シーシェパードの標的となった女性映画監督が、太地町を巡る問題作『おクジラさま』を撮った理由

シーシェパードの標的となった女性映画監督が、太地町を巡る問題作『おクジラさま』を撮った理由

映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』の監督で同名小説も執筆した佐々木芽生さん

和歌山県太地町は、イルカやクジラの追い込み漁を糾弾した映画『ザ・コーヴ』がアカデミー賞を受賞して以来、活動家の攻撃ターゲットとなった。その太地町を舞台にした長編ドキュメンタリー映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』が9月9日から公開される。

カメラが映し出すのは、“残酷な”漁を撮影してはSNSで発信するシーシェパードと、古式捕鯨発祥の地として400年以上続く伝統を守ろうとする太地の漁業組合。そしてたった一度だけ両者が同席した“対話集会”。さらに、太地町在住の米国人ジャーナリストや街宣車で呼びかける政治団体会長など様々な視点を捉えている。

監督はNY在住の映像作家・佐々木芽生(めぐみ)。映画だけにとどまらず、書籍版『おクジラさま ふたつの正義の物語』(集英社刊)も手がけるというエネルギッシュな活動ぶりだが、一体どんなジャンヌ・ダルクなのかとお話を伺うと、普段の素顔はよく笑いよく喋るオネーサマ!

20代でNYに渡るなど、さすがバブル世代という勢いのよさだが、制作の根底には長年のアメリカ生活で感じた違和感も。「捕鯨を守る日本人と許さない外国人」という二項対立にとどまらない新たな視点を提供する今作について、制作の動機からグローバルな日本の立ち位置まで幅広く伺った!

* * *

―『おクジラさま』を撮るきっかけは、『ザ・コーヴ』の誤解を招く表現や一方的な視点への怒り?

佐々木 怒りというより「どうしてこうなっちゃうのかな?」という疑問ですね。それに、日本側から何も反応が聞こえてこないもどかしさもありました。それに制作者側が自分たちを英雄視して「悪者を成敗してやろう」という姿勢なのも疑問でしたし…。アカデミー賞も獲るような見事な映画ですが、出資者からの数億という膨大な制作費に物を言わせてハリウッド中からスタッフを集めているし(笑)。

―『おクジラさま』の制作資金はどうされていたのですか?

佐々木 それはもう本当に大変でした〜。クラウドファンディングと助成金、あとは個人の支援者の方からの寄付をいただいたりですね。NYの家も抵当に入ってるし、まだ借金がありますけど(苦笑)、まぁ私はそんなにお金がなくても暮らしていけちゃうんで(笑)!

―『ザ・コーヴ』陣営がすごく強力な武器を使う一方で、『おクジラさま』陣営は正座してお茶を立てているような、控えめな凛々(りり)しさがあるというか。

佐々木 あはは! その表現いいですね。

―同じ漁師が出演するだけでなく、太地町のお祭りの風景など同じ場面も使われています。それは意図的に?






佐々木 そうですね、同じ素材でも切り取り方によって全然見え方が違うというのは、皆さんにわかってほしいと思いましたね。敷地内の撮影を断ろうとして“プライベート・スペース”と異名を取った漁師の〆谷和豊さんも普段はあんなに怖い人じゃなくて、優しくてむしろ穏やかな人。この人があそこまで怒るとは、振る舞いがよっぽどだっだんだろうなと。








―太地町の漁師さんはあの映画で一躍有名になったとはいえ一般の方ですし、よく出演してくれましたね。

佐々木 それは大変でしたね。ただ、本当に気の毒だなって。漁師さんたちは魚を捕るのが仕事なので、当然、カメラの前で話すことには慣れてない人ですよね。それなのにあの映画によって、のどかな小さな町がある日突然、世界の攻撃のターゲットにされたことが悲劇で。不公平というか恐ろしいなと思います。

―そういう佐々木さんもある日、突然シーシェパードの創立者ポール・ワトソンに名指しで批判声明を出されるという災難も…。

佐々木 そうなんですよ(苦笑)。今となってはむしろ名誉なことだと思っています(笑)。






―新聞の取材を受けた記事が英文化されてネットに出たことがきっかけですが、そもそも海外にはできるだけ情報は伏せていたんですよね?

佐々木 制作途中に妨害が入ることがイヤだったので。アメリカの環境保護団体とか動物愛護の活動家の人たちって本当に過激な人も多くて、手段を選ばず暴力に訴えてくることもあるんですよ。動物実験をしている化学者の家に爆弾を送りつけたり、中絶に反対だからって中絶を行なう産婦人科医を銃殺したり…。生まれてくる命より、すでに生まれている命が軽いなんてすごい矛盾ですけどね。

―そういった障害を乗り越えてまで制作に踏み切ったのは「私がやらなきゃ」という使命感も?

