元気で長生きするためには「貯金」と「貯筋」が必要と鎌田實氏

元気で長生きするためには「貯金」と「貯筋」が必要と鎌田實氏

諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師

 金融庁の審議会による報告書が、「老後生活で2000万円が不足する」と示したことが世間をざわつかせている。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師は、貯金も必要だが、貯筋、生活習慣や加齢によって痩せていく筋肉を維持し少しでも上向きにする「貯筋」をすすめ、自分の身を自分で守る意識の大切さについて説く。

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 ぼくはこれまで、人生100年時代を元気に生きるには「貯金より貯筋が大事」と言ってきた。だが、金融庁の審議会が、人生100年時代に備えて、おのおの資産形成すべしとまとめた報告書によると、「貯金も、貯筋も」必要になるということだ。

「貯金」と「貯筋」がある人とない人では、老後の健康やQOLの格差は大きくなるだろう。長生きするのも、なかなかつらい時代になったものだ。

「貯筋」といっても、筋肉ムキムキになる必要はない。筋肉は、生活習慣や加齢によって、どんどん痩せていく。この下り坂をできるだけ平坦にしたり、やや上り坂に近づけたりすることが「貯筋」である。

 たとえば、日本整形外科学会が行なっている「ロコモ度テスト」がある。高さ40cmの台に座って、片足で立ち上がることができないと、ロコモ度1と判定される。ロコモ度1の人は、筋力の低下が始まっており、運動を習慣づけながら、たんぱく質やカルシウムなどを含んだ食事をとることをすすめている。

 群馬県中之条町で、65歳以上の町民を対象に10数年にわたって行なわれた有名な調査がある。中之条スタディという。健康維持や病気の予防にはどの程度の運動をすればいいのか、町民に身体活動計をつけてもらい、24時間365日の活動の状況を記録した。

 その結果、高血圧や糖尿病、骨粗しょう症、がん、認知症、脳卒中、うつ病などの予防効果がある運動は、「一日8000歩、そのうち速歩きなどの中強度の運動を20分間」ということがわかった。

 ウォーキングをする人は、一日8000歩を目標にしている人が多いが、速歩き20分間というのもポイントなのだ。速歩きと遅歩きを交互に繰り返すインターバル速歩をぜひ、やってみてほしい。

 この8000歩、速歩き20分という運動を日常的に続けるには、筋力が必要だ。サルコペニア(加齢性筋肉減少症)やフレイル(虚弱)などで筋肉の量が減ってしまうと、歩行スピードが低下し、運動量も運動強度も不足してしまう。

 そこで、ぼくは下肢の筋肉を鍛えるスクワットと、骨を丈夫にするかかと落としを広めてきた。この数年、講演会場でも実演し、来場者にもその場でやってもらっている。2000人の会場が総立ちでスクワットをする光景は、ロックコンサートのような迫力だ。

 その方法を詳しく書いた『鎌田式「スクワット」と「かかと落とし」』(集英社)は、すぐに増刷がかかり、たくさんの人が実践してくれている。

 運動には、「慢性炎症」を抑えるという効果も期待できる。慢性炎症とは、じわじわとくすぶるように炎症が続くこと。慢性炎症は老化に伴って起こりやすく、慢性炎症が起こると老化が加速するという悪循環に陥る。

 慢性炎症は、老化にかかわる多くの病気のベースになると考えられている。認知症もその一つ。「アルツハイマー病もきっかけは慢性炎症である」と、弘前大学医学部長で脳神経病理の若林孝一教授は話していた。

 動脈硬化や脳卒中、心筋梗塞も、慢性炎症によって起こることがわかってきた。糖尿病の人は脳卒中や認知症のリスクが高いが、血糖値が上がることで慢性炎症が進むためと考えられている。

 がんも、きっかけは慢性炎症が関係しているといわれている。久留米大学の川口巧講師は、九州の講演会でご一緒したとき、脂肪肝から肝硬変や肝臓がんに移行する例が増えていると話していた。

 肝臓がんは、B型肝炎やC型肝炎のウィルスを由来とするものだけではない。脂肪肝は、日本に1000万人近くいるというが、この人たちも肝臓がんのリスクが高いのだ。

 川口講師は、肝臓病の運動療法に詳しい。脂肪肝から肝臓がんへと進行させないために、スクワットと10分程度のウォーキングをすすめていた。健康づくりのために、スクワットとかかと落とし、今よりあと10分長いウォーキングをすすめているぼくとしては、とても心強い思いがした。

 また、がん遺伝子があったとしても、遺伝子のスイッチがオンにならなければ、がんにならない。その遺伝子のスイッチをオンにするのも、慢性炎症ではないかという説がある。

 こうしてみると、慢性炎症は多くの病気にかかわっており、慢性炎症を抑えることが健康づくりのキモであることがわかる。老化−慢性炎症−病気という負のスパイラルを断ち切るためにも、ぜひ、運動習慣を身に付けてもらいたい。

 今回は省略するが、慢性炎症を防ぐもう一つの方法として、野菜をたっぷり食べる「ベジ活」を、ぼくはすすめている。野菜の色素がもつ抗酸化力が慢性炎症を抑えてくれる。

 人間の体は、使わないと急速に衰えていく。使ってこそ意味があるのは、お金にも、筋肉にも共通して言えることである。

 今回の「年金は当てにするなよ」という政府の居直りと、異例の「受け取らない」問題にはあきれてものが言えない。だが、そんな政府に振り回されることなく、いくつになっても元気に動き回れる体を維持できるように、自分の身は自分で守るという意識は忘れてはならない。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。

※週刊ポスト2019年7月12日号

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