旅人マリーシャの世界一周紀行:第273回「街を生き返らせた奇跡の建築、ビルバオ・グッゲンハイム美術館」

六本木ヒルズでもおなじみの蜘蛛のオブジェ! 下から撮ったら私二重アゴ!

引き続き「#おうちたび」と言うことで、昨年のスペイン旅をお届けしたいと思います。

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カウチサーフィンのミートアップで出会ったメンバーとは深夜まで盛り上がり、翌朝、少し二日酔いの私が宿の共同キッチンでぼんやりインスタントコーヒーを飲んでいると、そこにいたイタリア人女性に

「そんなものはコーヒーとは言わない」

と言われ、イタリア本場の直火式エスプレッソマシン「マキネッタ」で淹れたコーヒーをいただいた。濃い。目がバッキーンと覚めるような苦味だ。

旅中は必ずマキネッタを持ち歩いているという彼女のこだわりは、オーストラリア人がベジマイト(塩辛い発酵食品)、日本人がインスタント味噌汁を持ち歩くのと同じ感覚だろうか。

イタリア人のこだわりのマキネッタ

強烈なカフェインパンチをもらってクラクラしていると、昨夜のメンバーからメッセージ。

「ビルバオ・グッゲンハイム美術館に行くよ! 待ってるからおいで!」

ビルバオはかつて造船や鉄鋼業で栄えた工業都市であったが衰退し、アートで再建した街。「ビルバオ・グッゲンハイム美術館」は「まちおこし」の要となったランドマークだ。

ネルビオン川沿いに美術館へアプローチする私を待ち構えていたのは、あの六本木ヒルズにもある蜘蛛のオブジェ。

ご存知の方も多いだろうが、この蜘蛛のオブジェはルイーズ・ブルジョワによる『ママン』という作品で、実は世界に数体存在する。そういえば、アルメニアの首都エレバンで類似品と遭遇したが、今思うと隠れママンを見つけたような気持ちだ。

世界に何体もいる蜘蛛オブジェ『ママン』

そして肝心の美術館の建築はチタニウムでできており、巨大な船や魚をイメージさせる形状。無機質な素材でありながら曲線美を描いているのが印象的だ。航空力学用の設計コンピュータソフトで実現可能となったのだとか。

作者は現代建築の巨匠、フランク・ゲーリー。そのデザインは人口35万人の街ビルバオに、世界からの年間100万人以上の人々を集める力を持つ。

経済効果も莫大で、美術館ひとつのデザインが街を再生させた奇跡は「ビルバオ効果(ビルバオ・エフェクト)」と呼ばれ、世界中からさらに注目を集めたのだそう。

チタン製の船のような外観

違う角度から見た美術館外観

そんな世界のスゴイ建築といえば、私はアゼルバイジャンの首都バクーに行った時、グニャリと空間を捻じ曲げたようなザハ・ハディドの作品『ヘイダル・アリエフ・センター』を見て衝撃を受けたが、もし東京の新国立競技場の新デザインで白紙になったザハ案が決行されていたら、「トーキョー効果(トーキョー・エフェクト)」が起きていたかも!?

美術館に入る前から見るもの豊富で私はだいぶ友人を待たせているが、やっと正面エントランスにたどり着くと、その前には4万本の花でできた大きな犬のオブジェ『パピー』ちゃんが鎮座。高さ12m、重さ15tと巨大だが、私はハチ公的な感覚で友人とそこで合流した。

ビルバオのハチ公? お花でできた犬のオブジェ『パピー』はジェフ・クーンズ作

いざ入館すると、内部もまた曲線が美しく、高い天井に向かってグニャリと歪んだ空間が吹き抜けている。不規則な形の壁に張り巡らされた窓からは、採光も計算され開放感があった。

建築内部の複雑に張り巡らされた窓

館内作品は撮影禁止なのでお見せできないが、展示品である現代アートの数々には、映像や言葉を使ったアートや、渦を巻いた鉄の巨大なオブジェの内部に入れる体験型のもの、有名アーティストの作品などがあった。

中でもジェニー・ホルツァーのワード・アートは印象的だ。LEDの電光掲示板に、エイズの基金に使われた「I love you」「I touch you」「I hate you」などの言葉が天井から床へと流れては消えていくインスタレーション作品。

また、「MEN DON'T PROTECT YOU ANYMORE」というインパクトのあるメッセージが刻まれた作品も。日本語に直訳するとアートの意味が変わってしまいそうなので控えておくが、彼女の作品には暴力、セクシュアリティ、抑圧、人権、フェミニズムについてなどの解釈があるのだそう。深い......。

お土産売り場に売っていたジェニー・ホルツァーのワード・アートのプリントT

ビルバオ・グッゲンハイム美術館は先鋭的、挑戦的なことで時に賛否両論を呼ぶというが、私はわりと好みであった。後日、カウチサーフィン仲間の地元女子ロシに会うと、彼女はこんなことを言っていた。

「この美術館に世界中から人が集まるようになって街はすごく良くなったわ。今も変化しているの。治安の悪かった所も建築やアートで、徐々に改善されていってるの」

ひとつの建築をきっかけにどんどん進化していく街ビルバオ 。建築の力は偉大なり......!

ちなみにフランク・ゲーリーの作品はアメリカを中心に世界に存在するが、なんと日本にもあるのだとか。神戸開港120年を記念して、1987年に設置された高さ22mの鯉のオブジェ『フィッシュ・ダンス』。ビルバオと比較すると小規模ではあるが、一見の価値がありそうだ。

テラスに展示されていた、ステンレススティールでできた巨大チューリップ。ジェフ・クーンズ作

●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】
女子2人組ユニット「地球ワクワク探検隊」としても活動。Youtube配信や国内外各地のPR活動、旅先のお酒やお話を提供するイベント「旅するスナック」を月2回、東京・虎ノ門で開催。
【https://www.youtube.com/channel/UCJnaZGs8hyfttN9Q2HtVJdg】

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