医師で3児のママ・内田舞さん「『ドラえもん』のしずかちゃんがきっかけで渡米しました」

医師で3児のママ・内田舞さん「『ドラえもん』のしずかちゃんがきっかけで渡米しました」

3人目を妊娠中にコロナワクチンを接種した内田舞さん

8月下旬、タレントのおのののかさんと、米国の医師・内田舞さん(38)の、twitter上でのやりとりが話題になりました。妊娠中のおのさんがコロナワクチンを打つ不安を訴えたのに対して、内田さんは自身も2月に妊娠中でコロナワクチンを打った経験をふまえて、医学的に解説してくれたのでした。

◆米国の医師で3児のママ

 その内田舞さんは、小児精神科医。北海道大学医学部在学中にアメリカの医師国家資格に合格し、イェール大学に研修医として採用されました。2013年にハーバード大学でassistant professorとして研究と教育研究員をするかたわら、マサチューセッツ総合病院小児精神科のセンター長を務めています。

 なんと最年少で米国医師免許を取得した日本人なのだとか。しかも3児のママですよ!目まいがするほどすごい経歴ですよね。

 そんな内田さんに、アメリカに渡ったワケや、働き方について聞きました。

 内田さんが、アメリカに渡ることを決意したきっかけは、なんと「しずかちゃん」なのだそうです。

 しずかちゃんとは、誰もが知る国民的作品『ドラえもん』の、あの源しずかちゃんです。え、なんのこと?ですよね。

 ではみなさん、しずかちゃんってどういうイメージですか?

 優等生で気がきいて優しくて……悪いところを思い浮かべる人はいないのではないでしょうか。

「頭はいいし、やさしいし、明るくてポジティブ。『源』という名字からも、出自のよさそうな家庭の女の子なのかなと想像できますよね」(内田さん、以下同)

 ですが内田さんは、しずかちゃんみたいになりたい、とは感じなかったそうです。

◆しずかちゃんより、ドラえもんを開発する人になりたい

「知性もあり、性格もよくて、いろんな能力を持っているしずかちゃんですが、のび太やスネ夫をリードすることはありません。リーダーになって欲しい人として描かれていないのです。能力を発揮する場所も見たことがありません。

 あんなによくできた子なのに、周囲の男子からは『しずかちゃんならわかるはずだ』といったふうに見られていません。

 日本社会の理想の女性像は、能力があって、美しくて、いろんなものを持っているのに、それを発揮して何かを創り出したり、ものごとを進めることはしない『わきまえている』女性なんです」

 優等生なのに誰からも頼りにされず、スカートをめくられたり、お風呂を覗かれて「のび太さんのエッチ!」なんて言いながら、なんとなくまた男子に寄りそう、それがしずかちゃんです。

 筆者の知り合いは男性同士の会話で、「しずかちゃんははっきりものを言わないし、自分を綺麗に飾ろうとするところがある。だからのび太くんをキープしつつ、出木杉(できすぎ)くんと仲が良い」と話したそうです。

「もちろん、男性を支えることが自分の幸せ、という人もいるでしょう。それは否定されることではありません。

 でももし私が、しずかちゃんのような能力を持っていたら、のび太くんの世話をする人よりも、ドラえもんを開発する人になりたい。自分の能力や思考を使って人のためになることをしたい、と思ったのです」(内田さん、以下同)

◆日本の医学部で「女性には無理だ」と

 ところがその夢は、日本では叶えられそうにありませんでした。内田さんは、北海道大学在学中に医学部の同級生男性から、

「医者は力仕事だから女性には無理だ」

「女性が働くことによって日本の少子化問題が起きているのだから、女性は働くべきじゃない」と言われたそうです。

 先輩の女性からも、「本気でキャリアが欲しいなら、子どもは諦めた方がいい」と言われました。

 それで内田さんは、2007年に北大を卒業後、アメリカに渡ったのでした。

 日本のジェンダーギャップ指数は、総合順位が153か国中120位(2021年)と惨憺たるもの。では同順位が30位のアメリカで働く、内田さんの環境はどうなのでしょうか?

