老人ホーム事故 “夜中の転倒”は何もなかったことにされがち

老人ホーム事故 “夜中の転倒”は何もなかったことにされがち

安心して家族を預けるには?

 全国112自治体に報告されている有料老人ホームで起きた事故は年間1万2200件に上る──本誌・週刊ポスト(6月11日発売号)が調査して分かった衝撃の事実だ。

 事故報告件数原因別ランキング(カッコ内は死亡数)のトップ5は、「骨折」5814件(5)、「誤薬」3726件(0)、「打撲」3351件(3)、「誤嚥/飲食物の飲み込みがうまくいかないこと」357件(72)、「離設/入居者が施設を飛び出してしまうこと」228件(6)の順だった。

 打撲や骨折の原因となる「転倒」は概ね4つのカテゴリーに分類される。「転倒」は転ぶことそのもの、「転落」は椅子などからずり落ちること、「落下」は階段やベッドから落ちること、「不明」は文字通り原因不明の事案だ。事故として扱われない可能性が高いのが「転落」と「不明」だ。介護評論家の佐藤恒伯氏はこう指摘する。

「『転倒』と『落下』は骨折などを伴うことが多いので、報告対象になりやすい。ただ、車椅子やソファーからずり落ちる『転落』はドシンと尻もちをつかない限り事故報告扱いにせず、家族にも知らせない施設がほとんどです」

「転落」も加齢で骨が弱くなっていれば、骨折することもある。しかし、日常的な出来事と認識され、見過ごされる可能性があるのだ。

 廊下の隅にうずくまっているが、どうしてその姿勢になったかわからないような状態が「不明」の転倒だ。痣などの外傷がなければ事故扱いにせず、家族にも報告しない施設が多い。

「夜勤の場合は、数十人をスタッフ1人でケアするのが常態化しています。細かなケアが疎かになる。夜中に起きた『不明』の転倒はそのままベッドに連れ戻して、“何も起きなかったこと”にされやすい」(同前)

 一つ屋根の下で複数の人間が生活する老人ホームでは、人間関係のトラブルも日常茶飯事だ。

「『Aさんがお隣のBさんにキスした』などセクハラ的な事案もある。『入居者間トラブル』だが、心情的にご家族には伝えにくく、両者の家族に伝えませんでした」(関東近郊の介護付き有料老人ホーム職員)

 自治体に報告される事故でも、家族には伝えられない場合が多くある。しかし、施設が家族側に配慮した結果というケースもあるから複雑だ。

「入居者の家族には『いちいち報告されても困る』という方も多い。どこまで伝えるべきか、施設側も苦慮している」(同前)

 事故報告を家族が適切に受けとるにはどうしたらいいのか。

「たとえば“父は嚥下機能が低下しているので、誤嚥に関しては軽微でも報告してください”と入居者の具体的な心配を事前に知らせることが重要です。また“自分が入居者だったら、家族にどこまで伝えてほしいか”と想定してみることも大切です」(佐藤氏)

 人が生活する場である限り、「事故ゼロ」はあり得ない。だが、家族を守る情報と基準は知っておきたい。

●末並俊司(ジャーナリスト)と本誌取材班

※週刊ポスト2018年6月29日号

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