俳優・磯村勇斗「俳優という仕事にゴールはないし、正解もないと思う」

俳優・磯村勇斗「俳優という仕事にゴールはないし、正解もないと思う」

WOWOWオリジナルドラマ「演じ屋」に主演する磯村勇斗さん

ドラマ・映画と幅広く活躍する俳優の磯村勇斗さん(28)が、7月30日(金)に放送がスタートされたWOWOWオリジナルドラマ「演じ屋」に、女優の奈緒さんとともにダブル主演を果たします。依頼された役になりきる職業=演じ屋が、演じることで人々の心は救えるのかという斬新な設定の物語で、「社会問題に立ち向かっているところがこのドラマの魅力」と、すべてを失い、演じ屋に巻き込まれながらも魅了されていく主人公トモキ役の磯村さんは語ります。

 その放送を記念して、磯村さんにインタビューを実施しました。社会派のテーマも扱う「演じ屋」というドラマに参加して得た学びをはじめ、視聴者の反響を集めた「情熱大陸」で吐露した俳優業への悩みは、現在はどう変化したのか。「俳優という仕事にゴールはないし、正解もないと思うんです」と語る若手実力派に、さまざまなお話をうかがいました。

◆社会問題に切り込む作品の魅力

――演じ屋という設定が斬新で面白いドラマですよね。主演が決まった時、どこに魅力を感じましたか?

磯村勇斗(以下、磯村):おっしゃるように演じ屋という題材が新しくて、面白いなと僕自身もまず最初に思いました。それから台本を読み、演じ屋が何と戦っているのかを考えた時に、社会に紛れている闇の部分、普段見えないものと戦っている点がいいなと思いました。社会問題に立ち向かっているところがこのドラマの魅力だと思います。

またそこに登場人物各々の家族問題が重なっていく、いわゆる自分の居場所みたいなものを見つけるドラマになっていたので、台本を読んだ時点でものすごく好奇心がそそられました。

――もともとこういう社会的なテーマに関心があったのですか?

磯村:そうですね。社会的なことに関しては、だいぶ前から関心があったので調べたりもしていました。以前、自分で映画を監督をした際にも社会問題をテーマにしていたので、このタイミングで今回「演じ屋」のお話をいただけたのはよかったです。

――いくつかのテーマもありますが、ご自身が一番視聴者に推したいテーマは何でしょうか?

磯村:いろいろあるのですが、見捨てない心、諦めないことですかね。彼トモキも死のうと思っていたところを、アイカ(奈緒)に助けてもらうんです。人がどこか一歩踏み外してしまいそうな時に手を差し伸べてくれる救いみたいなものが、演じ屋という疑似家族を通して届くのではないでしょうか。しっかりと問題に向き合うということ、目をそらさないということが大事だなと思いました。

◆磯村勇斗が考える『居場所』

――以前のコメントで「僕自身も今の『居場所』はどこなのかを考えてしまいました」と言われていましたが、何か答えは見つかりましたか?

磯村:最近思うのは俳優という仕事はとても孤独で、特にこういうご時世なので、ファンのみなさんの声が分かりやすく届かないんですよね。舞台挨拶をしても無観客で、そういうことが続くと、なかなか直に言葉が聞けないんです。そう考えた時、自分の居場所というものは、どこかの誰かの心の中にあればいいのかなと思うようになり、役や作品をずっと好きになっていてくれたら、それが自分の居場所なのかなと。目に見えるものではないけれど、しっかりと見てくださった人の心に刻まれる俳優でいたいと思うんです。それこそが居場所だろうと。

――それで孤独な感情も解消されるのでしょうか?

磯村:解消はされないかもしれないです。でも俳優って、ずっと孤独なものだと思うんです。役と向きあっている時はひとりなので、それを少し和らげることができるみたいことはあると思う。今は孤独だけれど、ちゃんと作品という居場所があるなら、少し孤独が和らぐのではないかと思います。

――磯村さんと言うと最近でも話題になったドラマ『珈琲いかがでしょう』や、映画『東京リベンジャーズ』、劇場版『きのう何食べた?』など、毎回違う役柄も注目だと思いますが、毎回挑戦でしょうか?

磯村:そうですね。どの役も絶対同じということはあり得ないので、その都度いただいた役に一生懸命向かい合って生きるということを大事にしています。

◆「情熱大陸」で明かした”悩み”と”その後”

――今年3月の「情熱大陸」では、作品が重なりすぎて「このままでは俳優として腐ってしまう」「自分は俳優に向いていない」と吐露されていましたよね。その悩みは今もありますか?

