大分発「異次元のやきそば」一子相伝ソースと唯一無二の焼き

大分発「異次元のやきそば」一子相伝ソースと唯一無二の焼き

大分の日田焼そばは「想夫恋」から始まった

 東京ではほとんど知られていない九州人のソウルフードとも言えるやきそばをご存じだろうか。それは「日田焼そば」だ。このやきそば、あるひとつのお店から始まった。その名は「想夫恋(そうふれん)」。いまや九州はもちろん東海地区そして関東にいたるまで40店舗以上を展開している。しかし、東京では九州出身者や一部のファンにしか知られていない存在だ。

 一般的なやきそばと「日田焼そば」の最も大きな違いは、その調理法にある。前者が蒸し麺を炒めるのに対して後者は生麺をしっかり焦げ目が付くくらいに焼く。パリパリサクサクの食感はまさに唯一無二。

「想夫恋」の素材へのこだわりは尋常ではない。主役である麺は自家製麺。外部の業者に発注した時期もあったが、週に2日しか納得いくものが納められなかったことから自社生産に踏み切ったという。ローラーなど器具に関する研究も怠りなく、熟成させた麺は独特の粘りを生む。

 麺に勝るとも劣らない存在感を発揮するもやしも自社生産で、肉も自社加工。捌かれた豚肉を実際に見て買い付ける。もち豚の様々な部位を厚切りでカット。満足感ある食べ応えにつながっている。

 ソースは一子相伝の味。社長夫人とその母(創業者夫人)のみが製法を知る。ソースに使われるトマトも自社栽培というから驚かされる。また、焼き加減が重要な伝統の味は、熟練のスタッフによって受け継がれている。中には勤続30年のベテランもいるという。

◆「毎日食べられる味」を

 ベストな状態の食材を用意することに力を尽くし、その上で調理場の鉄板の上でも決して努力を怠らない──想夫恋が目指すのは「毎日食べられる味」だという。なるほど、確かにスパイスは主張しすぎないし、ソースの味も濃くはなく、濃厚な味付けの最近のやきそばに比すると割とあっさりしている。

 しかしなぜだろう、しっかり印象に残る。これはすでにやきそばという範疇にないのかも知れない。角弘起・社長は「これはやきそばというより、『想夫恋焼』です」と力説した。

 九州で生まれ育った私にとって、想夫恋のやきそばは郷愁の味でもある。思い出は、時に美化される。しかし、この味はノスタルジーと共に訪れても裏切らない。これからも受け継がれていくだろうこの一皿はまさにご当地の味であり、いつまでも熱くあり続ける。

取材・文■梶原由景:LOWERCASE代表。元BEAMS・クリエイティブディレクター。ファッション業界きっての食通として知られる。グルメ情報満載のブログはファン多数。J:COMの人気番組『どやメシ紀行』をプロデュースする。著書に『TRANSIT TOKYOごはん』など。

撮影■松隈直樹

※週刊ポスト2017年6月16日号

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