篠原涼子の横綱級の別格感。松嶋菜々子らとの出産後復帰の違いとは?

篠原涼子の横綱級の別格感。松嶋菜々子らとの出産後復帰の違いとは?

(画像:「ハケンの品格」Instagramより)

 篠原涼子には横綱級の別格感がある。

 コロナ禍、テレビドラマの撮影が中断したことによる過去作再放送祭りによって、多くのアラフォー女優が過去と現在を比較され、変わらずキレイ!と現役感を振りまいたが、たいてい、皆、現在は脇役をつとめている。

 一方、篠原涼子は再放送+新作で堂々主演、それも、13年ぶりの代表作「ハケンの品格」(日本テレビ)の続編は色褪せることなく高視聴率をもって有終の美を迎えたのである。7年ぶりに復活した「半沢直樹」(TBS)ほどの高視聴率ではないものの大健闘だった。

◆篠原涼子、13年ぶりの「ハケンの品格」で生々しい存在感

 なぜ、篠原涼子は、結婚して子供ができて四十代になっても主演を張れるのか。

 篠原涼子について考える前に、観てなかった人のための「ハケンの品格」についてかんたんに説明しておこう。

 誰よりも優秀で、たくさんの資格を持ち、だからこそ契約外の仕事は毅然と断る。定時に帰るし、私生活には踏み入らせない。そんなかっこいい一匹狼的人物・スーパーハケン・大前春子が主人公。彼女が13年ぶりにかつて働いていた食品会社S&Fに戻ってきて、またまた大活躍した。

 13年前、彼女のことを密かに(?)想っていた東海林(大泉洋)と里中(小泉孝太郎)のどっちもが13年経過しても独身のまま(東海林はバツイチ設定)で春子を想い続けているというドリーム展開も見せた。

 別に「サザエさん」や「ドラえもん」のように登場人物が年をとらないわけではなく、リアルに13年の時間経過は描かれていて、新たな若手ハケンが存在していたりするのだが、話の展開は「サザエさん」や「ドラえもん」みたいなのである。ところが、篠原涼子のすごさは、そういうドラマにもかかわらず、妙に生々しく存在していたことなのだ。

◆この頃の篠原涼子は落ち着いちゃった感があった

 13年前、「ハケンの品格」が放送されたとき、淡々とロボットのように時間どおりに仕事をこなす大前春子のキャラは新鮮だった。生き生きとしたエネルギーに満ちあふれているイメージから演技派へとチェンジしている最中で、自閉症児の母親役、アルコール依存症の役など、演技派に脱皮するきっかけにふさわしそうな役に挑戦し、俳優を育てることに定評のある蜷川幸雄演出の舞台にも出演していた。

 蜷川の舞台「ハムレット」(01年)で知り合った市村正親と年の差結婚をしたのち、クールな刑事役を演じた「アンフェア」(06年 フジテレビ)が映画化されるほどヒット、そして「ハケンの品格」(07年)である。市村正親と出会った01年から出産する08年まで、篠原涼子は俳優として多様な役を演じて輝いていて、彼女の出演作は視聴率も高かった。第2子を出産した後に主演した「ラストシンデレラ」(13年 フジテレビ)までは。

 その後は安定した活躍をする。東野圭吾のヒューマンドラマの映画化「人魚の眠る家」、大ヒット韓国青春映画のリメイク「SUNNY 強い気持ち・強い愛」、吉永小百合と共演した「北の桜守」(「半沢直樹」の堺雅人と夫婦役!)など主演も助演も的確に演じてきたが、それゆえにスター性から遠ざかっていったようにも感じる。この頃の篠原涼子はビッグプロジェクトに出演しながらも、別格感はなりを潜め、どこか落ち着いちゃった感があった。

◆「ハケンの品格」では四十代のリアルな自分で勝負してきた

 復活作となった「ハケンの品格」の場合、宣伝ポスターではゴールドのタイトなワンピースを着て、ハリウッド映画のようなゴージャスさで写っていて、スター性を強調していたが、実際のドラマでは、13年前と同じセンターパーツのロングヘアに地味なセーターにロングスカートと飾り気なし。太っているわけではないのだが、ドラマの主人公にしてはふっくらめ。もともと魅力のひとつであるふくよかなバストがセーターで強調されると、色っぽいというよりはいささか野暮ったく見えたが、それを隠さない。

