大反響コミック『妻が口をきいてくれません』作者に聞く。妻が夫を“あきらめていく”理由

大反響コミック『妻が口をきいてくれません』作者に聞く。妻が夫を“あきらめていく”理由

野原広子『妻が口をきいてくれません』より

<亀山早苗の恋愛時評>

「よみタイ」というサイトで連載され、集英社より11月26日刊行予定のコミックエッセイ『妻が口をきいてくれません』が話題になっている。

 著者は、野原広子さん。『離婚してもいいですか? 翔子の場合』『消えたママ友』(KADOKAWA)などで、妻であり母である女性たちの心理をえぐり出し、多くの女性たちの共感を得ている。

 今回は、「もう3日も妻が口をきいてくれない」という夫の告白から物語が始まる。何か言って怒らせたのかと夫は考えるが、もちろん妻の心をそれほど深く斟酌しているわけではない。夫婦ならよくある話と読み進めていくと、妻が口をきいてくれないのは6年にも及んでいくことがわかり背筋がすうっと寒くなる。

 そもそも、野原さんはなぜこういったストーリーを考えたのだろう。野原さんに話を聞いた。

◆夫婦仲が良さそうな男性が「うちは長い間、口をきいていないんだ」

〈私自身、1年ほど前に離婚したんですが、そうしたら知り合いから結婚生活についての話を聞く機会が増えまして。

 ある知人男性が、『うちは長い間、口をきいていないんだ』と。その夫婦は仲が良さそうに見えていたのでびっくりしたんです。さらに驚いたのは、彼が妻に『離婚しよう』と言ったら、『私はまだ好きなのに』と言われたんですって。

 そのときは、私は妻の気持ちがわからないなあと思ったんですが、今回、『妻が口をきいてくれません』を描きながら、少しだけわかりつつあるような気がしています。たぶん、奥さんはかまってほしいんですよね。そういう話や他に自分が見聞きしたエピソードなどがモチーフになっています〉(野原広子さん 以下ヤマカッコは同じ)

◆「『男もつらいんだな』と思うようになりました」

 結婚生活は日常そのもの。子どもがいれば、「親」という責任の重い立場でもある。配偶者に「自分を見てほしい」「かまってほしい」とストレートには言えなくなっていく。男性であれ女性であれ、不仲というわけではなくて関係がねじれて固定化してしまうことは多々ある。

 媒体上、女性のみならず男性からもよく読まれているそうだ。妻が口をきいてくれなくて、心をえぐられている夫たちも多い。女性たちからは、「私も夫に恨みがある」という声も。

〈私は結婚しているとき、夫が大嫌いなんて思っていたんですが、読んでくださっている方たちの声を聞くと、『男もつらいんだな』と思うようになりました〉

◆妻は夫を「あきらめていく」

「妻が口をきいてくれません」では、途中から妻・美咲の目線で話が進んでいく。夫は何が原因で妻が口をきいてくれなくなったのか一向にわからないままなのに、妻からは些細な夫への不満が積み重なっていく様子がリアルに描かれていく。

 カレーにスプーンをつけなかっただけで、「これ 手で食べるタイプ?」と言われ、美咲が苛立つシーンも印象的だ。おそらく夫は冗談交じりに言っているのだろうが、その「冗談交じり」がどれだけ妻を傷つけているかわかっていない。

〈男性の妻への期待って、けっこう物理的なものだと思うんです。家事をきちんとやってくれるか、手作りの料理を作ってくれるか。

 そして重要なのは妻がニコニコしていること。

 だけど妻だって人間。まして小さな子どもを抱えていたら、心身ともにまったく余裕がありませんよね。そこへもってきて、自分のことさえできない夫が、子どものような発言をする。そういった積み重ねが、妻を疲弊させていく。だから妻は夫をあきらめていくしかないんでしょうね〉

 ネットでは、ポテサラ論争に続き、手作り餃子論争も起こっている。スーパーの総菜コーナーでポテサラを買っていたら、まったく知らない中年男性に「母親ならポテトサラダくらい手作りしたらどうだ」と言われた話、そして冷凍餃子を焼いて出したら夫に「手抜きだよね」と言われた話。どちらも女性たちの今の生きづらさを物語っている。

 いちばん身近にいて、ともに生活している夫に共感されない。どうしてわかってくれないのか。今度こそわかってくれるのではないか。そうやって期待していても、いつも裏切られる。だから妻は「夫をあきらめて」いくしかないのだ。

〈夫はおそらく、妻にいろいろしてもらうことにあぐらをかいちゃってるのかなと思います。たぶん、お礼も言ってないでしょうね。そういうことがじわりじわりと積もって固まっていく〉

 だから美咲は、夫と話さないことを選んだ。夫と話さなければイライラしない、会話がなければケンカもない。心が穏やかでいられるのだ。その一方で、夫と「たわいもない話をしたい」欲求も強まっていく。

◆苦しさを抱える女性たちへ

〈私自身は離婚してから、ああ、私は結婚に向いてなかったんだなあと思いました。人に合わせて生きていくのが本当につらかったんだ、と〉

 子どもたちが成人したところで、野原さんは離婚した。

〈今になってみると、“いい子”でいても得することはないなと思います(笑)。1回くらい、自分の思うように行動してもいいのではないでしょうか。夫に反旗を翻して言いたいことを言うとか、家事を放棄してみるとか。

 今、我慢してがんばりすぎて体調を崩してしまう女性が多いような気がするんです。外から見たら幸せそうに見える家庭の奥さんでも、実はいろいろ抱えている。自分が潰れたら、元も子もないし、心身ともに病むほど自分を追い込まないでほしい。いざとなったら逃げ場はある。逃げちゃうことも選択肢のひとつだと思います〉

 自分らしく生きることとはどういうことなのか。結婚生活の中で見失いがちなその問いを、もう一度、自分に投げかけてみてもいいのかもしれない。

<文/亀山早苗>

【亀山早苗】

フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数

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