国内初調査結果、欧米型の食事でも死亡リスクが減った

国内初調査結果、欧米型の食事でも死亡リスクが減った

鎌田實医師が食とのつきあい方をかたる

 日本の伝統的な食事は健康に良い、と信じている人は少なくない。そんな思い込みを覆す研究結果をもとに、鎌田實医師が、幸せに生きるために、おいしく、楽しく、食をつきあう方法を考える。

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 クイズを出そう。次の3つの食事のうち、最も健康にいいのはどれだろうか。

【A】野菜や果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海そう類、脂の多い魚、緑茶など
【B】肉類・加工肉、パン、果物ジュース、コーヒー、ソフトドリンク、マヨネーズ、乳製品など
【C】ご飯、みそ汁、漬物、魚介類、果物など

「それは、Aに決まっている」と答えた人は、なかなかの健康情報通。「日本食は世界遺産にもなったのだから、やっぱりCではないか」という人もいるかもしない。

 その一方で、Bは健康に悪そうな印象をもつ人が多いのではないだろうか。

 ところが、その予想に反する研究結果が先月、発表された。国立がん研究センターと国立国際医療研究センターによる共同研究だ。大阪や沖縄など9府県の40~69歳の男女約8万人を対象に、「食事パターンと死亡リスク」について15年間追跡調査した。

 その結果、健康に悪いと考えられがちな欧米型の食事でも、死亡リスクが下がる傾向が見られた。これほど大規模な調査でこんな結果が出たのは、国内で初めてだ。

 この研究では、日本人の食事の内容を、「健康型」=A、「欧米型」=B、「伝統型」=Cの3つに分けた。

 健康型の食事の傾向が高い人たちは、心臓病の死亡リスクが25%低いという結果が出たが、欧米型の食事の傾向が高い人も12%低くなっていた。

 脳血管疾患による死亡リスクも、健康型の食事の傾向が高い人たちは37%低く、欧米型の食事の傾向が高い人たちも12%下がっていた。伝統型の食事パターンでは死亡リスクを下げていないことがわかった。

 健康型の食事の結果は予想どおりとしても、なぜ、欧米型の食事が、伝統型よりいいのだろうか。その理由の一つは、栄養の内容だ。欧米型の食事はタンパク質が豊富なのである。

 成人男性の場合、タンパク質は一日60g必要とされる。これをヒレ肉だけで摂ろうとすると300gも食べなければならない。毎日300gの肉を食べるなんて、日本人には難しい。肉だけではなく、卵や牛乳、魚、納豆、豆腐などから、良質なタンパク質を摂るようにしたい。

 欧米食がいい二つめの理由は、塩分が少ないことである。この点、みそ汁に塩シャケ、漬物など、伝統型の食事は、塩分が多い。塩分の摂り過ぎは高血圧の原因となり、それが脳卒中のリスクを上げる。

 三つめの理由は、乳製品からカルシウムが豊富に摂れることだ。カルシウムには、血圧を下げる作用がある。コレステロールの吸収を抑制してくれる作用もあることがわかった。筋肉や骨が弱くなるのを防ぐことにもつながる。

 四つめの理由は、コーヒーを飲んでいることも影響しているかもしれない。コーヒーを飲む習慣と死亡リスクを調査した研究もある。岩手や大阪など10府県で、約9万人(40~69歳の男女)を対象に調べた結果、コーヒーをほとんど飲まないグループに比べて、一日に3~4杯飲むグループは死亡リスクが24%低いことがわかった。ただし、5杯以上飲むとわずかだが死亡リスクが上がる。やはり、飲み過ぎはいけないということだ。

 先月発売されたばかりの新刊『カマタノコトバ』(悟空出版)に、ぼくはこんなことを書いた。

「健康は目的ではない。幸せに生きるための道具」

 健康のために、修行のような健康法をするのはどうかと思う。たとえば、朝バナナダイエット。バナナもたまに食べるとうまい。食物繊維豊富だから腸にもいい。でも、毎日食べなければならないと思うと、修行になる。10年も食べたら人生が黄色くなってしまう。

 一日一食しか食べない健康法なんかも、幸せな気持ちになるとは思えない。だから、そんな健康法は、ぼくはごめんだ。生活習慣病は飽食の時代のツケであり、大正時代のような粗食に戻ればいいという人もいるが、そんなことはない。大正時代の平均寿命は43歳である。

 健康長寿は経済と密接に関係している。日本は経済大国になると同時に、世界のトップレベルの長寿国になった。おいしいものを食べることができるようになって長寿になったのである。

 なのに、まだまだ若者は野菜が足りない、高齢者はタンパク質が足りないという問題がある。これを解決するためには、意識的に食生活を変えていくことが大切だ。

 長野県で健康運動に取り組んでいたとき、「ま・ご・は・や・さ・し・い」という言葉が住民の間で流行った。「ま」は豆、「ご」はゴマ、「は」は発酵食品、「や」は野菜、「さ」は魚、「し」はしいたけを含むきのこ類、「い」はいも類。今回の研究の「健康型」に共通するところが多い。

 これらを意識的に食べようと呼びかけることで、食事の栄養バランスがよくなった。肉はないが、豆や魚からタンパク質を摂ることができる。

 これからは、この食生活に、欧米型のいい点を取り入れて、「ときどき肉」を食べてもいいかもしれない。新しい合言葉は、「まごはやさしい」。でも、「ときどき肉い」。

 健康情報も、時代とともに変化していく。柔軟にいいものを取り入れながら、おいしく、楽しく、食とつきあっていきたい。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『検査なんか嫌いだ』『カマタノコトバ』。

※週刊ポスト2017年7月7日号

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