大雨で罹災する確率は0.5%、では交通事故で死亡する確率は?

大雨で罹災する確率は0.5%、では交通事故で死亡する確率は?

歩行者や搭乗者が死亡する痛ましい交通事故は後を絶たない

 人はさまざまなリスクに晒されている。いつなんどき災害や事故で、命を落とすかも分からない。まさに一寸先は闇だ。ではリスクの発生確率はどのくらいあるのか。また、確率をみるうえで、何に注意すべきなのか。『できる人は統計思考で判断する』(三笠書房)著者でニッセイ基礎研究所主席研究員の篠原拓也氏が、既存の統計データを使って説明する。

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 現代社会では、毎日さまざまな事件や事故が起きている。歩行者や搭乗者が死亡するという、痛ましい自動車事故のニュースも後を絶たない。また、台風や大雨などの自然災害も、全国あちこちで発生している。

 古来より、人は生きていくうえでさまざまなリスクに晒されてきた。こうしたリスクに対して対策を打つためには、まず、リスクと向き合わなくてはならない。その第一歩として、リスクの起こりやすさを「発生確率」という数字で表してみることが重要となる。ところが、この確率はなかなかのくせものなのだ。

 そもそも、確率とはどういうものか。改めて考えてみよう。確率は必ず0から100%までの値をとる。確率が200%とか、マイナス50%とかということは絶対にない。そして、確率の数値が大きいほど、出来事が発生する可能性が高いことを表す。

 確率の計算をするときには、少し注意が必要となる。具体例で見ていくことにしよう。

 かつて地震調査研究推進本部地震調査委員会が公表した報告書では、日本における自然災害や事故などの発生確率が参考として示されている。それによると、30年の間に災害、事故、事件で被害をこうむる確率は、以下のようになる。

【災害】
・大雨で罹災する確率は0.50%、死傷する確率は0.002%
・台風で罹災する確率は0.48%、死傷する確率は0.007%

【事故】
・火災で罹災する確率は1.9%、死傷する確率は0.24%
・交通事故で負傷する確率は24%、死亡する確率は0.20%
・航空機事故で死亡する確率は0.002%

【事件】
・空き巣ねらいに遭う確率は3.4%
・ひったくりに遭う確率は1.2%
・すりに遭う確率は0.58%
・強盗に遭う確率は0.16%
・殺人事件の被害者となる確率は、0.03%

 もちろんこれらの確率は、日本中の誰でもどこに居ても同じというわけではない。例えば、大雨の場合、がけや急傾斜地では、がけ崩れ、地すべり、土石流による土砂災害が起こりやすい。一度、大雨により地盤が緩くなっている地域は、再度の大雨で被害が起こりやすいとも言われる。

 また台風の場合、海の沿岸部では高波や高潮、河川区域では氾濫(洪水)による浸水被害が発生しやすい。このように、自然災害や事故などが発生する前提にはバラツキがある。

 さて、こうした発生確率を見るうえで、注意すべきことがある。いくつかの出来事が重なった複雑な出来事の発生確率を考える際には、それぞれの出来事はお互いに影響し合わないか、つまり無関係かどうかという点だ。無関係であれば、それぞれの出来事の発生確率を掛け算したものが、それらの出来事すべてが発生する確率に等しくなる。

 先ほどの災害や事故などの発生確率で、交通事故での負傷と、航空機事故での死亡が無関係な出来事であると仮定すれば、30年の間にその両方に遭遇してしまう確率は、0.00048%(=24%×0.002%)となる。これは、約21万人に1人の確率であり、このようなことは、かなり小さな確率でしか起こらないと言えるだろう。

 しかし、それぞれの出来事が無関係でない場合には、単純に発生確率を掛け算しても正しい答えは得られない。

 例えば、交通事故での負傷と、交通事故での死亡とでは、どうだろうか。この2つはどちらも交通事故を原因としていて、無関係な出来事とは言えないだろう。通常、交通事故による負傷の程度がひどい場合に、死亡に至ってしまうものと考えられる。

 この場合、30年間で交通事故での負傷と、交通事故での死亡の両方をこうむる確率は、0.048%(=24%×0.20%)と計算してはいけない。死亡が負傷の延長線上にある、つまり死亡する人は負傷もしているとすれば、両方をこうむる確率は、死亡の確率と同じ0.20%と見るのが妥当だからだ。これは500人に1人の確率だ。交通事故での負傷と、航空機事故での死亡の両方に遭遇する確率に比べると、だいぶ高いと言える。

 ただし、現実の社会では、それぞれの出来事が完全に無関係だと言い切れることは少ない。つまり、確率の掛け算ができないことが多い。例えば、

・1週間後に、株価の上昇と金利の上昇がいずれも生じる確率は、それぞれの確率の積(掛け算の答え)と見るべきではないだろう。
・ある人がこの先5年間に、高血圧と脳卒中の両方にかかる確率は、それぞれの確率の積ではないだろう。
・プロ野球で、あるチームが、セ・パ交流戦に優勝することと、その年の日本シリーズに進出して日本一になることを、両方達成する確率は、それぞれの確率の積ではないだろう。
・今後10年間に、アフリカの砂漠面積の拡大と日本の台風到来数の増加が、両方生じる確率は、(明確に言い切れるものではないものの)グローバルな気象動向を踏まえれば、それぞれの確率の積と見るべきではないだろう。

 最後に、出来事の発生確率に関して、次のような笑い話があるので紹介する。

◆ある飛行機の航行中の操縦室での会話

 副機長が、機長にこんなことを話した。

「この飛行機に搭載されているエンジンが1基、故障で働かなくなる確率は、10万回のフライトに1回だそうです。この飛行機には、エンジンが2基ついていますから、両方とも故障して墜落してしまう確率は、10万分の1かける10万分の1、つまり100億分の1となります。これなら、まず、安心ですね」

 2つのエンジンの電気系統や燃料注入の仕組みなどが、完全に無関係に作動するものである保証はない。また、2つのエンジンの点検や整備が、互いに無関係に、別々に行われるとも限らないだろう。

 このように考えると、2基のエンジンの故障が無関係に起こるとは言い切れない。無関係であることが確認できなければ、確率の掛け算はできない。この機長は、副機長に対して、確率についての教育をしなくてはならないだろう。

 このような笑い話で済んでいるうちは、まだいい。複雑な出来事の発生確率をみる上では、それぞれの出来事が無関係かどうかを冷静に考えることが、正しい理解や判断のために重要と言えるだろう。

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