【書評】日本も含め世界各地に存在するシンデレラ譚を紹介

【書評】『シンデレラの謎 なぜ時代を超えて世界中に拡がったのか』/浜本隆志・著/河出書房新社/1500円+税

【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)

 いわずと知れた「シンデレラ」は、世界中の人々を魅了してきた。継母にいじめられる美しい娘、お城の舞踏会、ドレス、かぼちゃの馬車、ガラスの靴、そしてハッピーエンドを迎える場面などが目に浮かぶ。この物語はヨーロッパのどこかの国の民話をもとにしたのだと思い込んでいた。

 しかし、シンデレラ譚の類話は、古代エジプト、西南アジア、インド、東アジア、南北アメリカ(ネイティヴ・アメリカン、南米先住民)など、世界中のほとんどの地域に分布しているという。〈シンデレラ譚のグローバル化は驚くべき現象であるが、この事実は欧米中心文明観にとって不都合であったので、近年までクローズアップされることはほとんどなかった〉

 関西大学名誉教授の著者の専攻は、ヨーロッパ文化論、比較文化論だが、シンデレラ譚の伝播のプロセスをたどりつつ、人類の大移動に着目した。歴史学、神話学、文化人類学など、多角的なアプローチで解明していき、人々の壮大な旅の物語を伝えてくれる。

 シンデレラ譚はいつ、どこで生まれたのか。口承で伝えられてきた民話は、その成立年代を特定するのは困難だ。歴史資料に記載されている最も古いものでは、古代エジプトの「ロドピスの靴」で、ルーツは紀元前五、六世紀ごろまでにさかのぼるという。

 本書には世界各地のシンデレラ譚が紹介されていて、そのどれもがじつに面白い。困難な局面に遭遇するものの、最後に幸福をつかむという物語の構造は類似しているが、伝播した土地の文化や倫理観、社会規範を取り込んで変形していったことがよくわかる。

 たとえば日本各地の民話にもシンデレラ譚が伝播したと考えられるものがある。しかし大陸から一時期伝わった靴文化はすたれたので、日本のシンデレラ譚には靴のモチーフが欠落したのだった。

 人間は、いつの時代も、どこの土地でも苦しい現実に直面し、それでもなお夢や理想を生きる糧として生きてきた。シンデレラ譚が愛されてきた理由である。

※週刊ポスト2017年7月14日号

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