「推しは作るものじゃない、突然やってくるんです」アラフォーおっかけ漫画家に聞く

「推しは作るものじゃない、突然やってくるんです」アラフォーおっかけ漫画家に聞く

?竹内佐千子 集英社

竹内佐千子のコミックエッセイ『沼の中で不惑を迎えます。 輝くな! アラフォーおっかけレズビアン!』発売記念インタビュー。

 作者・竹内さんと担当編集エイチさんに、おっかけのこと、家族のこと、健康のことなどを、独自の切り口と表現力で描いた本作品の制作裏話を聞いた前編から、話題はアラフォーの推し活談義へ…。

◆推しに自分の健康をゆだねるのはやめようね

『女子SPA!』編集K(以下、K):おっかけの際は体力に気をつけたほうがいいという回(第5話「蘇らないオタク」)が、公開時にツイッターでとてもバズっていました。推し活をしている人からの反響が大きかったのでは?

竹内佐千子(以下、竹内):身につまされたって意見が多かったですね。もうすでに壊しちゃった人とか。アラフォーで推し活してる人多いですからね。テレビで推奨してるくらいですし。ほんとやめて!って思いますけどね。

K:最近、テレビなどで「推し活がいかに心の健康にいいか」みたいに言われていますけど、そういう部分だけじゃないという…。

竹内:そうです。推しに自分の健康をゆだねる人とかいるから、それは本当にやめようねって思います。推しの全部を知ってるわけじゃないですからね。いい子だと思ってた子がいつ何で捕まるかわかんないですから…。

 逃げ道をたくさん用意しておくことが大事。あまり一直線になりすぎないでね、アラフォー…。エイチはうまいんですよね、そのへんが。

エイチ:そうですね、通勤時間しか動画を観ないとかルールを決めてるんです。最近のアイドルって複雑すぎてついていけないんですよ。アプリを入れないと観られない動画があったりとか、SNSの基礎スキルがないと追いかけられない。それが自然とブレーキになっているんです。

◆全部網羅しようとしちゃうんですよね、アラフォーって

竹内:私たちが20代の頃って、プラットフォーム自体が少なかったじゃないですか。ライブハウスに行ったりとか、雑誌買うくらいしかなかったと思うんですよ。後はテレビとか。

 だけど今って、テレビもあるし、YouTubeも、インスタライブ、ツイッター、クラブハウスもできたし、それに加えて従来のCD、DVD、ブルーレイ…。で、コロナになって配信も増えた。どうしても全部網羅しようとしちゃうんですよね、アラフォーって。頑張れば網羅できていた時代の人たちなので。

 でも絶対体がついていかないんですよ。脳みそのスペックがそもそも足りてない。

 アイドルの人たちは、全世界にファンがいるのでいろんなプラットフォームからいろんな国の人に向けて発信するのは当たり前だと思うんですけど、それを全部追いかけようとするとお金では解決できない域に達してしまうから。

 好きなものは取りこぼしたくないっていう気持ちはわかるんですけど、全部はやめよ?って。

 あと、リアルタイムにこだわるのもやめよ? 観れなくてもアーカイブが残るから大丈夫だよ?って。

◆推しは作るものじゃない、突然やってくるんです

K:私は『沼の中で不惑を迎えます。 輝くな! アラフォーおっかけレズビアン!』の連載を読んでる途中から推しができたので、読み方が途中から変わりました。同じ動画を何度も観るのは「わかる〜」ってなるけど、同じCDを12枚買うのはわからなくて、オタク心にもグラデーションがあるんだなと思いながら拝読してました。

竹内:ほんとですね。推し活にも十人十色いろいろあるのに、「推しを作ると幸せだよ」って暴力的に言ってくるテレビ! 推しは作るものじゃないんですよ、推しは突然やってくるんです。こんな世の中になっちまったんで、この本を投下して相殺されないかなと(笑)。

