コロナで困窮する夜職シングルマザーたち。「性風俗は不健全」と排除する国に怒り

コロナで困窮する夜職シングルマザーたち。「性風俗は不健全」と排除する国に怒り

コロナで困窮する夜職シングルマザーたち。「性風俗は不健全」と排除する国に怒りの画像

大阪のデリヘル事業者が国を訴えた裁判が注目を集めています。コロナの「持続化給付金」や「家賃支援給付金」の対象から性風俗事業者を除外したのは違憲だとして、国に未払いの給付金や慰謝料など計約450万円の賠償を求めているこの裁判。このデリヘル事業者には違法性がないのにも関わらず、なぜ国は除外したのでしょうか。

◆「性風俗業は本質的に不健全」

 4月15日に東京地裁で開かれた第1回口頭弁論で、被告の国側は「性風俗業は本質的に不健全。支給の対象外としたことは合理的な区別だ」として反論。現在も裁判が続いています。

 どこの町の駅前にはキャバクラや性風俗店が存在するほど、“性を簡単に商品化”する日本社会。それなのに、性風俗事業者を社会から排除する“性のダブルスタンダード”に首をかしげる人も少なくないのでは?

 そんななか、埼玉県西川口エリアを活動拠点にする「ハピママメーカープロジェクト」は夜の世界(水商売、キャバクラ、性風俗などの仕事)で働くシングルマザーを主対象にフードパントリー(無料食材)を提供しています。この団体を率いる石川菜摘さんは自身もナイトワーカー当事者でした。今回は、石川さんに夜職(※)シングルマザーの実態から団体の活動まで話を伺いました。

(※編集部注)夜食とはキャバクラ(朝キャバ、昼キャバ含む)やガールズバー、デリヘル、ソープなどを指します。

◆子供だけでなく親も支援が必要

――2019年末から、パートナーと一緒に「ハピママメーカープロジェクト」の活動を始められたきっかけは、何だったのでしょうか?

石川菜摘さん(以下、石川)「私の家庭は所謂、機能不全家庭だったかと。『なんで子供がこんな辛い思いをしなきゃいけないんだろう』といつも思っていました。同じような生き辛さを抱える子供たちを支えたいと、養護施設や埼玉県・川口にある子ども食堂でボランティアをしました。そういった活動を続けていくうちに、子供だけではなく、保護者のほうこそ支援が必要なことに気がついたんです。

 暴力をふるう親から子供は引き離したほうがよいと思いますが、そもそも、親もひとりの人間。きっと私の親もほかに頼れる人がいなくてしんどい思いをしていたんだな、と。辛いと思った時に誰かに話せる場所、子供から離れたいときに少し離れることができる場所があれば、虐待も減るかもしれない。そういった個人的な思いがあり、子ども食堂の経験を活かして、シングルマザーやシングルファーザーを支援する組織を作りたかったんです」

◆国立大学入学後、東京での生活苦で夜職へ

――石川さんが運営する「ハピママメーカープロジェクト」は職業や性別に関わらず、困窮者に食材を無料提供するフードパントリーを開催していますが、「夜の世界で働くシングルマザー」向けの支援を強化していますよね。なぜ夜職のママたちなのでしょう?

石川「私は国立大学に通っていたのですが、東京での生活は思っていた以上に費用が掛かり、学費と生活費のために最初の頃は早朝や夜もバイトをしていました。ご飯もコンビニでもらう廃棄を食べたり、大学のシャワー室を使って費用を抑えたり。そのうちに体を壊してバイトをかけもちすることができなくなり、夜の世界でスタッフやキャストとして働くようになりました。

 大学卒業後は公務員になりましたが、大学在学中からのうつ病が悪化し、フルタイムで働けなくなったんです。隔離病棟に入っていた時期もありました。退院後はハローワーク経由で障害者枠として介護施設で働いたりもしましたが、続かず。

 自分の居場所は昼の世界にはないんだ。夜にしか居場所はないんだと思い、再度夜の世界へ入っていきました。ナイトワークだと週に2、3日だけ働いても、食べていける。そういうわけで、夜の仕事をしながら、残りの5日をゆっくり過ごして、うつ病を治した経験があります」

◆性産業の縮小には国の制度の改善が必要不可欠

――国立大学なのに生活が苦しくなるという学費設定そのものがおかしいですよね。多くのヨーロッパの国立大学は大学院までほとんど無料です。

石川「学校を無償化し、シングルマザーなどへの福祉制度を充実させることによって、結果として性産業が縮小するのであれば、それは良いことだと思います。業界全体の供給過多での価格崩壊も防げるかもしれない。なのに、国は制度を改善せずに、性産業を差別して社会から排除しています」

◆性産業をバッシングして正義感を振り回す風潮

――コロナの持続化給付金や家賃支援給付金の対象から性風俗事業者が除外された件についてどう思いますか?

