『深夜食堂』に登場、トンテキと鰹タタキのモデル店の逸品

『深夜食堂』に登場、トンテキと鰹タタキのモデル店の逸品

『東京トンテキ 渋谷店』の「大トンテキ定食300グラム 1270円」

 ドラマ化もされ人気のロングセラーコミック『深夜食堂』。その作者・安倍夜郎氏に、安倍氏との食にまつわる共著がある文筆家・漫画家・編集者の左古文男氏が創作秘話を聞いた。2人の対談で登場する作中に登場するメニューのモデルとなった店の逸品も紹介する。

左古:『ビッグコミックオリジナル』で連載中の『深夜食堂』は、毎回、料理にまつわる話が描かれているわけですが、ストーリーはどのように考えているのですか。

安倍:近所の駅前のビルにある「とんかつ和幸」に、平日の昼間行くとお年寄りばかりなんです。年寄りって、けっこう肉食うんだなと思って、それが漫画のネタになりました。

左古:とんかつ好きの老人の話が浮かぶわけですか?

安倍:とんかつは以前描いたのでビフカツにしました。駅ビルにある「つばめグリル」でも、足元も覚束ないお婆さんが一人でハンブルグステーキ食べていたりしますからね。

左古:確か「ビフカツ」の回が、74歳でアチラの方も“現役”というバアさんコンビの話でしたね(笑い)。長寿の人は肉好きが多いと聞きますけど、ほんとうみたいですね。

安倍:若者は濃い目の味付けの肉料理で白飯をガッツリ食べますが、老人は食も細いでしょうから、量というよりも質がいい肉を楽しんで食べている印象があります。

左古:料理の絵を描くために取材に行くこともありますか。

安倍:あります。たとえばトンテキは本場の四日市に行きたかったんですけど、時間がなくて、調べていたら渋谷に「東京トンテキ」という店があったので食べに行って、写真を撮らせてもらいました。生姜焼きととりからが合い盛りになったA定食は「野方食堂」、鰹タタキは「才谷屋」という店で取材させていただきました。

■大トンテキ定食300グラム(1270円) 『深夜食堂』13集 第175夜
・東京トンテキ 渋谷店 東京都渋谷区渋谷2-22-10 タキザワビル2F
営業日時…11時〜23時(L.O.22時半)
定休日…無休

 豚肉は良質なタンパク質が豊富で、「疲労回復のビタミン」と呼ばれるビタンB1は牛肉の約10倍あり、全食品類の中でもダントツの多さ。そんな豚肉を使ったスタミナ料理といえば生姜焼きやとんかつがポピュラーだが、肉の旨味をダイレクトに味わえる料理といえばトンテキだろう。

 トンテキはグローブ状にカットした厚切り肉を使用して調理する料理で、濃い味のソースと柔らかい食感が特徴。三重県四日市市が発祥地といわれるご当地グルメだが、最近では全国に広がりを見せ、東京でも食べられる店が増えている。中でも、とびきり旨いトンテキが味わえるのが渋谷にある「東京トンテキ」だ。

「豚肩ロースがかたくならないように低温のラードの中でじっくり火を通して肉の旨みを閉じ込めるようにしています」と坂梨公亮店長。柔らかいのに適度な歯応えもある。咀嚼すると熟成された独自ブレンドのオリジナルソースの酸味と豚肉の甘味・旨味が渾然一体となって口中に広がる。

■鰹タタキ(1500円) 『深夜食堂』17集 第237夜

・才谷屋 東京都江東区新大橋1-1-6 フラッツ新大橋 1F
営業時間…17時〜23時
定休日…日・祝

 かつおは滋養強壮に欠かせない栄養素の宝庫で、貧血予防や体力回復にはもってこいの食材だ。特に血合い肉には鉄分やタウリン、EPAやDHAなどの多価不飽和脂肪酸などが豊富だが、生臭さが気になるという向きも多い。そんな人でも美味しく食べられる調理法が藁で一気に焼きあげる「藁焼き」だ。

 土佐であみだされた調理法で、藁で燻すことにより、藁の香りがかつおの旨味を引き立ててくれる。しかし、「かつお本来の旨さが味わえるのは刺身かバーナーなどでサッと炙ったタタキ」だと店主・鈴木耕一郎氏はいう。血合い肉の臭みはまったく感じられない。生臭さが苦手な向きでも箸が止まらなくなる旨さだ。

 鉄分やビタミンB群をあますことなく摂取できる一品。ニンニクやタマネギと一緒に食べればビタミンB1の吸収が高まり疲労回復に効果大。

 提供しているかつおは、土佐伝統のかつおの目利きである7代目亀次郎が厳選し、急速冷凍した極上品。鈴木氏は素材工学の研究者でもあり、冷凍保存されたかつおの細胞組織を壊さずに解凍する機械を開発し、一年中新鮮なかつおを提供している。

●あべ・やろう/1963年、高知県生まれ。CM製作会社勤務を経て、2004年に『山本耳かき店』で漫画家デビュー。『ビッグコミックオリジナル』で連載中の『深夜食堂』は2009年にドラマ化、2010年には第55回小学館漫画賞一般向け部門、第39回日本漫画家協会賞大賞を受賞。その他の著書に『生まれたときから下手くそ』『酒の友めしの友』など。

●さこ・ふみお/1960年、高知県生まれ。86年に『YOKOHAMA BAY CITY BLUES』で漫画家デビュー。現在は文筆家・漫画家・編集者として幅広く活動。主な著書は『四万十食堂』(安倍夜郎氏との共著)、『コケを見に行こう!』『クセがつよい妖怪事典』などの他、企画・編集作品に漫画家・水木しげる氏の最後のインタビューをまとめた『ゲゲゲのゲーテ』がある。

※週刊ポスト2020年4月10日号

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