超映画マニアの音楽家の膨大なレビュー【坪内祐三氏書評】

超映画マニアの音楽家の膨大なレビュー【坪内祐三氏書評】

『わたくしのビートルズ 小西康陽のコラム1992-2019』/小西康陽・著

【書評】『わたくしのビートルズ 小西康陽のコラム1992-2019』/小西康陽・著/朝日新聞出版/3300円+税
【評者】坪内祐三(評論家)

 小西康陽は一九五九年生まれだが、早生まれ(誕生日は二月三日)だから一九五八年五月八日生まれの私と同学年だ。私たちは一般にオタク世代だと言われる。私はそれにちょっと異論があってオタクではなくマニアックであると思う(オタクとマニアの違いを説明し始めたら長くなるので省略)。

 実際私はマニアックであるが、小西氏の方がさらにマニアックだ。音楽はもちろん、雑誌(小西氏は中学生の時にはもう『ニューミュージック・マガジン』を定期購読していたというが、私が同誌を読みはじめたのは高校に入ってから)、そして映画。

 今から十数年前、私は浅草名画座を知り、昭和三十年代四十年代の日本映画に目覚めた(年間百本以上見たと思う)。同館が閉館したのちは渋谷のシネマヴェーラ、神保町シアター、ラピュタ阿佐ヶ谷に通い始めた。そんなある時、それらの映画館に小西康陽がいるのを見つけた。いつもいつもいたから、私よりずっと足繁く通っているのに違いない。

 この小西の新刊を読むと、かつては映画狂だった同氏も本業(音楽)が忙しく、つまり二十六年のブランクがあり、また映画を見るようになったのは二〇一三年からだと言う。

 しかしその数がハンパではない。二〇一三年に見たのは五百三十三本で、以降さらに増えているだろう(一日五、六本見る日もざらだ)。もちろんDVDではなく映画館でだ。

 巻末にその二〇一三年から二〇一八年に至る日記が載っている。教えられたことは数多い。例えば田宮二郎主演の『夜の縄張り』で、田宮が経営するレストランの入口のショウケースの上で『話の特集』が販売されていた(二〇一三・五・九)とか、降旗康男監督の『裏切りの暗黒街』は一九六八年の渋谷と原宿が描かれている(二〇一六・六・二)とか。次に上映される機会は絶対に見逃さない。それからシネマヴェーラのあとでタコベルのタコスを食べなければ(二〇一五・十一・四)。

※週刊ポスト2019年6月14日号

わたくしのビートルズ 小西康陽のコラム1992-2019

関連記事(外部サイト)