佐々木 両方だったと思います。でも本当はやりたくなかったんですよ。捕鯨って微妙なテーマで“地雷”はいっぱい埋まっているし、私も踏みまくって満身創痍ですけど(笑)。でもこのままじゃ酷いことになるんじゃないかとイヤイヤながら始めました。そこはある意味『ザ・コーヴ』に背中を押されたところもありますね。事実誤認もありますし、許容範囲かもしれないけどミスリーディングな表現がたくさんあって。

―日本ではドキュメンタリーは公正であるべきという認識が一般的ですが、アメリカではそうではない?

佐々木 違うんですよ。全く正反対と言ってもいいぐらい、制作者の考え方を一方的に伝えても構わない。日本で一般に理解されている、いわゆるNHKが制作するようなドキュメンタリーとは似て非なるものですよね。問題提起型というか、地球温暖化や食品添加物をなんとかしましょうというふうに人を動かして社会運動に結びつけるような、アクティビズムのために作られているものって本当にたくさんあって。しかも影響力がすごく大きいんですよ。

―そういうものとは一線を画し、別の方向を意識した?

佐々木 そうですね。特に『ザ・コーヴ』は制作者側の意見を無理やり押し付けるような強引なところがあったので、それはイヤだなと。反論ではなく、そうじゃない方法で伝えられないかなと考えてました。

―問題提起型ドキュメンタリーといえばマイケル・ムーア監督を思い起こしますが、今作はご自分が出演していないのも、彼のようになろうとしているわけではないですもんね。

佐々木 映画に自分を登場させるのはイヤでしたね。ただそれで最初にすごく困ったのは主人公がいないこと。言ってみれば主人公は太地という町なんですけど、観客が登場人物の誰にも寄り添えないところが映画としては不安定だったんですよね。だから途中で、私が出たほうが観客がついて来られるんじゃないかという意見もあったんですけど、そんな時にジェイに会えたので。

―太地町在住の元AP通信記者、ジェイ・アラバスターですね。公正な視点の持ち主という印象で、活動家を否定するわけでもなく冷静に問題点を指摘していました。

佐々木 私と正反対で「合わせ鏡」だと言われたこともありましたね。彼はアメリカ人でありながら日本に長い間住んでいて、私は日本人でありながらアメリカに長年住んでいる。だからすごく客観的に見られるわけです。彼のこの問題への思いは私の考えとすごく一致したので、映画の案内役となってくれて、私の言いたいことを代弁してくれているという感じで。

2014年の暮れに太地町の博物館の学芸員に「アメリカ人が住んでるんだよ」と教えてもらったのがきっかけですが、本人はメディアに出ないように気をつけていたし最初は紹介も渋られて…。でも、4年前の2010年に撮影した活動家と太地町の人の「対話集会」の映像を見返したら偶然映っていたし、もう運命の出会いだなと(笑)! 本当にジェイには救われました。

―ご自分もどういう視点に身を置いていいのか不安だったり、揺らいでいたわけですね?

佐々木 もう揺らぎっぱなしですよ、ずっと(苦笑)!

―その「対話集会」を主催したのは、政治団体「日本世直し会」会長の中平敦さんです。見た目は完全に右翼ですし、よく話しかけたというか映像に残されましたね!

佐々木 最初は怖かったですけどね(笑)。確かに大手のメディアであれば絶対にカメラを向けないと思いますけど、話してみるとすごく面白くて。彼だけがシーシェパードと片言の英語ながら対話しようとしていたし、最初で最後の歴史的な対話集会を主催したのも彼で、「自分たちじゃなくて子供たちの将来を考えなきゃ」とかそういうことを言うわけですよ。

それって話してみなきゃわかんないことで、第一印象で避けちゃうと、その人が何を考えているか理解することもないし。

―ある意味、シーシェパード同様、自分が正義だと思うことに突っ走る気質に見えますが、監督ご自身にも通じるところがあるのでは?

佐々木 そうかもしれないですね。よっぽど大きいものに突き動かされないと動きませんけど(笑)。元々、すごい怠け者なのにどうしてこんな大変なことをやってるんだろうって、この間も考えてましたけどね。映画を作ったり本を書いたりって、一番面倒くさい大変なことじゃないですか(笑)!

◆後編⇒日本だけが批判されるクジラ・イルカ問題――その向こうに今、世界で何が起きているか

(取材・文・撮影/明知真理子)






●佐々木芽生(ささき・めぐみ)






映画監督・プロデューサー。北海道札幌市生まれ。1987年よりニューヨーク在住。フリーのジャーナリストを経て92年よりNHKアメリカ総局勤務、独立して報道番組の取材、制作に携わる。08年の初監督映画『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』は世界30を越える映画祭に正式招待され、数々の賞を受賞。映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』は9月9日からユーロスペース他にて全国順次公開!

関連記事(外部サイト)