石川「性風俗産業が『本質的に不健全』だから給付金対象外にされた件については、ほかに合理的理由が見つからなかった、国の苦し紛れの言い訳なんじゃないかと。現在、大阪のデリバリーヘルス事業者が国を相手取った訴訟が注目を集めていますが、法を遵守し納税している性風俗事業者を対象外にすることにより、セックスワーカーへの偏見がどんどん強くなることを危惧しています。また、業界の中でまともな店を潰して何がしたいのかと。

 そもそも、『本質的に不健全』と国が宣言するなら、なぜ、性産業を法律で認めるのでしょうか? 貧困、病気、障がいで生活できない、子供を育てられない人たちはどうやって稼げばよいのですか? 風俗をバッシングして生活保護を受ければ良いと簡単に言う人もいますが、生活保護は権利だと思いますが、生活保護は受けたくないという人もいる。生活保護世帯も大変だから。万能な制度と言えるでしょうか。生活保護世帯で育って、そこから抜け出したくて夜業界で働く人だっています。

 私のように夜の世界で働くことにより、生活を立て直すことができた人もいます。性風俗業界では30万人以上が働いていると言われていますが、恐らく数字に出てこない人もたくさんいるでしょう。その人達のバックグラウンドは多様で、働く理由も様々。やりたくないけど子供のために頑張って働いている人もいれば、やりがいをもって働いている人もいる。子供の受験や修学旅行のために、毎日必死で働いている人達がいるんです。そんな思いで働いている人達の職業を、根本的な解決策や代替案もなく国や社会が排除することに激しい怒りを感じています。

 個人的には性産業はなくならないと思っています。もし違法にすれば、アングラ化し、もっと危険性が高くなるだけ。現在、性産業界全体は健全化へ向かっています。もちろん、なかには悪質な業者もあり、そういった業者はなくなっていってほしいと思いますが、夜職に対する偏見が強くなればなるほど、そこで働く人達が自分になにかあったときに相談しづらくなってしまう……」

◆性産業はわかりやすいターゲット

――特に性風俗で働く女性は被害者だというステレオタイプがありますよね。

石川「被害者だというのであれば、その被害を起こした原因を追求すればよいのに、『あの人達は可哀想だから、性風俗業を廃止しろ』と言うだけで満足している気がします。性産業はわかりやすいターゲットなんです。敵にしてバッシングすれば、自分の正義感が満足する。福祉制度について社会に問題提起するよりも、社会規範から逸脱した存在を叩き、自分のストレス解消のはけ口にしているのではないでしょうか? でもそれは、何の問題解決にもつながらないと思っています」

◆朝キャバや昼風俗の8〜9割はシングルマザー

――夜職に対する偏見のなかで、男女の性別で違いはありますか?

石川「私の見聞きした限りでは、男性と女性だと偏見の性質が違うかもしれません。私達の活動が大手新聞紙に取り上げられたときに、あるシングルマザーから『昼間働いている私のほうがよほど大変なのに、なぜナイトワーカーを救済するのか』という苦情の連絡が来たことがあります。女性だと『私達は夜職に頼らずに、必死に真面目に昼間働いているのに』、男性だと『女性の性は家のなかにあるものだ』という偏見を感じました」

――性風俗業に従事する女性のなかでシングルマザーは多いのですか?

石川「全体的な数字は分かりませんが、個人的な感覚だと朝キャバや昼風俗だと8〜9割がシングルマザーという感覚です。私が見てきた店だけですし、年齢層もエリアや店によって変わるので一概には言えません」

◆子供を思う気持ちは昼職も夜職も関係ない

――先程、「夜職についている人達は悩みを相談しづらい」とおっしゃいましたが、彼らは罪悪感から助けを求められないのでしょうか?

石川「夜職の人々のなかでもシングルマザーは罪悪感を感じていて、社会規範から逸脱した存在だと自らも思ってしまっているように感じます。世間一般から見たらそうかもしれませんが、子供を思う気持ちは昼職も夜職も関係ないと思います。私の周囲の夜職のシングルマザーたちは、昼職の母親と同じように必死に働いています。

 子どもを成人させられたら死のうと思っているとおっしゃる方もいました。負い目を感じないでいられるようにしたいです。

 また、夜職の女性達は同じ悩みを抱えているのに、競争社会ですから、同僚と“横のつながり”を築くのが難しい場合が多いのです」

◆“横のつながり”が作れない職場

――それはどういう意味ですか?

石川「キャスト同士が連絡先を交換するのを禁止している店もあります。キャストは個々によってお給料も違えば、お店でのキャラ作りも違います。例えば、キャストが『彼氏がいないキャラ』を店で演じていても、なにかのはずみで他のキャストが『実は彼氏がいる』と漏らしてしまったら、すごく怒ってしまうお客さんもいます。必ずしもキャスト同士の関係がギスギスしているわけではないですが、お互いのプライベートを知りすぎないようにある一定の距離を置いて働く人達が多いのです。もちろん、ケースバイケースですが」

◆「セックスワークisワーク」という考え方

――キャストは、客に夢を売るアイドルのような役目を果たしているわけですね。

石川「はい。プライベートをお客様にオープンにしているキャストも一部いますが、だいたいの方は子供、夫や彼氏の有無、年齢、人生の目標、などキャラを作っています。“素の自分”で接客する人は少ないでしょう。

