドワークしながら都市のリアルを綴った『「ぴえん」という病 SNS時代の消費と承認』(扶桑社新書)を昨年12月に上梓した佐々木チワワ氏が対談。

20代のふたりが体感した、SNSネイティブ世代の若者の現実とは。

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■なぜ、書き始めるのか

谷頭 佐々木さんも僕も、新書の著者としては非常に若いと思います。同世代の中ではかなり早くから「書くこと」を始めている。そこでお伺いしたいのは、佐々木さんが歌舞伎町での体験を書きはじめた理由です。僕自身も人から、なぜドンキについて書き始めたのかをよく聞かれるんですよね。書くことってつらいし、なかなかやろうと思わない。それを振り切ってまで、なぜ書くのか。

佐々木 普通に、読まれそうだなと思ったからですね。あとはもともと書くことも好きだったので。ホストにハマったときに、これを研究して本にすれば「取材だった」って言い張れるじゃん、っていうのが一番の動機です(笑)

谷頭 僕の場合と似ていますね。チェーンストアって、都市論のなかでもあまり語られていないから、読まれそうだという打算が働いていました。それと、僕自身がチェーンストアをよく使うから、そこでの体験を書いたら効率がいいじゃないか、っていう。体験を換金していくというかね。

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佐々木 そうです。お金を使わないとわかんないこともたくさんあったし、そこで感じたことを言語化したくて。ホストに一番ハマっていたときは、LINEで「おはよう、今日何してるの??」って聞かれるだけで、「働いてなくてごめんなさい。大学いって勉強しててごめんなさい」って思ったりしてたんですよ。その感覚を言語化したかった。

もともと、お金を「何に」使ってるのかをちゃんと自分で理解したい方なんです。たとえばホストに100万使ったとして、それは楽しい体験に30万、担当を応援する気持ちが30万、枕してほしい気持ちが40万、みたいにしっかり分析しておきたい。それと同じ感覚で、他の人がどういう気持ちで歌舞伎町を体験しているのかも言語化したかったんです。

■体験しながら俯瞰する

谷頭 「感覚を言語化する」というのはしっくりきます。『「ぴえん」という病』を読んでいて、主観的な感覚とそれを後ろから見る客観的な視点のバランス感覚がすごいと思ったんですよ。ホスト狂いの子たちの気持ちや感覚にもちゃんと寄り添いつつ、一方で「これはまずいんじゃないの?」という問題提起もされてて。自らの体験を語りつつも、どこかそれを俯瞰的に見ている。

佐々木 俯瞰的になれるのにまだホスト通いを続けてるのが最大の謎なので、誰かに助けて欲しいんですけどね(笑)。でも、ゲームの『龍が如く』をプレイしてる感覚なんですよ。「佐々木チワワ」というキャラクターを少し引いた視点から操作して歌舞伎町を歩いている。だから炎上しようが批判されようが、「やらかしたな」と思うぐらいで特に傷つかない。

谷頭 おもしろい! ゲームをしている感覚ですね。佐々木さんほどでないにしろ、僕自身もそのようなバランス感覚は意識しています。『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』もそうでしたけど、何かを書くためには、その対象について寄り添うと同時に俯瞰することが必要になる。ただ、それはもしかすると、SNSなどで複数のアカウントを使い分けることがふつうになっている時代の作家のあり方もしれないですね。

佐々木 そうですね。高校のころはその感覚を『ハリー・ポッター』のなかで魔法使いが自分の魂をいくつかに分けて保管することになぞらえて、「分霊箱システム」って呼んでました。のちに作家の平野啓一郎さんがそれを「分人主義」と呼んでいることを知ったんですけど。Slackのチャンネルとかと一緒で、「この話はこのチャンネルでなら言えるな」とか「こいつには3チャンネル共有しておこう」とか、誰と何を共有するかのラインを細かく調整してるんです。当時はホストに通ってることを話せる相手も限られていたので、そのあたりは敏感になりました。今はだいぶおおっぴらにしてますけど、Tinderでマッチした男にカミングアウトするかは迷いますね。

谷頭 それは別なんだ(笑)。その使い分け、大変ではないんですか?

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佐々木 「自分は結局何者なんだろう」みたいな気持ちに一瞬なることもあるんですけど、寝りゃ治るんですよ。よくよく考えたら、やりたいことやってホストに会って金稼いでるわけですから、全然いいやと。もし大炎上しても、「佐々木チワワ」というアカウントを消して、「鈴木ブルドック」としてまた再始動する。

谷頭 割り切ってるなあ(笑)。でも、そういう複数の自分をバランスよく操っている感覚は共通して持っているのかもしれない。

■バランスの中の軸

谷頭 ちなみに、歌舞伎町では「佐々木チワワ」という名前を使ってるんですか。それともホストに行くときは本名? それこそ複数の自分を持つためには名前を変えるのが一番良さそうですけど。

佐々木 本名とペンネームはあんまり厳密に使い分けてはいないです。TwitterのDMからホストを指名することもあったりするので。ホストって「ホスト」としての表の姿と、ホストじゃないときのオフの姿を両方楽しむんですけど、こっちもこっちで「佐々木チワワ」の姿とそうじゃない姿を出し分けるんですよね。その駆け引きがポーカーをしているみたいで楽しいし、二度おいしいなと。

