死を告げられても人の声は聞こえている、は本当か

死を告げられても人の声は聞こえている、は本当か

天国に旅立つ人への声かけはムダではない?

 死を迎えるその時、人の「最後の記憶」は何になるのだろうか──当然だが、その答えは死ななければ知ることができない。だが、多角的に検証してみると、今際の際まで人の感覚として残っているのは「聴覚」なのだという。

 大人気ドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)に登場した台詞が話題になっている。6月14日放送回で、シナリオライターの主人公・菊村栄(石坂浩二・76)は、老人ホームの仲間である“大納言”こと岩倉正臣(山本圭・76)や“マロ”こと真野六郎(ミッキー・カーチス・78)と釣りに興じていた。なかなか釣果の上がらない3人は、近い将来訪れるであろう自分たちの「死の瞬間」について語り出す。

 そんな中、大納言が「知ってる?」と切り出した。

「人間が死ぬとき、聴覚だけは最後まで長く生きているらしいね」

 それを聞いた2人は、「え!」と驚きの声を上げた──。

「死の瞬間も声だけは聞こえている」という話は、どうやらドラマの“創作”ではないらしい。

 ちなみに「聴覚 死」というキーワードでインターネット検索してみると、〈聴覚は最後まで残る感覚〉〈死後数分は聴覚が生きていて、聞こえていると聞いたのですが本当でしょうか〉〈死んだ直後も人間は人の話し声が聞こえる〉などの記述にヒットする。

 実は、そうした説を裏付けるような科学的な研究結果もある。2014年10月、英国・サウサンプトン大学の研究チームが学術誌『Resuscitation(蘇生)』電子版に以下のような内容の論文を発表した。

 同チームは英国、オーストリア、米国などで、心停止から蘇生した患者330人のうち、101人に対して聞き取り調査を実施した。すると39%の患者が、心臓が再始動する前にも意識を自覚していたとの結果が出たのだ。

 さらに患者の1人は、研究者らが3分間隔で鳴らしたブザー音を「2回聞いた」とも証言した。その調査結果からは、人は心停止の後も周囲の音を認識していることが推測できる。『臨終の七不思議』(三五館)の著者で、医学博士の志賀貢氏もこう話す。

「2007年に米ニュース雑誌『TIME』に掲載された、複数の米病院からの調査報告によれば、病気や事故で心停止が起こり、緊急治療によって蘇生した人の4~18%が『誰かが耳元で名前を呼んでいる声が聞こえた』と証言しています」

 なぜこのようなことが起こるのか。それを解き明かす研究データがある。

 今年3月、カナダ・ウェスタンオンタリオ大学の研究者が科学専門誌に発表した研究によれば、生命維持装置を取り除かれた4人の末期患者の心拍と脳波を測定したところ、そのうち1人は心臓と血流が停止した後も10分間にわたって脳波が観測された。緩和ケアに携わる東海大学健康科学部の渡辺俊之・教授が解説する。

「心臓が止まり、脳に血流が行かなくなった後も脳が活動を維持している場合があることを示す興味深い研究結果といえます」

◆遺族は会話にご用心

 臨終間際から亡くなる時まで、医師や看護師から「ご家族は声を掛け続けてあげてください」と促されることがある。実はこの言葉には重要な意味があるという。25年にわたり、約250人の患者を看取ってきた「日本看取り士会」の柴田久美子・会長の話。

「看取りの際の『声かけ』には患者の痛みや死への恐怖を和らげる効果があります。亡くなる直前に苦しげな表情を浮かべていた患者さんにご家族が『いままでありがとう』と話しかけると、穏やかな表情になり、そのまま亡くなっていったというケースも見たことがあります。声かけだけでなく、患者さんが好きだった曲を枕元で歌ってあげたりするのも有効です」

 ただし、患っていた病気によっては「声が聞こえなくなる」ことも推測される。

「脳梗塞で側頭葉近くの血管が破裂した場合などは死亡時は聴覚を失っていると考えられます」(志賀氏)

 もし多くの死者に家族の声が聞こえているとしたら、天国に旅立つ人への声かけは「安らかに送り出す」ための最高のはなむけといえるだろう。

※週刊ポスト2017年7月7日号

関連記事(外部サイト)