「睡眠負債」がたまると肥満やがんリスクにつながる恐れ

「睡眠負債」がたまると肥満やがんリスクにつながる恐れ

睡眠負債でさまざまなリスクが増大

 毎日1~2時間の寝不足が借金のように積み重なり、やがて“債務超過”に陥ると、がん、認知症などをはじめとする重大な疾病を発症させる恐れがある。それが「睡眠負債」だ。6月18日に放送された『NHKスペシャル』でも〈睡眠負債が危ない~“ちょっと寝不足”が命を縮める~〉と題してこの問題を大きく取り上げ、話題を呼んでいる。

 睡眠負債の蓄積が体内に与える影響の一つにストレスホルモンの増加がある。脳神経科学などを専門とする枝川義邦・早稲田大学研究戦略センター教授が解説する。

「たとえば慢性的な睡眠不足によってコレチゾールと呼ばれるホルモンが多く分泌されるようになり、これは記憶を司る脳の海馬の働きを阻害します。また、睡眠中には脳内のアミロイドβと呼ばれる老廃物が排出されていきますが、睡眠不足が重なると排出がうまくいかずアルツハイマー型認知症の発症リスクが高まることがわかってきています」

 アミロイドβについては、認知症が発症する10~20年前から脳内での蓄積が始まることが近年、明らかになってきている。若い頃の睡眠不足の積み重ねが、高齢になった時の認知症の一因となっている可能性があるわけだ。

「フィンランドで40~50代の被験者の睡眠時間と、その後の認知症リスクを調査した実験では、睡眠時間が7時間未満の人の発症リスクが7~8時間の人の1.59倍だったという結果が出ています」(医療経済ジャーナリスト・室井一辰氏)

 睡眠負債とがんリスクの関係にも注目が集まる。東北大学が2008年に公表した2万2000人の男性の追跡調査結果では、睡眠時間が7時間未満の男性は、7~8時間の男性に比べて、前立腺がん発症率が1.38倍高いことが明らかになった。『Nスペ』にも出演して警告を発した睡眠評価研究機構代表・白川修一郎氏はこういう。

「大腸がんの発症リスクは、睡眠時間が長いほど低くなることがわかっています。がんと睡眠負債の関係については解明されていない部分も多く、今後の研究が待たれるところですが、がん細胞などを攻撃する免疫機能のはたらきに悪影響を与えることが関係すると考えられています」

 さらには睡眠負債によって、血圧や血糖レベルが高まるリスクも指摘されている。高血圧や糖尿病といった生活習慣病への罹患リスクが高まるということだ。白川氏が続ける。

「体内のホルモンバランスに影響を与え、肥満につながると示唆する研究もあります。2004年のスタンフォード大の研究では、5時間睡眠の人は8時間睡眠の人と比べて、血中グレリン(食欲を増進させるホルモン)が14.9%増加し、血中レプチン(食欲を抑えるホルモン)が15.5%減少すると報告されました。

 また国内の研究では、男性約2600人を8年間追跡調査した結果、不眠症状が続くと2型糖尿病の発症リスクが2~3倍高くなるとする結果が出ています」

 糖尿病は透析治療が必要になったり、合併症を発症したりと、患者のQOL(生活の質)を大きく損なう病として知られる。睡眠不足の積み重ねは、健康寿命を大きく縮めるリスクをはらんでいる。前出・室井氏がいう。

「昨年発表されたイタリアのジェノア大の研究グループの調査では、睡眠負債を抱えたドライバーの事故率は、そうでない人の1.72倍になるという結果が出ています。がんや糖尿病、認知症や心臓疾患などさまざまな疾病と睡眠負債の因果関係についての研究が今後も進められていくとみられています」

※週刊ポスト2017年7月7日号

関連記事(外部サイト)