磯村:そういったモヤモヤした思いは、確かにあの密着の頃はありました。作品がいくつも重なり、自分のことでいっぱいになっていたところはあるので、だからそういう言葉が出てきていたと思うのですが、実は番組の後半ではちゃんと思いを言っていたんですよね。車の中で「俳優をやっていて楽しいですか?」というくだりのあと、「……」で終わっているのですが、あの後ちゃんと話をしているんですよ(笑)。

――実際は、それほど思いつめてはいない?

磯村:いえ、もちろんあの時は、迷いはありました。でも、そういう時期も必要だと思っていたので、苦しい経験みたいなものは怖くはなかったですし、先が見えないことも全然怖くないんです。人生を長く見た場合、当たり前にあることだと思うんですよ。なのであの時底辺にいたとしたら、今は少し登って行って、周囲もゆっくりと見られるようになっています。

一度そこまでハードなスケジュールを経験しているので、次に似たような状態になっても余裕をもって現場に入れる気がします。今はわりと明るく、前に進めています。苦しいことがあってもいいわけなので、まったくマイナスに考えているわけではないんです。成長しました(笑)。

――煮詰まった時などはどう打開しますか? リフレッシュ法などはありますか?

磯村:僕はサウナです。定期的にサウナに行くことによって、一度無になります。その無の時間がすごく大事だなと思っていて、何も考えない時間を5分でも作れるかどうかで、だいぶ心に余裕が出きるというか、サウナがとても大事な場所ですね。映画館で映画鑑賞でもいいのですが、脳に何も入れないほうがいいんです。休ませることも大事かもしれない。あとはゲーム。これも無になれます。

――その延長で、今何かしたいことはありますか?

磯村:それはもう海外旅行ですね。僕はまだアメリカ圏ではハワイしか行ったことがないので、欧米のアートやエンターテインメントに触れることで、何か感覚が変わるかもしれない。インプットがたくさんできるところに行きたいです。海外に行くと自分がいかに狭いところで生きているかが分かるので、せっかくなら様々な国に行って、色々なことを経験したいですね。

◆俳優という職業

――今、仕事をする上で心がけていることは何でしょうか?

磯村:楽しむことですかね。

――それは、仕事なので、ある種難しいですよね。

磯村:難しいですよね。でも、やっとそう思うようになってきたんです。「情熱大陸」の密着期間はわりと時間や作品に追われていて、あの期間 = 苦しいみたいなイメージのようですが(笑)、今も作品が重なっている時はあって、楽しもうくらいのスタンスでいます。もちろんそれは、手を抜くという意味ではなく、そうすることで少し視野が広がり、楽になるんですよね。やっぱり自分自身が楽しめているほうが、画面越しにも伝わる気がします。

――そう思うようになったきっかけがあったのでしょうか?

磯村:一か月くらい前に突然、ですかね。最近の話なんですよ。でも、そうなったのは、苦しい時期を一度経験したからだと思うんです。きっと俳優って、そういうことの繰り返しなんですよね。あの時1回を経験したから、強くなっているので、気持ちにも余裕ができている。あの時の苦しい思いがあるから、自分はまだやれるという自信になっている。もっと大きな壁が来たら同じようにもがき苦しむけれど、きっとその先に願いが叶ったり、目標を達成できることになるんだと思うんです。

――俳優の目標達成や成功って何でしょうか?

磯村:何でしょうかね。ハリウッドスターなら豪邸を買うとかわかりやすい成功の形があると思うのですが、俳優の成功は分からないかなあ。たとえば亡くなる前、「明日が山場です」となった時に、どれだけたくさんの俳優たちが僕を囲んでくれているかで「オレ、成功したなあ」と思うかもしれない(笑)。やっていてよかったと思うかもしれない。それが成功かどうかも今はわからないですが、僕らは永遠にやっていかなければならないし、いろいろなことを常日頃、探究しなくてはいけない。かと言って、分かりやすいゴールもない。結果的には、どれだけ名作を人の心に残せたかになると思うんですよね。そう思って日々、探究していきます。

スタイリング:笠井時夢/Tom Kasai

ヘアメイク:佐藤友勝/Tomokatsu Sato

<取材・文・撮影/トキタタカシ>

【トキタタカシ】

映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。

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