山田孝之が語る芝居論「その役の記憶を作って、人生を作っていく」

山田孝之が語る芝居論「その役の記憶を作って、人生を作っていく」

山田孝之さん

1999年の俳優デビュー以降、第一線を走り続けている山田孝之さん。近年はプロデューサー業や監督業でもその才能を発揮しています。そんな山田さんの主演映画『はるヲうるひと』が公開中です。

 俳優の佐藤二朗さんが主宰する演劇ユニット「ちからわざ」が、2009年に初演した舞台を、佐藤さんが監督した映画です(脚本と出演も)。売春宿が点在する島で暮らす3兄弟を中心に、行き場のない思いを抱える登場人物たちの姿を見つめた本作で、山田さんは長男(佐藤)の子分のように生きている次男の得太を演じています。

 「100%得太でいる状態を維持していた」という壮絶なクライマックスシーンについてや、最近の活動に関する思いも聞きました。

◆演じるときは、その役の一生分に寄り添う必要がある

――最初に脚本を読まれたときはいかがでしたか?

山田孝之さん(以下、山田)「すごくつらかったですし、最後に得太が独白するシーンでは、何回読んでも涙が止まりませんでした。辛くてかわいそうすぎて。二朗さんが10数年前に脚本を書いたときから得太という存在が生まれていますが、得太に寄り添ってあげたのは、二朗さんが演じていたときだけです。ずっと孤独で、かわいそうで。俺も得太に寄り添いたいと思いました」

――寄り添うというのは、まず客観的に得太を見て、そこから入っていくのでしょうか。

山田「最初は客観的ですよね。そこから歩み寄っていくし、引き寄せるし。それが最終的にひとつになる。芝居とか演じるとかって、非常に説明が難しいんですけど、撮影期間は3週間ですが、得太の一生分に寄り添う必要があるんです」

◆その人の記憶を作って、人生を作っていく

――一生分に寄り添う。

山田「とにかく彼を知ってあげる。何が彼を苦しめていて、どうして抜け出せないのか。明確に覚えているのは、クライマックスシーンでぐちゃぐちゃになったとき、近くにすずカステラが転がってたんです。カットがかかって、次のアングルのためにスタッフさんが動きだしますよね。

 でもそのとき、僕はそのすずカステラを見ながら、『あ、お母ちゃんすずカステラが好きだったな』『あのとき祭りに一緒に行って、すずカステラを食べたな』とか、記憶を作って、その人の人生を作っていくんです。それをやり続ける」

◆俳優は、1年365日じゃない生き方をしている

――撮影期間中ずっとですか?

山田「3週間の間、山田孝之がいて、得太がいて、感覚でいうと、ずっと50%でいる感じです。山田孝之と得太の間をふらふらしている。本番!となったときに、100%得太になる。あのクライマックスは長いシーンで、精神的にもキツイシーンでしたし、ちょっとでも山田孝之になってしまうと、もう戻ってこれない感覚があったので、ずっと得太のスイッチを切らずにいました。でも3週間ずっとは無理です(苦笑)。

 100%を維持したのはその日くらいですし、そんなことはほぼないですよ。過去に覚えているのは、『新宿スワン』で(綾野)剛とビルの屋上でセリフもありながら、殴り合いのアクションをしたときですね。7回戦くらいやりましたが、あのときも切っちゃダメだと思ったので、撮影が終わるまで、スイッチを入れたままでした。でもそうした究極なときだけです。それやると、崩壊するので。普段は、カットがかかったら、なるべくすっと落として、自分と役とどちらでもないようなふわふわした状態にします」

――想像できない世界です。

山田「俳優って、1年365日じゃない生き方をしてるんですよね。ほかの人の一生分も生きるから。そうすると年間に一生を何回もやっていると足りなくなる。だからやりすぎはよくないんです。演じすぎはよくないです」

◆俳優以外にも活動の幅を広げる理由

――山田さんは俳優以外の活動もされていますが、お芝居だけ続けているよりも、いい切り替えになるのでしょうか。

山田「別のしんどさはありますけどね。でも365日お芝居していてと言われたら、無理です。死んじゃう。僕としての精神が崩壊しますから。やっぱり自分も保たなきゃならないので、そうすると芝居をしていない時間が大事になるし、同時に、芝居をしていないときの経験も芝居に反映されてくる」

◆俳優は本来、芝居をして稼ぐべき

――それにしても、今はプロデューサー業に監督業にと、俳優や音楽など表現者としての活動以外のことも忙しいですね。

山田「最悪僕はつぶれてもいいし。つぶれるまでに、できることをやっておきたいんです。人には得意不得意があるし、僕はタフですし、いろんなことに挑戦できることを楽しめますから。

 今の日本の俳優は、広告の年間契約を取るしかお金を多く稼ぐ方法がないんです。でも俳優は本来、芝居をして稼ぐべきですよね。お金の心配がなくなれば、ひとつひとつの作品にかけられる時間も増えて、質も高まる。当たり前のことが当たり前にできていなくて、それを20代のころは愚痴っていたけれど、愚痴ってるだけじゃ何も変わらないから、自分でやるしかない。お金だけじゃなくて、睡眠時間もそうです。4時間しか寝られずに芝居するのと、しっかり寝てから芝居をするのとじゃ全然違う」

◆「日本で俳優を一生やっていきたい」と言える環境に

――働き続けることで、山田さんの睡眠時間は少なくなる気がしますが。

山田「いまやっている人とか、後輩とか、これから目指す人が、『芝居が大好き。だから日本で俳優を一生やっていきたい』と言える環境にしたい。そのためにも状況を変えたいし、結局は自分に帰ってくることですからね」

――今は休んでいられない?

山田「はい。僕は大丈夫です。タフだから」

――最後に公開へのメッセージをお願いします。

山田「僕が得太に寄り添える時間は終わったので、あとはひとりでも多くの人に得太のことを知ってもらって、寄り添ってあげてほしいです。今でも寂しがっているので。どうかよろしくお願いします」

(C) 2020「はるヲうるひと」製作委員会

<文・写真/望月ふみ>

<ヘアメイク/灯(Rooster) スタイリング/五月桃 (Rooster)>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi

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