エイチ:本のカバーデザインの相談をしていた時に、竹内さんが「私のことをダイバーシティとかハートフルなものを描く人間だと思ってる人たちを斧で追い払いたい」と仰って…。「そういう本にしたいんだ!」という強いご意向で。

竹内:確固たる意志がそこにはありました。

エイチ:そんな気持ちで描いていたんだ!?って驚いて(笑)。でも、アラフォーって「共感」とか「わかり合える」みたいな口当たりのいい言葉が、嘘じゃんって気づく年齢でもあるんですよね。だから、当たり障りのないことを言うよりは、切実さだけがそこに残るような本になればいいなって思ってました。確かに、ハートウォーミングな本にはならなかったですね(笑)。

竹内:これを機に、私にハートウォーミングな話を振るのはやめてねという決意表明みたいな本でもあります。それを言えるようになってきたのも、アラフォーになってよかったことかなと思います。若い頃は言えなかったし、気づいてなかったのもありますね。なんでみんなこんなに私のこと「いい人」だと思ってるんだろうって。

 弱者とかマイノリティに属する人は優しいと思ってる人が多いんですよね。そんなことねえぞ! あっ、でも『赤ちゃん本部長』もよろしく(笑)。『赤ちゃん本部長』も最初は結構抵抗してて、SDGsに貢献したいわけじゃないぞ!って気持ちでいたんですけど、もう最近は開き直ってきちゃって、そのために描きましたけど何か?みたいな顔してます(笑)。この本があって、『赤ちゃん本部長』もあって、それは全然矛盾することじゃないからね、って言いたいです。

◆アラフォーは元気がなくて当たり前じゃないですか

――アラフォーはノストラダムスの予言を聞いて育ったせいで「明日死ぬかもしれない」と思いがちだし、「死」の不安よりも「生」の不安の方が強いのではないかという考察は、身につまされました。つい無茶しがちなアラフォーに向けて、メッセージをお願いします。

竹内:アラフォーって気持ちと体の年齢が合ってない世代だと思うんです。体が先に衰えて気持ちは若いままとか、その逆の人もいるだろうし。元気じゃなくなってきたからって、キューピーコーワゴールド飲んだりとかそういうことに頼らないで、無茶がきかなくなってるんだし、毎日疲れてるしだるいのが当たり前だと思って、お願いだから元気を出そうと頑張らないで欲しい。

 自分に毎日言い聞かせてることですけど(笑)元気がなくて当たり前じゃないですか。まだ元気じゃないといけないみたいなプレッシャーのある世代でもあると思うんですけど。

 あと、コロナ禍になって1年半くらい経って、周りのアラフォーの友達を見てると、本っっ当にアルコール依存症一歩手前までいってる子が何人かいて。アラフォーから酔い方も変わってきます。酔った自分がどれだけヤバいか気がついて。そしてお酒の飲み過ぎだけは気をつけて…と。

エイチ:私もお酒で身を滅ぼしかけたことのある人間ですので、人のことは言えないんですけど、最近はノンアルコール飲料っていろいろあるじゃないですか。

 ノンアルにちょっと酒を入れて飲むっていう最高の飲み方を見つけたんですよ。ノンアルコール飲料っていかに本物のお酒の味を再現するかに賭けているので、それに本物の酒を入れることで、酒より酒らしい「酒のイデア(理想形)」みたいなものができるんです。酒量が気になる方におすすめのライフハックです。

竹内:全然わかんない!!(爆笑)

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 作者は「私たちはわかり合えない(だから面白い)」というスタンスを崩さない。竹内佐千子の作品が、あらゆる層に受け入れられる所以(ゆえん)だろう。 オタクじゃない人もアラフォーじゃない人も、赤裸々な「決意表明」を楽しんで欲しい。

<文/藍川じゅん>

【藍川じゅん】

80年生。フリーライター。ハンドルネームは永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。

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