プロが通う酒屋の名物店主・栗林幸吉が人生を狂わせたウィスキー哲学「ウィスキーは時間を飲むということ」

プロが通う酒屋の名物店主・栗林幸吉が人生を狂わせたウィスキー哲学「ウィスキーは時間を飲むということ」

人気番組『クレイジージャーニー』や『たけしの等々力ベース』などに出演し、ウィスキーのすばらしさを語る名物店主の栗林幸吉さん

ウィスキーに関する類まれな知識と経験から、人気番組『クレイジージャーニー』や『たけしの等々力ベース』などにも出演。その素晴らしさを語っているのがJR山手線目白駅近くにある「目白田中屋」の名物店主、栗林幸吉さんだ。

ウィスキー好きの芸能人も通い、世界中の酒飲みや酒造家たちが注目、2007年にイギリスの専門誌『ウィスキー・マガジン』が小売店賞第2位に選出。2010年には同誌が主催する「ワールド・ウィスキー・アワード」で単一小売店部門の世界最優秀小売店賞を受賞。

ウィスキーとの出会いについて聞いた前編に続き、この後編では栗林さんが考える美味しさの秘密、さらにオススメの飲み方や自分好みの味を見つける方法まで教えてもらった。「ウィスキーは時間を飲むもの」ーーその真意が判ってもらえるはずだ。

--実際に歩いて、飲んで見つけてくるわけですね。そうやって出会うシングルモルトはやっぱりスコットランド、中でもアイラとなるんでしょうか。

栗林「シングルモルトの本場というと、そう思いますよね。でも、シングルモルトのシェア世界一の国ってどこかわかりますか?」

--やはりスコットランドとかイギリスなのでは?

栗林「イタリアなんですよ。例えば、日本で販売されているスコッチの中でシングルモルトのシェアは10%くらいに過ぎません。それがイタリアは30%程度もある。これはすごい割合なんですよ。その話をイギリスで聞いた僕は、いてもたってもいられなくなって陸路でイタリアに向かったんです」

--イタリアって、ウィスキーのイメージないですね。

栗林「ええ。でもイタリア人はとてもモノを育てるのがうまいと思いましたね」

--どういうことでしょう?

栗林「今年2月に残念ながら亡くなられたシルヴァーノ・サマローリさんという世界的なボトラーがいます。僕の師匠なんです。彼は自分で世界中の蒸留所を回って、樽を選ぶんですよ。そして気に入った樽を買い付けると、瓶詰めのタイミングを自分で見極め、オリジナルのラベルをつけて販売した。それがボトラーということですね。そんなサマローリさんに大事なことをいくつも教わりました」

--印象に残っていることは?

栗林「いくつもあります。例えば、"樽ごとに味は違う。だから選ぶことが大切。選ぶということは一番身近な芸術なんだよ"とかね。まさに、そのこだわりで選んだ樽から、いくつもの名酒が生まれています」

















--こちらで販売されているお酒には手書きのPOPがついてますね。

栗林「これもサマローリさんがやっていたことなんです。ウンチクを語るようなPOPではないんですよ。それよりも酒の印象を伝えるものになっています」

--印象を語れるものが良い酒ということですね。

栗林「そうですね。サマローリさんの言葉をもうひとつ紹介すると、"(酒で)追求するなら3つだ"と言っていました。ウィスキー、コニャック、ワインだと。なぜなら、この3つは1本100万円だとしても買う人がいるんです。つまり、それだけ人を狂わす酒なんですよ。

なぜだと思います? ボトルの中に土地と時間が育んだ個性が詰まっているからです。特に、時間というのは買えないものでしょ。ウィスキーを飲むということは時間を飲むということ。すぐにできるジンやビールでは人を狂わせることはできません」

--時間ですか…。

栗林「だから、ウチは店舗展開も拡大しないんですよ。100軒の店を持つなら1軒の店を100年やりたい。そうやって時間とともに作られていくものがあると思う。ウィスキーは僕にそれを教えてくれました」

--そんな"人を狂わせる"酒、ウィスキーですが、どうやって楽しめばいいんでしょうか。

栗林「僕自身、ロックでもハイボールでも飲みます。楽しみ方はそれぞれあっていい。でも、最初のひと口だけは作り手に敬意を表してストレートにしてもらいたい。彼らは完成形として商品にしているわけですから、作り手の表現したかったものや思いの強さ、後味に残る優しさを感じてほしいですね」

--ふた口目からはなんでもいいんですか?

栗林「ふた口目からは他人にとやかく言われる筋合いはないですよ(笑)。そこからは自由です」

--他にオススメの飲み方は?

栗林「飲み比べも楽しいですよね。安いお酒でも構わない。ウィスキーの魅力はどこにあるかというと、やはり風味にあると思う。"これはなんの香りだろう?"と。口に含んだ後の香りの広がり…そういったものを比較することで学んでいけるんじゃないかと思います」

















--では、美味しいウィスキーの見分け方は?

栗林「酒って嗜好品なんですよね。で、嗜好品の面白さって答えが出ないところにあると思うんです。競争じゃないんだから、一番美味い酒と聞かれても答えられない。僕の一番と皆さんの一番は違うし、それが当たり前でしょ。

ただ、僕なりの基準はありますよ。大事にしているのは後味です。いいウィスキーというのは、飲んだ後で口の中に味わいの余韻(よいん)が伸びていくんですよ。スーッとね。某大手のウィスキーとシングルモルトをいくつか用意したんで飲み比べてみてくださいよ」

--そうですか(笑)。こちらの某大手のものは、口に含んだ時にガツンときますけど、そのインパクトだけという感じですね。それに比べてボウモアやローズバンクといったシングルモルトは、確かに口の中に長く味わいが残っています。同じ酒でも、やはりビールとは違いますね。

栗林「何度も言いますが、時間と土地が育んだ個性がウィスキーにはあるんです。例えば、スコットランド本土の最西端にアードナムルッカンという、2013年にできたばかりの蒸留所があります。これがね、海沿いの辺鄙(ぴ)な所に建っているんですよ。だから聞いてみたんです。なんでわざわざこんな所に作ったんだと。

すると、"最高の水と気候を探していたら、ここにたどり着いたんだよ"と。もちろん、まだできたばかりの蒸留所ですから、どんなウィスキーができるかわかりません。でも、このこだわりこそが新しい個性を生み出すんです。面白いですよね」

--アードナムルッカンでは樽を買われたとか。どんな個性に育っていくか楽しみですね。

栗林「例えば、転勤で大阪に数年住んだとするじゃないですか。そして大阪弁に染まって帰ってくる。でも、その大阪弁と生まれた時から50年くらい大阪に住んでいるおばちゃんの大阪弁では、やっぱり違うわけです。

時間と土地が育むというのはそういうこと。いいかどうかは別として、そこに味わいが生まれる。だからウィスキーは人を狂わせるんです。で、若いコ好きも熟女好きもいるでしょうけど、時間がかかっている分、熟女は金もかかるんだよね(笑)」

(取材・文/長嶋浩巳)

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