「アメリカでは40年くらい前から医学部の男女比は半々だったようで、私の上司も半数が女性です。男性の育児は、やって当然と思われていると思います。保育園のお迎えや保護者会なども半数は男性です。

男性が子どもの行事のために仕事を休んだり、子どもが風邪だからと早く帰ることも頻繁に目にします。いわゆる家事の『ワンオペ』は、少なくとも私の周りの家庭では聞いたことがありません」

 もちろん、アメリカでも地域や社会階層によって違いはあるでしょうが…。

◆しずかちゃんになりたい女性がいてもいいけれど

 また、日本で問題になっている「保育園の待機児童」問題は、アメリカではないそうです。

「そのかわり、保育園は私立で、日本の10倍ぐらいお金がかかります。でも『自分が社会に貢献する、自分が成長することは、自分のメンタルヘルス、そして家族の将来に対する投資だから意味がある』という考え方がシェアされていると思います」

 30位でこんなにも日本と状況が違うのですから、1位のアイスランドや2位のフィンランドは、どんな社会なのでしょうか。想像もつきません。

『ドラえもん』の話に戻ると、内田さんもこの作品を否定しているわけではないと言います。でも、『ドラえもん』の連載が始まったのが1970年。当時、女性の社会進出なんてないに等しく、将来の夢は「お嫁さん」でした。しかし今は違います。『ドラえもん』は長く愛される作品だけに、古い感覚が取り残されてしまっているのです。

「いろんな理想像があっていいと思います。けれども、画一的な理想像を社会が提示することで、自分がなりたい姿が見えない、自分に似た人がお人形やテレビの中にいない…という状況は、実はすごく、考え方や精神衛生に影響することだと思います。

 ジェンダー、セクシャルオリエンテーション(性的指向)、仕事形態、家庭の形、障害などに関係なく、自分の理想に向かえる環境を社会としては目指したいですね」

◆いまだに、医学部の入試差別は「必要悪」?

 内田先生が北大に在学していたのは2000年初頭。今は変わったのかというと、そんなことはありません。医師の中で女性の割合は右肩上がりではありますが、それでもまだ21.9%(2018年「医師・歯科医師・薬剤師統計」)。

 2018年には、いくつもの医大で、女子受験生の点数を不当に下げて不合格としていたことが発覚しました。

 現役女子医大生のGさんは、こう言います。

「授業や実習中でのキツい下ネタ、女性だから外科は難しいという風潮などは、現在でも見られると思います。

 私が入試を受けた年がちょうど不正入試が取りざたされた年で、大学入学後に別の大学の繰上げ合格や返金の連絡が来た人が多々いました。なのに現状に対して問題意識を感じている女性の医師や医学生もあまり多くない。

 不正入試問題が取りざたされた際も、『入試差別は必要悪だ』と言っている女性の学生・医師の方が多かったようにも思います」

 これでは、日本に絶望して、海外へ飛び立つ女性は少なくないでしょう。

 近日公開予定の後編では、3人もの子育てと仕事とをなぜ両立できるのか話を伺います。

【内田舞さん プロフィール】

小児精神科医、ハーバード大学医学部assistant professor、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。2007年北海道大学医学部卒、2011年Yale大学精神科研修修了、2013年ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に、米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。趣味は絵画、裁縫、料理、フィギュアスケート、スキー。子供の心や脳の科学、また一般の科学リテラシー向上に向けて、発信している。

Instagram: @maimaiuchida

Twitter: @mai_uchida

<文/和久井香菜子>

【和久井香菜子】

ライター・編集、少女マンガ研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。英語テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。視覚障害者によるテープ起こし事業「合同会社ブラインドライターズ」代表

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