前代未聞の"悪疫退散全国一斉花火"が開催。コロナで追い込まれた花火師の覚悟「このまま終われねえだろ」

前代未聞の"悪疫退散全国一斉花火"が開催。コロナで追い込まれた花火師の覚悟「このまま終われねえだろ」

全国で一斉に花火を打ち上げ

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花火業界、最初で最後の試み――新型コロナウイルスによって、大小問わず数々の花火大会が中止になるなか、一世一代のイベントが行なわれる。それが「全国一斉悪疫退散祈願Cheer up!花火プロジェクト」だ。全国各地163社の花火業者が一斉に花火を打ち上げるのだ。

「3月から花火大会の中止が続々と決まり、危機感がありました。そこで何かできないかと生まれたのがこのプロジェクトです。もともと花火大会は、江戸時代に起こった大飢饉の慰霊とともに悪病退散の意を込めて始まったとされています」

そう語るのは発起人のひとり、糸井火工(福島県須賀川市)の糸井秀一社長だ。企画がスタートしたのは4月23日。初の企画会議に集まったのはわずか11社。さらに80代のベテランも当たり前の花火業界のなかで、集まったのは30代を中心とした若手たちだ。

■日本国民と花火業界のために

「最初すぐに40社が参加を決めてくれました。それから続々と増えて参加企業は163社と、業界の半数以上(※)に。若手が出しゃばってしまったのではないかと不安だったんですけど、安心しましたね(笑)。自分たちが苦しい中でも元気を与えたいっていう気持ちや使命感もあったんじゃないかと思います」(糸井社長)
(※2019年12月31日現在、がん具煙火の登録者数を除く正会員数は276)

コロナ禍で多くの企業や人々が苦境に立っているが、それは花火業界も同じだ。秋の花火大会やイベントなど花火の出番はあるが、「夏の花火大会が収入の9割以上。1年分を夏で稼ぐくらい」。さらに翌年の花火大会に向けて、1年かけて準備するため、すでに倉庫はいっぱい。来年に持ち越すしかないのが現状だ。

「花火職人からしたら今は全て仕事を失われ、まさに死活問題」だが、それ以上に厳しい現実があると糸井社長は言う。それが花火文化の消滅だ。

「花火大会が一度無くなった今、再開させるパワーがあるのかも不安。もう一度立ち上がるにはパワーが必要。これを機に来年以降の継続が難しくなるかもしれない」

花火大会の主催はほとんどが自治体だ。しかし、自治体の財政難に加え、警備費用の増額などによって全国的に花火大会が減少している。つまり、コロナとは関係なく存続の危機にある花火大会も少なくないのだ。そこにコロナという災いが直撃した。

今回のプロジェクトで糸井火工では、医療従事者へのエールを込めて青い花火を打ち上げる。玉本体には「悪疫退散」の文字も。東日本大震災で花火を打ち上げた際に、子どもたちが「希望」などの文字を書いた名残だ

「花火があがらない夏を日本国民がどう感じるのか。想像したこともないし、想像できない。東日本大震災があった時は、それが底辺だったから立ち上がろうって気持ちになったけど、今はこれが底辺かも分からない。だから花火大会が無くなってもおかしくないですよね」

そう話す糸井社長は東日本大震災で被害を受けたうちのひとりだ。かつて震災復興を願って、花火を打ち上げた。

「震災の時は30歳で、あれがあって仕事に一生懸命になるきっかけだったんですよね。あの頃はたくさんの人も物もなくなって。お客さんも家族を亡くして、それでも花火をあげたいって人もいて。震災の時のみんなが花火を望んでる経験があったから、今回も喜んでくれるかなっていう気持ちが潜在的にはあるのかもしれない」

9年前を振り返り、そう明かす糸井社長だが、当時とは少し意味合いが変わっているともいう。

「あの時はあの時で必死でしたけど、今はさらに必死。自分たちを奮い立たせるためなのかもしれません。コロナでみんなが大変な状況の中で、大事な人や物、事、みんな大事なものを守りたくて動いてる。花火屋は花火屋で花火に価値を感じて、人を守ろうとしてるからこのプロジェクトを進めたんです」

糸井社長個人としては、今回の企画は日本人のためでもあり、自分たちのためでもあるのだ。

■プロジェクトが花火業界の変革に

「このまま終われねえだろ」

そんな言葉をこぼす糸井社長だが、今回のプロジェクトが「花火業界の発展に繋がるかもしれない」と希望も見出している。

「今まで花火屋は受動的に仕事を受けてきた。東日本震災の時もそう。個人的ですが、誰かに支援の手をすぐ求めるのではなく、自分達で立ち上がることが大事だと思ったんです。結局何においても常に誰かに頼ろうって思ってる気持ちが違うなと。業界が危機的な状況で、1から自分達で組み上げた実績は、これからの自信にも繋がるかなと思います」

全国の花火業者が一団となってイベントを企てるのは業界でも初めてのこと。さらにスポンサーは全て断り、全てを自前で準備してきた。少なくとも戦後の花火史では、何もかもがかつてない経験だ。

「同じものが戻ってくるっていう考えは甘い人はいないから、適応する人が残るから適応していかなきゃいけない。全てが変わってしまうと思いますが、人の心は変わらないだろうから、すごく大事だろうなと。花火がその人の心に寄りそうものでありつづけていきたいですね」

夏の夜空に打ちあがる花火は、多くの日本人の心に輝きを与えてきた。しかし、"不要不急"なもの。そして休業対象にも当たらない。

「花火は嗜好品の世界。さらに日常に必要ない分、ニッチで見てもらえない業界。同じくコロナに苦しまされている人々を癒すとともに、改めてその大切さに気付いて貰うためにもやらなくちゃなと。花火とは無関係の知人が『こっちが持ってるのは全て火薬だぞ』なんて冗談を言って笑ってましたが、僕個人としてはこのプロジェクトにそれくらいの覚悟を持っています(笑)」

"密"を避けるため場所や日時は非公開だが、今月上旬、日本全国で花火師たちが威信をかけて花火を打ち上げる。

取材・文/鯨井隆正

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