珍しく外出した認知症女性、ミミズとトカゲから受けた刺激

珍しく外出した認知症女性、ミミズとトカゲから受けた刺激

外出した84歳を“足元で”ほっこりさせた相手とは(写真はイメージ)

 認知症の母(85才)を支える立場の『女性セブン』N記者(56才・女性)が、介護の日々を綴る。今回は、母との外出時のエピソードを紹介する。

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 緊急事態宣言解除後も高齢者施設の外出自粛は頑強だ。仕方がないが、母の認知症はグンと進み、外の刺激がいかに大事かを思い知った。そんな私と母に活を入れたのは、雨上がりの道で身をよじらせるミミズだった。

外出は認知症の特効薬かもしれない

 母はアルツハイマー型認知症だが、朗らかに暮らしている。もちろん記憶障害はあるが、できないところはヘルパーさんが手伝ってくれるし、若い頃のやや気難しいところが和らいで、認知症もそう悪くない気さえしている。

 しかし、初めからそうだったわけではない。7年前の診断当初は母自身が大混乱。妄想と暴言にまみれ、身なりも別人のようになってしまった。

 頭を抱えた私が、暗闇の中で見つけた光明が“外出”だ。ゴミ屋敷化した家で母娘が向き合うと罵声と物も飛び交う地獄なのに、ふたりで一歩外に出ると、母はまた別人に、いや元の母に戻ったのだ。

 すれ違う子供たちに明るく声をかけ、道端の花がきれいだと感動し、街に出るとレストランの看板を見て「何か食べよう」と誘ってきた。

 正直、その豹変ぶりにも大いに戸惑ったが、病気の殻の中に母がちゃんと生きているようにも思えた。きっと外に出ると、思わず本当の母が顔を出すのではないかと…。

 以来、母を外に連れ出すことが私の任務と心得ている。通院、散歩と目的は何であれ、とにかく家の外に出ること。一緒に歩くと私も心が晴れ、外気の効用を実感するのだ。

コロナ禍で認知機能低下のピンチ!

 6年前、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に来てからも母はひとりでも近所の散歩を欠かさず、おかげで認知症でも穏やかで意欲的な生活が送れていると思っていた。 そこへ新型コロナの流行だ。

 週3回のデイケアは休止。行き帰りの道が結構楽しい定期通院も1月末を最後に、私が代わりに病院へ行き、薬の処方をしてもらっていた。母がまともに外に出たのは、「男に付け狙われている」という不穏な電話をしてきたので、慌てて散歩に連れ出したのを含めて3回。不要不急の外出自粛で、用事のない高齢者が外に出るのは至難の業なのだ。

 苦肉の策といっては何だが、6月末、思い切って母を連れ、5か月ぶりの定期受診を果たした。小雨の中、20分ほどゆっくり歩く、久しぶりの遠出。落ち着かない様子の母は、診察室でも表情が硬かった。

「やはり少し認知機能が落ちましたね。認知症の人には生活の刺激がとても大事なの」

 予想してはいたものの医師の言葉はズッシリ重かった。クリニックを出ると雨は上がり、日が差していた。

 大通りから野花が咲く小道に入ったが、話すことも見つからず無言で歩いていると、道の真ん中に大きなミミズがグニャグニャとのたうち回っている。鳥肌が立った。見ると母もマスク越しにものすごい形相。気持ち悪くて何だかおかしい“キモおかしい”表情だ。「やだ〜」と言いつつ覗き込んでみたりもする母。

 すると今度は黒いものがサッと横切った。トカゲだ! 思わずふたりでのけ反り、顔を見合わせて笑った。母の硬い殻が破れたようだった。こういうドキドキ、やはり外でなければ味わえない。苦難の続く夏になりそうだが、ちょっと待ち遠しく思えた。

※女性セブン2020年8月13日号

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