高齢者の過度な高血圧予防、思わぬ逆効果になりかねない

高齢者の過度な高血圧予防、思わぬ逆効果になりかねない

血圧を無理に下げ過ぎると危険も

「その薬を飲むべきか否か」を判断する際に参考になる指針がある。日本老年医学会が定めた「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」だ。このガイドラインには、2000本を超える国内外の論文をもとに高齢者が「特に慎重な投与を要する薬物」として29種類の医薬品が掲載されている。

 その中でも、高齢者に最も身近な薬のひとつが「高血圧治療薬」(降圧剤)だ。国内には1000万人以上の高血圧患者がいるとされるが、複数の降圧剤がリストに挙がっている。まず、「ループ利尿薬」だ。北品川藤クリニック院長の石原藤樹医師が解説する。

「フロセミドなどのループ利尿薬は、尿を増やして体内の余分な塩分を排出して血圧を下げる薬です。比較的運動量が多く代謝も活発な中年世代には有効だが、高齢者は薬が効きすぎてしまう。

 急激に血圧が下がると脳や全身に血液が行き届かなくなり、めまいなどを起こして転倒するリスクがあります。そういう症状があれば、服用量を抑えるか、別の降圧剤に変更するなど主治医に相談すべきです」

 プロプラノロールなどの「非選択的β遮断薬」も注意喚起されている。

「心拍数を落として血圧を下げる薬ですが、薬効が出すぎると脈拍が低下し、呼吸器疾患を悪化させて喘息などを引き起こすリスクがあります」(同前)

 肺疾患の持病を持つ患者には禁忌とされ、心不全などの病気で緊急の治療を要する場合でなければ、高齢で肺炎を心配する方も避けたほうがいい。

 リストには含まれていないが、降圧剤の中でも一番の売れ筋である「ARB」(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)についても、高齢者にとってメリットは限定的だとの指摘がある。前出・石原医師がいう。

「ARBは、高尿酸血症や糖尿病を誘発・悪化させる副作用のある利尿薬より非常に副作用が少ない。ただし、高齢者に向いているとはいえない。『アンジオテンシンII』というホルモンに直接作用し血圧を下げる仕組みなのですが、このホルモンは高齢になると分泌が減ってしまう。それゆえ、ARBは中年にはよく効くものの、60代後半より上の世代には効きにくい」

 イタリアの複数の認知症クリニックの研究によれば、降圧剤で血圧を無理に下げ過ぎると認知症の進行を招くとのデータも指摘されている。過度な高血圧予防は、高齢者にとって思わぬ逆効果となりかねない。

※週刊ポスト2017年8月18・25日号

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