ハーバード大論文 主治医が高齢になるにつれ死亡率上昇

ハーバード大論文 主治医が高齢になるにつれ死亡率上昇

主治医の高齢化がもたらす影響は?

「医者と坊主は年寄が良い」「医者と味噌は古いほど良い」というように、一般的に「年配で経験豊富な医師のほうが、若く経験が乏しい医師よりも優れている」とされる。だが、その定説を覆す衝撃の論文が発表された。

 主治医の年齢が60歳以上になると患者の死亡率が急上昇する──米ハーバード公衆衛生大学院の研究者で内科医の津川友介氏らが、英国の医学雑誌の権威『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』(5月16日付)に発表した論文の要旨である。

 津川氏らは、2011~2014年に内科系の疾患で米国の病院に入院した65歳以上の患者約73万人の主治医1万8854人について、年齢や性別、どの大学を何年に卒業したか、どんな医学研修を受けてきたか、といった経歴が、患者の「30日死亡率」(入院してから30日以内に死亡する割合)にどう影響するのかを検証した。

 その結果、「年齢」に関して驚きのデータが出た。40歳以下の若手医師が担当したケースの30日死亡率が10.8%だったのに対し、40代だと11.1%、50代なら11.3%となった。さらに60歳以上になると12.1%と、主治医が高齢になるにつれて死亡率は上がっていったのである。

 自分の命を預ける主治医には、経験豊富な医師に就いてもらいたいと思うのは当然の話だ。息子くらいの年齢の医師に診てもらうより、同年代のベテラン医師のほうが安心できるという人は少なくないだろう。しかし、今回のデータはそのイメージを大きく覆すものだ。米国の医療事情に詳しい医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が解説する。

「近年、米国では医師に対する患者の目が厳しくなっており、『医師の能力を測るための評価基準』を作ろうという運動が盛んです。ただし、日本と同様に米国でも医師の世界は“職人の世界”であるため、評価基準を定めること自体が難しい。

 そんななかで、様々な切り口で医師の能力に関する科学的なデータを示す論文が出始めています。1月には『医師の性別によって医療技術は変化するのか』といった内容の研究も報告された。今回の津川氏の論文も一連の流れの中にあるものです」

 医師の年齢と技術に着目した理由について、津川氏はブログで、

〈患者は一般的にある程度年齢の上の医師を好む傾向があると思われますが、それが本当に腕の良い医師に見てもらっていることになるのかどうかは考え直す必要がある〉

 としている。そして論文中では、診療ガイドラインが医学の進歩とともに変化することによって、ベテラン医師の経験や技術が“時代遅れ”になる可能性もあると指摘している。

 また、医学的な訓練を受ける機会の少ない医師ほど、エビデンス(医学的根拠)に基づく最新のガイドラインや新しい治療法を利用しようとせず、古い理論に頼りがちであるとも分析した。つまり「日進月歩の医療の世界では、過去の経験が“足枷”となり、患者の治療に悪影響を与えかねない」と指摘しているのだ。

 医療現場にもそうした実感はあるようだ。都内の大学病院に勤務する現役看護師はこう語る。

「せっかく内視鏡手術の最新技術の研修会があっても、60歳を超えたベテラン教授の中には『10歳も20歳も若い医師と同席なんてできない』とこぼす人が少なくない。プライドが邪魔して新しい施術を取得できないドクターが多いと感じます」

※週刊ポスト2017年6月9日号

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