噴火中の島にも海鳥を追う学者 熱すぎる情熱で言葉止まらぬ

噴火中の島にも海鳥を追う学者 熱すぎる情熱で言葉止まらぬ

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の川上和人氏

「船で24時間かかって小笠原諸島の父島に到着したところです。毎年やっている調査で、これから1か月半滞在して、10島ほど無人島を回って海鳥などの生態調査をする予定です。

 今は雨がザーザー降っています。雨が降ると鳥は飛ばないし、普段とは違う行動をして調査ができません。まあ、そういう天気なので仕方ないでしょう。小笠原はもうすぐ梅雨が明けるので、そうすると海も凪いで調査にうってつけの季節になる。ほら、無人島って桟橋とかないので、海が穏やかじゃないと上陸できないんですよ。

 今日ですか? 別の仕事で、噴火中の西之島(東京都)の周囲をクルーズ船で見てきました。地響きのような音を響かせて噴火していましたよ。去年は上陸して海鳥の調査ができたんですけど」

 電話の向こうで、川上和人氏(44)はそう話した。同氏は国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の主任研究員で、ベストセラー『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』の著者である。

 取材依頼をすると研究所のスタッフが、「先生は今日から出張なんですよ……」と応対。戻ってきたところで取材したいと伝えると「いや、離島に行ってしまって、1か月以上は戻りません」というのである。

 慌てて本人の携帯番号を教えてもらい電話すると、「2日後に小笠原で時間がとれるので、電話でどうぞ」と明るい声で返答があり、なんとか取材が成立した。

 著書は、軽妙な筆致とちりばめられたギャグですらすら読み進められるうえ、行間からは鳥類に対する愛がにじみ出る。何より“研究のためなら何でもやる”という情熱が凄まじいのだ。火山活動が活発な西之島にも、川上氏は1995年と2004年に上陸調査を行なっている。

 2013年11月の噴火で一度は調査の術を失うが、翌年にNHKの協力を得て無人飛行機で島にいる海鳥を撮影する“プロジェクト”に参加。高度を下げすぎて無人機のプロペラに噴石が当たって破損するといったアクシデントに見舞われながらも、3回目の挑戦で見事にカツオドリの姿をカメラで捉え、生息を確認したという。

「さすがに噴火中の島は危ないから行きたくない。でも、そこには生物がいる。それは見たい。なので、今はドローンを飛ばして調査することを考えています。内地にいる時は操縦の特訓をしています(笑い)」(川上氏)

 小笠原諸島だけでなく、川上氏は八重山諸島、さらには海外のボルネオ島や無人島の森に分け入って調査を行なう。断崖絶壁に囲まれ、港もない無人の南硫黄島に上陸するため、前年からスイミングプールで泳力を、クライミングジムで垂直の壁を登る力を鍛えるなど、フットワークの軽さは尋常でない。川上氏はこういう。

「あくまで仕事なので危険なことはしちゃいけないと思っています。ただ、調査しやすい場所の調査はすでに、終わっているので、必然的に過酷になっていくんです」

 大量に小バエを飲み込んでしまったり、耳の中に蛾が飛び込んで取れなくなったりと、不快な思いもしょっちゅうあるという。

「海鳥がどこにどのくらいの数、生息しているかは生態系にも様々なかたちで重要な影響を与えます。海鳥のフンや尿には窒素やリン酸など植物にとっての栄養分が含まれている。人間が持ち込んだ外来生物によって海鳥が一度減ってしまった後に、外来生物を駆除すると陸地の窒素やリン酸も増えるのか、とかそういうことを調べていく。

 とにかく、研究成果が出た瞬間というのは、世界中の誰も知らないことを自分だけが知っているという状態なんです。世界中になかった知識がひとつ増える、それを増やしたのは自分。研究者としてそれはたまらない瞬間で、みんなに教えたい、伝えたい、という気持ちになる」

 研究の醍醐味を語る受話器越しの川上氏の言葉は止まらなかった。

※週刊ポスト2017年6月23日号

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