AIよりもいい選択ができる人間でありたい

AIよりもいい選択ができる人間でありたい

鎌田實医師が「AIとの付き合い方」を語る

 生活の様々な場面で、AI(人工知能)を活用することが世界中で行われている。ただし、いま利用されているAIは忖度ができない。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師は、将来は忖度するAIが誕生するかもしれないが、あくまでも道具にすぎないAIにすべてを委ねるのではなく、人間が選択と決定をしていくべきだという。

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「中国共産党を愛していますか?」の問いかけに、「愛していません」。「共産党万歳」と打つと、「あなたは腐敗した無能な政治に万歳するのか」と反論。さらに、中国の夢を問うと、「アメリカへ移住すること」と皮肉を言う。

 この歯に衣着せぬ回答をしたのは、中国テンセントが作った会話型のAI「チャットBot」だ。テンセントは、時価総額30兆円規模の巨大なIT企業。チャットという会話をしながら、深層学習をしていく。

 なぜ、チャットBotは中国においてこんな危ない回答をしたのだろうか。多くの人と会話をしながら、人々のなかにある思いを読み取ったのだとしたら、AIはなかなかの正直者だ。

 中国共産党が新たな脅威と判断したのかは謎だが、チャットBotはすぐに閉鎖。復旧のめどはたっていない。噂によると、デジタル再教育キャンプに入れられたという。政治思想犯を捕らえて、洗脳し、体制に都合のいい思想に改造していく手口を思い出す。

 再教育されたAIは、微妙な質問に対しては「お答えできません」「ぼくはわかりません」などと答えるようになるのだろう。忖度しないAIは、危なくて自由にさせておけないのだ。

 でも、将来、忖度するAIが開発されて、権力に媚びへつらったりするようになっても困る。AIは、空気を読めないくらいがちょうどいい。

 NHKスペシャル「AIに聞いてみた どうすんのよ!? ニッポン」では、AIが700万件のデータを解析した結果、「40代一人暮らしを減らせば、日本がよくなる」と提言した。

 40代の一人暮らしの人は249万人。多そうに見えるが全人口の1.9%しか占めていない。この人たちが増えると、日本全体の自殺者数や餓死者数、空き家数が増え、緊急車の出動件数が増え、合計特殊出生率が減るという。なぜそうなるのかという因果関係までは、AIは示してくれない。

 40代といえば、バブル経済崩壊後の就職氷河期を経験した世代。フリーターや派遣などの非正規雇用の人も多い。もちろん、40代一人暮らしにもいろんな人がいて一括りにはできないが、独身のまま40代になって、親の介護も気になりながら、経済的余裕がないなかで、実家を出て一人暮らしをしている人も多いと想像する。

 では、40代一人暮らしを減らすにはどうしたらいいか。「家賃を下げたらいい」というのがAIのご託宣だ。現実の政策がなかなか効力を発揮しないなかで、ぼくは、このAIの提案もアリだと思っている。

 経済はなかなか上向かない。少なくともその実感がない。目標物価上昇率2%は4年も達成できず、目標設定の延期が繰り返されている。黒田日銀総裁の間は、もう目標達成はできないだろう。実質賃金が上がらないため、本当の消費行動が起きてこないのだ。

 その一方で、秘密保護法や安保法制、共謀罪などが次々と強行採決されて決まっていく。森友学園や加計学園の問題で表面化した「えこひいき」も行なわれている。

◆待機児童、介護の問題にどう取り組むか

 いつまでもこんな状況が続くなら、AIが政治をしたほうがよっぽどマシと思えてしまう。AIが首相なら、ご寵愛の大臣やお友だちをえこひいきするようなこともない。文書もきちんと保管ができるだろう。そうすれば、政治家の数も、官僚の数も減らすことができ、透明度の高い、公平な政治的判断ができるようになるのではないか。

 少子化対策が必要といいながら、保育の待機児童はなかなか減らない。シングルマザーが、保育園が見つからないために、子どもを預かってくれる風俗店で働くようになった例もあると聞く。

 介護の問題も深刻だ。毎年10万人が介護を理由に離職している。仕事をしながら介護している人は240万人もいる。経済的にも、肉体的にも、精神的にも追い詰められ、悲劇的な事件を起こすことも少なくない。介護殺人はこの6年間で326件発生した。

 ぼくが学生時代のころ、脳性麻痺の人たちの団体「全国青い芝の会」の活動を記録した「さようならCP」という映画の上映会を手伝ったことがある。1960年代後半の話だ。

 重度の障害をもった息子を父親が殺してしまう。社会的サポートが少ないから、こんな事件を起こしたのだと、父親への情状酌量を求める運動が行なわれ、無罪になった。そのとき、青い芝の会の人たちはこんなふうに言った。

「介護できなくなったら、放り出してくれればいいんだ。どうして無理心中なんてしようとするんだ」「自分がいなければ、おまえは生きていけないなんて、勝手に決めるな」「放っておいてくれ」

 ここから障害者の自立運動が始まっていく。

 あれから50年も経ったのに、介護殺人は後を絶たない。政府は介護離職ゼロなどと耳障りのよいスローガンを打ち出しているが、本当に解決する気があるのか、本気が見えない。政治家も、官僚も、正論を言っているだけのポジショントークに思えてならないのだ。

 それならいっそ、AIに任せてみたらいい、とさえ思ってしまう。だが、AIに任せてしまったら、公平で統制された社会になるかもしれないが、そこで人間が幸せに生きられるのかはわからない。

 AIは、あくまでも道具にすぎない。AIがはじき出した答えを、ぼくたち人間がどう解釈し、選択し、決定していくかが大事なのだ。

 服従者にならないように、いつも勇気をもっていること。自己決定すること。強い人のためではなく、弱い人の視点でジャッジするようにすること。少なくともそんな視点を持ち続けながら、AIよりもいい選択ができるようにしたい。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『検査なんか嫌いだ』『カマタノコトバ』。

※週刊ポスト2017年9月29日号

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