谷頭 ふつう、それを混ぜるのはめんどくさくなりそうですけど、佐々木さんは複数のチャンネルがあっても自分を見失わない軸みたいなものがあるんですね。

佐々木 肩書きも立場も全部投げ捨ててハマっちゃうくらいの相手に出会ってみたいけど、自分に目標があるとなかなか踏み切れない。私がもし全部投げ捨ててホストに通うようになったら、そのホスト相当凄い方ですね(笑)。

谷頭 あえてドンキの話に引きつけると、ドンキは軸があまりない。消費者のニーズに徹底的に合わせるんですよね。その結果、ドンキで典型的にイメージさせるようなゴチャゴチャな陳列棚が見られないような店舗も結構あるんです。

佐々木 結局、人にしろビジネスにしろニーズに合わせて自分を変化させられないと稼げない時代になっていますからね。パパ活をする人の間でも「おじさんの好みに合わせて服装もメイクも全部変える子が結局稼げる」みたいなツイートがバズってたりするみたいですし。

ただ、ホストもそうですが、「誰にでも合わせられる人」はそこそこの売上まではいくけどナンバーワンにはなれないような気もしています。歌舞伎町って「この人じゃなきゃダメ」を探すゲームでもあるので、その唯一性と迎合性のバランスはちょっと難しいですよね。「ドンキがないと生きていけない」って泣き叫ぶ人、想像つかない。

谷頭 たしかに。たとえばヴィレッジ・ヴァンガードが世界から無くなったら、きっと泣き叫ぶ人は多いですよね。ヴィレヴァンが持っている「思想」に共鳴している人は多い。でも、ドンキは確たる「思想」、先程の言葉で言えば「軸」があまりない。その「軸」のなさに、僕自身はどことなく現代っぽさを感じますね。

■チャンネルを切り替えると「整う」

谷頭 僕は、本職が高校教員で、教育学を研究する大学院生でもある。だから普段はアカデミックな論文をがんがん書いている。でも一方で、なぜかドンキの話をまったく実証的ではない方法で書いてもいるので、見せる顔つきがかなり違うと思うんですよ。

佐々木 その切り替え、私は「精神的サ活」って呼んでるんですよ。大学で研究発表した後に『太鼓の達人』とかやると、叩くだけで「すごいドン!」とか言ってくれて超気持ちいいんです。あと、仕事した後にホストクラブで「よいちょまる、ぴえん」とかやってると何か整うんですよ。

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谷頭 たしかに! 学会発表したあとにドンキの原稿を書くとなにかスッキリする感覚は「整っている」のかもしれない。この「精神的サ活」をやっていると、他の人から「大変じゃない?」とか言われるんですが、むしろまったく質の異なることを同時にやっているほうがなんだか安心できるんですよね。

佐々木 そういう考え方って、今を生き抜くための処世術ですね。私も最近お笑いというものを勉強したくなって、明日お笑いの養成所のオーディションを受けようと思って願書出したんですよ。

谷頭 え、さすがに好きなことやりすぎじゃない?(笑)

佐々木 コント「ホス狂い」とかやりたいなと思って。コムドットがあれだけ売れるなら、やっぱりYouTubeとかTikTok使わないとダメだなと。自分の出来事を話すだけでお金が入ってくるのって、一番いいじゃないですか。そういう意味でも、芸人は映像や文章とかひとつのジャンルに依存せずに全部できるからうらやましい。

谷頭 その軽やかさはすごい。とにかく、より楽しく生きるためにどうすればいいのかを考えている感じですね。いずれにしても、さまざまな場面で、さまざまな佐々木チワワなり、さまざまな谷頭和希を演じることに対して躊躇がないのかもしれないですね。

■仕方なさを生きる

谷頭 思ったのは、自分たちより上の世代の30〜40代の人たちって、「Twitterで自分を演じないといけない社会は生きづらい」という感じでSNSからフェードアウトしたり、あるいはそういう生きづらさ・分裂をテーマにする人が多い印象があるんです。でも僕らぐらいの世代だと、そういう社会で生きていくことは前提になってますよね。

佐々木 それを嫌がるのって、ジャングルで「Wi−Fi繋がらないからつらい」って言ってるようなもんだと思います。いまある環境はすぐには変わらないから、ある程度受け入れたうえで、どうするかを考えなきゃいけないんですよね。

谷頭 ある種、諦観の中で生きているというか。「仕方ない状況でどうやって生きるか」というマインドなんですよね。実はそれって非常にドンキに似ているなと。本でも書いたんですが、ドンキが創業した当時はすでに多くの小売店が社会に溢れていて、その中の熾烈な競争をくぐり抜けないといけない状況だった。そんな中でドンキは「仕方のない状況」をどうやって生き延びるかということで派手な外観が生まれたりした。いわば、「仕方のない状況」が生みだしたのがドンキなんです。

そう考えると、佐々木さんもまた、ドンキ的なんじゃないかと思えてきますね。

佐々木 なら「佐々木チワワはドン・キホーテだった」ということで(笑)。

谷頭和希(たにがしら・かずき)
ライター。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業後、早稲田大学教育学術院国語教育専攻に在籍。デイリーポータルZ、オモコロ、サンポーなどのウェブメディアにチェーンストア、テーマパーク、都市についての原稿を執筆。批評観光誌『LOCUST』編集部所属。2017年から2018年に「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』が初の著書

佐々木チワワ(ささき・ちわわ)
作家。2000年生まれ。慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)在学中。10代のころから歌舞伎町に出入りし、フィールドワークと自身のアクションリサーチを基に「歌舞伎町の社会学」を研究する。歌舞伎町の文化とZ世代にフォーカスした記事を多数執筆

取材・構成/松本友也 撮影/内藤サトル

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