『セックスワークisワーク』という理念がありますが、接客はあくまで仕事。そこはお客さんサイドにも認識してほしい。店やキャストが提示する以上の過剰なサービスを求めるのはルール違反だということを。

 キャストがお客さんに嫌な目に遭わされていても、店がそれを見逃してしまう場合も多々あります。とにかく、この理念が認識されることは働いているキャストがお客さんに対しても、お店に対しても権利を主張する、身を守るという点で大切なことだと思っています」

――夜職とはいえ、お店で働いていない時間帯も、お客さんとLINEでやりとりしたり、お店のブログを更新したりと、実際は日中も働いているキャストもいると聞きました。

石川「昼にやっているお店もあります。営業時間外に仕事をしているキャストもいます。それは人によりますが、マメな方はお客さんと頻繁なやりとりをして、お客さんに来てもらったりしていますね。お店はキャスト同士で競争させるので……。ただ性風俗だと連絡先は教えなかったり、業種によって変わります」

◆コロナで困窮する夜職シングルマザー

――「ハピママメーカープロジェクト」がフードパントリーを始めて約1年経ちますが、困窮する夜職のシングルマザーは増えていると感じますか?

石川「増えていますね。私のところだけではなく、どこのフードパントリーや子ども食堂も予約ですぐにいっぱいになります。いまは先着50世帯に食料を届けていますが、あっと言う間に予約が埋まります。1年前に始めたときは15世帯に届けていましたが、メディア様に取り上げていただくたびに、個人様や企業様からの寄付が増え、そのおかげで50世帯分を提供できるようになりました。けれども、マンパワーの限界があり……。

 現在、50世帯プラス、緊急支援として月3件ほど、埼玉件から県外にまで郵送で食材を送っていますが、運搬や引き取りが課題です。というのも、食材を寄付してくださる企業さんへ日中に食材を取りに行かなくてはいけない場合が多く、私たちも昼間の仕事をしているので難しく……」

◆夜の世界で働く人達に知ってほしい、「確定申告」の大切さ

――「ハピママメーカープロジェクト」はフードパントリーのほかにも、確定申告勉強会なども開催していますね。

石川「フードパントリーのときに、確定申告勉強会、母子それぞれに向けた無料学習塾、新ママさんための看護学校へ行くための資料、無料低額診療所の情報などを渡しています。

 確定申告の仕方が分からないから行政に頼れないナイトワーカーもいます。現実には、確定申告をすれば、保育園や家賃補助に申し込めたり、個人事業主としてコロナ持続給付金にも申し込めました。

 セカンドキャリアへ向かうにも、これまでの職歴をどう書いてよいか分からない人も多いのですが、セラピストとして開業届けもできます。きちんと確定申告をしていれば、自分の存在証明や職歴になるので、自分の身を守るためにも、納税の意識は夜の世界で働く人達に高めていきたいと思います」

◆今後の目標はシングルマザーのための「通い型のシェアハウス」

――「ハピママメーカープロジェクト」の今後の目標は何でしょう?

石川「シングルマザーのために、通い型のシェアハウスをやりたいと思っています。1階は託児所、2階はお母さんが子供と離れて休憩や勉強ができる場所になる、シェアハウスを開きたいですね。いま私が勤めている会社は、ちょうどお母さんたちの就労支援やシェアハウスプロジェクトを行っているので、そこから学んだことを団体の活動にも活かしたいと望んでいます。

 食料や経済支援のほかにも、“心の支援”が大切だと思っていて、フードパントリーでも、できるだけ“つながり作り”を重視しています。なぜなら、夜業界は人と人が“つながらないこと”が一番の問題だと感じるから。子供が遊べるスペースやイベントを提供して楽しんでもらう。そのなかで関わりを重ねていくうちに、誰かとつながることで精神的に楽になってほしいです。これからも当事者目線で、一方で当事者には色々な考えをもった人が存在するという意識を忘れずに『ハピママ』の活動を広げていきたいと望んでいます」

【石川菜摘(いしかわ・なつみ)】

「ハピママメーカープロジェクト」運営者。国立大学卒。在学中から鬱病発症し公務員になるも、隔離病棟へ。退院後再度「夜の世界」へ。風俗などの夜職も”仕事”の一つ。困った時の生活保護などの福祉制度の利用は権利。現在他数名の当事者と共に夜職シングルマザー向けフードパントリー :食材無償提供活動(シングルファザー、単身生活困窮の方も対象)や交流活動を実施。”ママ”=子育てに携わる全ての人。Twitter:@happy_mama_nats

<取材・文/此花わか>

【此花わか】

映画ジャーナリスト、セクシュアリティ・ジャーナリスト。手がけた取材にライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、エディ・レッドメイン、ギレルモ・デル・トロ監督、アン・リー監督など多数。現在、アメリカン・カレッジ・オブ・国際セクソロジスト認定セックス・エデュケーターに向けて勉強しながら、「セックスレスのための性教育と映画」(noteマガジン)で映画とセクシュアリティに関する情報を発信中。墨描きとしても活動中。Twitter:@sakuya_kono Instagram:@wakakonohana

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