余命3か月宣告された35歳女性 死を覚悟し家族とピース写真

余命3か月宣告された35歳女性 死を覚悟し家族とピース写真

日本在宅ホスピス協会会長の小笠原文雄医師

 住み慣れた我が家から旅立ちたい──そう願う人は5割に上る(内閣府調査)が、現実には亡くなる人の8割が病院や診療所などで死を迎えている(厚労省調べ)。在宅死は贅沢な望みなのか。

「決してそんなことはありません。一人暮らしでも、認知症であっても、家で最期を迎えることはできます」

 そう話すのは、1000人以上の在宅看取りをしてきた小笠原文雄医師(日本在宅ホスピス協会会長)だ。小笠原医師が上梓した書籍『なんとめでたいご臨終』には、死を迎える人や見送った家族、そして在宅医療チームが集まってピースする“記念写真”が多数掲載されている。

 35歳という若さで胃がんと卵巣、肺への転移が見つかり、主治医から余命3か月と宣告された堀純子さん(仮名)。2人の幼子を残して逝く無念さを内に秘めつつも、まっすぐ前を見て笑顔でピースしている。

 そんな堀さんも、小笠原医師が最初に往診したときは、何を聞いても「死にたい」と繰り返すばかりだった。意を決して、小笠原医師はこう語りかけた。

「『死にたい』っていうけど、この中で一番最初に死ぬのは誰だと思う?」

 一瞬で空気が張りつめた。

「わ……私でしょ」

「そうだねぇ。ここにいるみんながそう思っているよ。だけど、死にたいといっていると、免疫力が下がって本当に早く死んでしまうよ。よく寝て、心と身体を暖めて笑うと、3割の人は長生きできる。お盆に子供と旅行できるかもしれないよ」

 それ以来、堀さんは「死にたい」といわなくなった。がんが見つかってから避けていた友人とも積極的に会い、子供のサッカーの試合も応援に行った。子供たちと温泉にも出かけた。そうしたことは入院治療ではなかなか許されなかっただろう。

 6か月後、野球観戦中の小笠原医師に訪問看護師から「堀さんの脈が触れません」と連絡が入った。血圧が落ち、脈が触れなくなると、穏やかにすーっと亡くなるのが普通だという。

 そこで小笠原医師は「じゃあ、そろそろお別れだね」と答えたが、何か胸騒ぎがして観戦を切り上げた。すると、堀さんの夫から「妻がゼイゼイ苦しんでいます」という電話があった。

 慌てて緊急往診に向かうと、堀さんはまだ苦しそうに呼吸している。常識では考えられない状況だった。

 小笠原医師はハッと思い出した。以前、堀さんに早く寝るよう勧めたら、「夫より先には寝ない」と話していたことを。

 そこで、小笠原医師は急いで帰り、夫と子供たちが堀さんと布団を並べて一緒に寝た。2時間後、目を覚ました夫が、妻が穏やかな顔で亡くなっているのに気づいたという。

「在宅看取りの現場ではこういう不思議なことが起きる。遠くの孫の到着を待って旅立つとか、『一人で死にたい』といっていた人が、誰もいないときを見計らったかのように亡くなるとか。意識がなくても、死ぬ間際に人は何かを感じ取っているのかもしれません」

※週刊ポスト2017年7月7日号

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