口の中の格差は社会の格差ーー歯が悪いと生涯で3200万円損をする?

口の中の格差は社会の格差ーー歯が悪いと生涯で3200万円損をする?

虫歯くらい大したことない…と放置すると、様々な病気になる確率が上がってしまう!?

「芸能人は歯が命」ではなく「一般人も歯が命」――体とは違って日常的にあまり気にかけない“歯”。命に関わるような大病とは無縁のようにも思える。

しかし、歯の健康状態は寿命に関係するというのは『歯は治療してはいけない! あなたの人生を変える歯の新常識』の著者で田北デンタルクリニック院長・日本歯学センター所長田北行宏(たきた・ゆきひろ)氏だ。

「虫歯や歯周病など、大人になると歯の病気は放置しがちです。昔は口の中の病気と体は無関係だと思われていましたが、実は歯ぐきも体もタンパク質でできていて、細菌にとっては栄養分です。そこから細菌が血液中に回っていくというのは当然なんですよ」

「歯は外から見える臓器」であり、細菌の侵入口にもなっている。心筋梗塞、動脈硬化、脳梗塞…どれも死に至る可能性のある病気だ。これらは一見、歯とは関係なさそうだが、歯周病と密接に関わっていると田北氏は話す。

「例えば、歯周病の人は心筋梗塞になる確率が2.8倍だと言われています。心筋梗塞で亡くなった方の血栓を調べたところ歯周病菌が大量に発見されました。つまり血管内に歯周病菌が侵入し、血栓の一部になっていたのです。他にも口腔内には血液凝固させる細菌がいることもわかっています」

脳梗塞も心筋梗塞と同様に歯周病菌が見つかることがある。そして同じく血管が詰まる閉塞性動脈硬化症は発症リスクが歯周病の有無によって5倍も違うという。またこうした血管疾患以外にも、がんや肝炎と関係性が示されるような報告も数多く存在する。

そして病気だけでなく、中年男性が気にするメタボリックシンドロームも歯周病と関係がある。

「歯周病は30代から増加し、40代以上では7割が罹患しているといわれています。いわば“国民病”ともいえる病気ですが、重い歯周病の人は男性で1.3倍、女性で1.5倍、歯周病でない人に比べ、メタボになる確率が高いという調査結果も発表されています」

よく噛むことは肥満防止にもなる。重い歯周病の人は治療によって、まずはしっかり噛める歯を取り戻すことで、メタボ改善につながる可能性もあるのだ。

しかし、なぜ人々は虫歯や歯周病を放置してしまうのか。田北氏は日本の“デンタルIQ”の低さを指摘する。

「日本人は歯に対する関心が低い。欧米では歯を治すのに1本100万円から200万円かかります。それだけ価値のあるものとみんな認識しているんです。アメリカの歯科医師を日本で案内した時、『日本は歯医者ができることがまだまだ山のようにあっていいね』と言われました。それほど日本人は歯に関心を持っている人が少ないんです」

デンタルIQは収入ともリンクしている。本書でも触れられているが、厚生労働省の調査によれば、収入が高い人ほど残っている歯の本数も多い。

「お金がある人ほど寿命が長く健康です。所得によって肥満や生活習慣病の割合が変わるのと同じですよね。でもそれはお金の有無だけではなくて知識の差もある。歯は1本100万円の価値があると言われますが、全部で32本、その重要性を知らなければ歯以外の病気のリスクも上がり、生涯医療費だけで3200万円も損失しているわけですよ」

田北氏いわく「口の中の格差は社会の格差」になっている。親のデンタルIQが低ければ、子供にも伝わる。歯に対して教育やケアがされないからだ。どこかで断ち切らない限り、不健康な歯や口腔は連鎖してしまうのだ。

ただこうした現状があるのは患者側だけのせいではなく、「歯医者の努力が足りないのも一因」と田北氏は指摘する。

「歯の病気がそんなに大変だと思わないのは仕方がないと思います。歯の病気をなくすことで、いかに健康になるかや医療費が削減できるか、快適に過ごせるか知っていただくことが大切。そのためには歯科医同士が啓蒙(けいもう)しあって歯科全体を良くしていかないといけない。予防を軽視する歯科医もまだいますから」

特に歯医者にある“イヤなイメージ”を払拭(ふっしょく)できていないことも問題だという。

「世界で一番不快といわれている歯科医院をいかに快適な場所に変えるか。大切なのは五感ですね。医院の雰囲気や匂いもそうですが、中には脅迫しているかのように指摘する歯科医もいます。大人でも行きにくい環境を作っている。

患者の方々が意識を持って“デンタルIQ”を高めることは大切ですが、そうなるように根本的に歯医者が変わらなければならないと思います」

★11月22日配信予定の後編では、風邪やインフルエンザとの関係、そして虫歯や歯周病の予防法について伺います。

(取材・文/鯨井隆正)

●田北行宏(たきた・ゆきひろ)




1964年、大分県生まれ。アメリカ、サンディエゴで生物学を学んだ後、日本大学松戸歯学部入学。卒業後、日本歯学センターに勤務。あわせてインプラントの発祥地スウェーデンやフィンランドの病院で予防歯科と最先端歯科医療に携わる。父親の故・田北敏行氏は、歯科医師の卒後教育機関を創設した、日本の先端歯科治療の草分け的存在。その遺志を継ぎ、田北デンタルクリニック院長・日本歯学センター所長に2014年就任。日本フィンランドむし歯予防研究会理事。著書に『歯は治療してはいけない! あなたの人生を変える歯の新常識』(講談社+α新書)ほか

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