ヒット中の映画「若草物語」が“朝ドラっぽい”と言われる深いわけ

ヒット中の映画「若草物語」が“朝ドラっぽい”と言われる深いわけ

次女・ジョー(シアーシャ・ローナン)

 傑作青春映画『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督による長編映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(全国で公開中)が評判です。

 原作や、これまで幾度となく映画化されてきた作品に比べ、本作で特に際立った特徴となっているのは、「四姉妹それぞれの生き方を肯定する」描き方でしょう。

◆四姉妹のそれぞれの生き方が肯定される

 なかでも興味深いのは、原作を読んだことのない人などによる「朝ドラみたい」という呟きがSNS上で多数見られること。ただし、厳密に言うと、「今の朝ドラっぽい」が正確な表現ではないかと思います。

 若草物語の四姉妹は、美しく優しく家庭的な長女・メグと、男勝りで活発で行動力がある、小説家志望の次女・ジョー、内気で恥ずかしがりやで、ピアノを愛する三女・ベス、絵を描くのが好きで生意気でおしゃまな四女・エイミー。四人が見事に異なるタイプで、それぞれに魅力的ですが、原作での物語の中心は間違いなく次女のジョーとなっています。

 子どもの頃などには、「自分自身が長女だから」とか「三女だから」といった具合に、自身の姉妹のポジションと重ね合わせて読んだ人もいたでしょう。しかし、おそらく多くの人は次女・ジョーが一番好きで、「結婚より仕事。自分の力で自分の道を切り開いていく生き方」こそ正しく、一番素晴らしいと思ったことがあるのではないでしょうか。余談ですが、自分が小学生の頃、演劇クラブで『若草物語』をやったとき、ほとんどの女子がジョー役に手を挙げたほどでした。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』も、物語は基本的にジョーの視点で進みます。しかし、メグのように「好きな人と結婚して貧しくとも共に暮らす幸せ」も、ベスのように「多くを望まず、足ることを知り、慈愛に満ちているからこそ命が短かった」生き方も、エイミーのように「家族のこと、経済を考え、裕福になる生き方を追い求める」生き方も、それぞれ肯定しています。

◆この十数年で、朝ドラのヒロイン像が変わってきた

 「朝ドラっぽい」と感じる人が多数いるのは、まさにこの点でしょう。しかし、このように朝ドラで女性の多様な価値観・生き方を肯定する描き方をするようになったのは、放送時間を変更した『ゲゲゲの女房』(2010年前期)より少し前、朝ドラ低迷期に一部熱狂的支持者を獲得した『ちりとてちん』(2007年後期、主演:貫地谷しほり)あたりから。

 朝ドラの長い歴史の中で主流だったのは、『おはなはん』(1966-67年)から脈々と続く、明るく元気でちょっとドジで、誰にでも愛されるヒロインたち。そして、そんなヒロインが周りを巻き込んでいく「ヒロイン至上主義」の物語でした。しかし、『ちりとてちん』では本来、そういった生まれながらの主役キャラの陰になってしまっている、日の当たらないほうの存在がヒロインとして描かれました。

 さらに、明るく元気で猪突猛進なヒロインの「毒」の面が描かれた『カーネーション』(2011年後期、主演:尾野真千子)以降は、朝ドラ的価値観の多様化が急速に進みました。

 ヒロインが陶芸に身も心も焦がし、結婚が破綻した後、新しい夫婦・家族の在り方を模索した朝ドラ前作『スカーレット』(2019年後期、主演:戸田恵梨香)も、まさにその系譜と言えるでしょう。

『ストーリー・オブ・マイライフ』のジョーと同じく、『スカーレット』の喜美子もまた、自分の好きな道を歩むことを選びます。その決断に後悔はないものの、愛する人や大切な人を失ったときに、どうしようもない孤独に襲われることもあります。『ストーリー・オブ・マイライフ』も『スカーレット』も、ジョーと喜美子だけでなく、姉妹のそれぞれの決断と、その結果が描かれ、そこにはやはり苦い思い出や辛い経験もありますが、どれもそれぞれに間違いではないのです。

◆年齢とともに姉妹の関係が変わっていく

 さらに、『スカーレット』などに見る近年の朝ドラと『ストーリー・オブ・マイライフ』の共通点として興味深いのは、四姉妹のキャラの違いだけでなく、年齢を重ねたことによって、関係性が変わっていること。

 姉妹というのは面白いもので、三人以上いる場合は特に幼い頃から、好き嫌いではなく「なんとなくウマが合うほう・合わないほう」があるものです。『若草物語』の原作では、ざっくり分けると次女と三女、長女と四女がそれぞれにウマが合って、次女と四女はよく衝突している印象がありました。『ストーリー・オブ・マイライフ』でも、少女時代のシーンでは次女と四女がよく衝突していましたが、大人になってからは大きく関係性が変わっています。

 四女・エイミーは、原作と同じく、少女時代にはワガママで自己主張が激しく、ときに次女への嫉妬心から悪魔のように見えるときもありましたが、大人になってからは、様々な葛藤と強い信念を持つ魅力的な女性に描かれています。

 特に「夢を追い求めるだけでは生きていけない」ことを悟り、経済を考えて、自分の生き方を選択するエイミー。それでいて、小説家として生きようとする姉の自伝的作品――センセーショナルな内容ではなく、ごく普通の人々の暮らしを描いた小説の価値や意義を理解し、背中を押すのも、エイミーでした。

『スカーレット』でも、度々衝突してきた長女・喜美子と次女・直子が大人になって良き理解者になっています。

◆女性はどう生きたっていい

 現実の姉妹の関係も同じで、幼い頃の「なんとなくウマが合う・合わない」感覚は、お互いに大人になり、対等な関係になると、変わってくることはよくあります。

 仕事をすることによって、一社会人として話ができるようになったり、家庭を持って、妻・母としての共通の話題ができたり、あるいは経済観念や生活エリアの近さによって、あるいは老いた親とのかかわり方によって、かつてウマが合った者同士の距離が遠くなったり、逆に衝突してばかりだった者同士が親しくなったり。

 姉妹のキャラの違い、生き方の違いだけでなく、年齢を重ねることによる関係性の変化の面白さを描いているのもまた、『ストーリー・オブ・マイライフ』と近年の朝ドラの共通点だと思うのです。

<文/田幸和歌子>

【田幸和歌子】

ライター。特にドラマに詳しく、著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』など

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