漫画『謝男』作者・板垣恵介氏「究極の手土産は土下座だ」

漫画『謝男』作者・板垣恵介氏「究極の手土産は土下座だ」

『どげせん』『謝男』の作者である漫画家・板垣恵介氏

 初対面の挨拶、無理なお願い、失敗の謝罪やお世話になったお礼──ビジネスやプライベートの大切なシーンにおいて、手土産は極めて重要だ。相手の心に必ず残る手土産は何なのか? 『どげせん』『謝男(シャーマン)』などで知られる漫画家の板垣恵介氏が、“究極の手土産”について語る。

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 手土産は自分の気持ちを相手に伝えるときに、気持ちに添える「目に見えるモノ」。だから、相手に気持ちを伝える“究極の手段”としての「土下座」も、まさに「手土産」のひとつだと思いますね。

『謝男』(日本文芸社刊)で描いたのは、高校教師が生徒に「土下座」という手段を使い、世の理を分からせるというストーリー。本来、教師は生徒の前では圧倒的強者ですよね。その強者が、弱者であるはずの生徒に向かって土下座する。ドラマが生まれる。

 土下座をテーマにした作品を描こうと思ったのは、自分自身の気づきから。ある恩人に対して、ギブアンドテイクの「テイク」ばかりが多くなって、本能的に心苦しく感じるようになった時期がありました。どうやったらそこから解放されるのかと思案したとき「この人の足元にひれ伏したら気持ちが楽になるだろうな」と感じたんです。そこから、〈謝りたいと感じる〉その気持ちこそ〈感謝〉ではないか、と思い至ったんですよ。

 自分は他人に土下座したことはないけど、されたことが2度あります。それも、同じ編集者に2度。思い返せば、これが「最強の手土産」だったかもしれない。だって、10年経ってもその情景がまざまざと思い出せるんですから。

 大の男が、その地位と誇りを捨てて、足元にひれ伏す──実際にやられると、かなり“暴力性”がある! と感じました。相手にダメージを与える力がある「危険な手土産」なんです。だから実際に使うなら、一世一代の本当に追い詰められたときだけにすべき。

 いわゆる手土産の話でいえば、あげる方が好きかもしれない。自衛官時代、何日も野山に籠もる厳しい演習の最中に誕生日を迎える同期がいて。そいつが好きなウイスキーをサプライズでプレゼントしたんですよ。深い山の中でそんなものを貰えると思ってなかったようで、かなり喜んでもらえた思い出があります。

 結局、土下座も手土産も、相手に思いを馳せる「気持ち」が大事。それがなければ、どちらも空虚で悪質なものにしかなりかねないでしょう。

【プロフィール】いたがき・けいすけ/1957年北海道出身。陸上自衛隊習志野第一空挺団に5年所属。この間にアマチュアボクシングで国体出場。30歳で漫画原作者の小池一夫氏が主宰する劇画村塾に入り漫画家デビュー。代表作は「刃牙」シリーズ、『餓狼伝』(原作・夢枕獏)ほか。

撮影■タナカヨシトモ

※週刊ポスト2017年6月23日号

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