 それこそが四十代のリアルともいえるだろう。篠原涼子はいまのままの自分で勝負してきたのである。キャラクターものにはしない、血の通った人間を演じたいのだという篠原本人なのか番組サイドなのかわからないが意思表示なのかと思えた。

◆何かを演じるのではなく、“篠原涼子”の価値で勝負する意識

 実際、最終回で、AI と比較して、大前春子は心で勝負するのだというような展開になっていて、いろいろ割り切ったような態度をとりながらも、ほんとうに大事なもののためには手を差し伸べる熱いハートをもっている人物、それが大前春子ということを強調して終わった。

 とはいえ、途中、前作でもあったやたらかわいい声で店内アナウンスするエピソードを今回もやっていて、かぶりものをかぶって猫なで声を出したり、着物を着て演歌歌手になったり、そのあたりはコント番組のようで、そういえば、若き頃、「ダウンタウンのごっつええ感じ」(フジテレビ)で笑いも鍛えられていたなあと思ったのだが。そこでわかったのが篠原涼子に流れる別格感の源流である。

 もともと歌手デビューして、俳優にシフトしていったので、何かを演じるのではなく、“篠原涼子”の価値で勝負する意識が根っこにあるのではないだろうか。しかも、小室哲哉の作詞作曲による「恋しさと せつなさと 心強さと」でダブルミリオン達成という偉業を成している。紅白歌合戦にも出ている。そんな彼女だから、13年ぶりに大前春子を演じることになっても、今の篠原涼子が演じたとき、どうなるかが第一に来たのではないだろうか。

◆鈴木保奈美、松嶋菜々子らとの出産後復帰との違い

 結婚して子どもをふたり生み育て、夫は癌を克服している、というなかなかハードな数年を送った肝っ玉かあさん的なイメージは、ほかの、結婚、出産を経た俳優たちとはなんだか違うのである。

 たとえば、鈴木保奈美は復帰したとき、大河ドラマ「江〜姫たちの戦国〜」(NHK)で波乱万丈な人生をおくった織田信長の妹・市を演じた。上野樹里、宮沢りえ、水川あさみの母というカロリーの高さ。戦国武将の家族という思い十字架を背負って気丈に生きる役を復帰作にし、その後もずっと強いワーキングウーマン的な役を演じている。「SUITS/スーツ」(フジテレビ)の二の腕にむだな贅肉のなさはアラフィフには思えない。

 また、松嶋菜々子の復帰作は「家政婦のミタ」(日本テレビ)で、「やまとなでしこ」(フジテレビ)に代表される華やかなお姫様キャラだった過去とガラリ変えて、全身黒ずくめで笑わないミステリアスな家政婦を演じて、大注目を浴びた。そうやってショック療法的な復帰をした後は、いつまでも変わらない美魔女的キャラに戻っている。朝ドラ「なつぞら」(NHK)では自分の美しさに自信のある母親を演じていた。

 矢田亜希子はバラエティー番組を経て、「ギルティ〜この恋は罪ですか〜」(日本テレビ)で毒母を演じて、再放送した「愛していると言ってくれ」(TBS)や「やまとなでしこ」のかわいい2番手から大きく変わりつつも美しさは健在とSNSを賑わせた。

◆少なくとも、正直なんだろう、篠原涼子は

 たいてい、復帰後は、美を磨き込み、さらに演技派になりました、という印象を受けるのだが、篠原涼子の場合、それがまったくない。むしろ落ち着いちゃった感をそのまま役に投影し、妻であり母であり、それ相応に歳をとった篠原涼子が演じています、という感じ。

 だから、「ハケンの品格」で大前春子が演歌歌手の格好をしたときも、変身ヒロインみたいに完璧に変身するのではなく、衣裳を着て歌えと台本に書いてあったからやっていますというような、大前春子のキメ台詞「それが何か?」というどこ吹く風感が吹き荒れていた。

 それがいいのか良くないのかは観た人各々の判断であろう。少なくとも、正直なんだろう、篠原涼子は。いまの私を観て、と堂々と晒(さら)す、その強さが他の追随を許さない。

<文/木俣冬>

【木俣 冬】

フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など

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