「痴漢をした経験者が9.7%」は本当か? 調査会社と性暴力被害の専門家に聞いた

「痴漢をした経験者が9.7%」は本当か? 調査会社と性暴力被害の専門家に聞いた

「痴漢をした経験者が9.7%」は本当か? 調査会社と性暴力被害の専門家に聞いた

ニュースサイトしらべぇが、5月31日に配信した「赤羽駅で痴漢男が激走 女子高生らへの『意外なアシスト』に注目集まる」という記事が、大きな反響を呼んだ。原因は、記事後半で紹介した「電車内で意図的に痴漢をしたことがある?」という調査結果だ。

■1割弱の男性が「経験アリ」と回答

この調査は、2017年6月2日〜5日にかけて、全国20〜60代の男性671名(モニタス社が運営するアンケートサイト「Qzoo」モニター)を対象に実施したもの。2017年時点でしらべぇは、同社の全モニターの中から属性情報などを調査した約4.4万人を対象に調査を実施していた。

「電車内で意図的に痴漢をしたことがある」という設問に対して、「あてはまる」と答えた割合が全体の9.7%。20代:13.5%、30代:12.0%、40代:9.0%、50代:6.0%、60代:8.0%という結果となった。

これに対して、「1割弱が痴漢しているのは多すぎる」「少なすぎる」という多寡の問題に加えて、「インターネットのアンケート調査など信用できない」という声も目立った。

■「671サンプル/9.7%」での誤差は?

そこで、まずサンプル数(回答数)と誤差の関係について、編集部が調査を依頼したモニタス社に聞いた。

「統計的な視点から、サンプリングすれば誤差は生じます。当然サンプル数が多いほど誤差は小さくなり、理想的には限りなく人口に近い回答を得たほうが誤差のないデータが取得できます。

ただし、全体で400サンプル集めれば誤差は5%未満になるため、サンプル数の設定としてはひとつの目安となります」

では、今回のデータにおける誤差率は、どの程度と見込まれるのだろうか。「標本誤差」の計算式は、以下のようになるという。

(「1.96」は信頼区間95%時の係数)

「671サンプル集めた場合における、『9.7%』という回答の誤差を考慮すると、今回の調査結果は『95%の確率で約7.5%〜約11.9%内にある』ということになります」

■謝礼を与えるアンケートの信頼度は…

SNSなどで記事に寄せられたコメントの中には、「回答するとポイントがもらえるネットのアンケートは信用できない」「『はい』と答えると次のアンケート依頼が来やすいため、偏りが出る」といった声も見られた。この点についてのモニタス社の回答は…

「インターネットが普及する以前から、図書券などの謝礼を調査対象者に贈ることはきわめて一般的でした。

ポイント付与することで、回答者には、アンケートに回答するというインセンティブが働きますが、いずれかの回答をすることによって、より多くのポイントを付与するということはないため、回答者に対して特定の回答をするインセンティブが働くことはないと考えます。

なお、ポイントを付与してのインターネット調査は、自治体や研究機関、大手企業などでも数多く実施されており、調査手法として広く活用されています」

■悪質な回答者は排除できるのか

しかし、ポイント稼ぎだけを目的として不正確な回答を行う悪質なモニターの存在も考えられる。

「当社では、年4回の自主調査を行い、回答に疑義のあるモニターについては登録を削除しています。また、調査を実施するたびに疑義のある回答者は随時登録を削除します。

調査の中には、『はい』と答えた人だけ次の質問に進む設計のものもありますが、今回の調査では各質問を並列に聞いており、『はいと答えるとポイントが増える、次の調査依頼が来やすい』ということがないため、悪質な回答者であるから『はい』と回答することにはつながり得ません」

■同時に複数の質問をする調査は正確?

ネットの声の中には「しらべぇの調査には、671名を対象に実施した調査が多い。嘘なのではないか」というものもあった。

回答者数が同一の調査結果が複数存在する理由は、しらべぇ編集部では、複数の調査を男女合わせて1,300〜1,800名程度の有効回答数で同時に実施しているためだ。この点についてもモニタス社に確認したところ…

「アンケートは意識データであるため、どのような聴取法でも、質問形式、質問文や選択肢の表現、項目の数、聴取順序が変われば、異なる結果が出る可能性はあります。

複数の質問を同時に聞くマトリクス形式には、一覧性をもって見せて聴取できるというメリットがあり、郵送調査、ネットリサーチともによく使われる手法です」

■調査結果を警察に申告する必要は?

一方で、「電車内で意図的に痴漢をしたことがある」と回答した、いわば犯罪経験者の可能性がある人たちについて、調査会社が警察に申告する必要はないのだろうか。

「弁護士にも確認したところ、調査を実施した会社にこうした報告義務はありません。

かえって、犯罪の経歴に当たり得る『要配慮個人情報』とも言い得る個人情報を、利用目的(今回ではニュースサイトしらべぇにおける報道)に反して使用すると、個人情報の保護に関する法律に反して違法になるため、警察等に報告することはできません」

■性暴力被害の専門家に聞いた

では、このデータを痴漢被害者の実態から見てみると、どうなのだろうか。性暴力被害を取材するライターの小川たまか氏に聞いた。

「もし本当に9.7%に痴漢経験があるとすると、そんなに素直に自認があるのかな、という驚きがありました。加害者に聞くと、『自分がやっていることが痴漢だ』という認識がない人がいます。

『やさしく触っているので痴漢じゃない』『女の子が逃げなかったから痴漢じゃない』『痴漢されたい子を見つけてあげたい』というような。認知のゆがみで自分を正当化している人たちがいるのです」

法務省が発表している「性犯罪に関する総合的研究」によれば、2014年度の迷惑防止条例違反の痴漢事犯の検挙件数は3,439件。電車内における強制わいせつの認知件数は283件となっている。

「警察庁が2011年に発表した『電車内の痴漢撲滅に向けた取組みに関する報告書』によると、『痴漢被害に遭っても警察に通報・相談していない』と答えた人は304人中271人(89.1%)でした。

個人的な感覚だと、何度も被害に遭っても届けない女性もいるので、検挙件数の10倍ではきかないくらいの痴漢被害が起きているのではないでしょうか。

痴漢被害に関する調査はいろいろありますが、多いものでは女性の8〜9割、少なくても5〜6割の女性が被害経験を訴えています。加害者は、1回で終わる人もいるでしょうし、依存性的に繰り返す人もいるでしょうが」

「被害者の調査に加えて、こうした加害者に関する調査も積極的に行われるようになってほしい」と小川氏は語った。

■意識調査の意義とは

アンケートによる意識調査は、警察の検挙件数のようなデータと異なり、あくまで参考値だ。しかし、一定の社会実態を統計的な視点から分析することには、少なからぬ意義がある。

痴漢問題は、男性と女性が対立するものではない。すべての男性には母親がおり、また姉妹や恋人、妻、娘、孫など、大切な女性がいる人も多い。「痴漢加害者 vs 社会」の問題なのだ。今後も多様な視点からの調査が進むとともに、痴漢のない社会が来たることを望みたい。

(文/しらべぇ編集部・タカハシマコト)

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