燃え殻×おかざき真里のマンガが成田凌主演でドラマ化。2人に聞いた誕生秘話

燃え殻×おかざき真里のマンガが成田凌主演でドラマ化。2人に聞いた誕生秘話

『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(扶桑社)

十年前に、とある事件がきっかけで高校を去った臨時の英語教師の女性と、そのとき教室にいた生徒たち。彼らの十年間の挫折、喪失、そして再生を描いた青春漫画『あなたに聴かせたい歌があるんだ』が3月24日に発売されました。刊行を記念して、原作の燃え殻さんと漫画を担当したおかざき真里さんの対談が実現! 前編では誕生秘話についてお聞きしました。

◆作り手が自分の世界観で遊べる状況を築きたい

――今回の作品は、5月に配信されるHuluオリジナルドラマのために燃え殻さんが書きおろした原作を、ドラマ化に先駆けておかざきさんが漫画化したものです。このタッグが実現したいきさつからお聞かせいただけますか?

燃え殻:いきさつはまず、うちの妹が僕より先におかざきさんの作品をずっと好きで、昔からトイレに漫画を置いていて、それで僕も好きになって……。

おかざき:だいぶ遡りますね。ていうか、トイレ(笑)。

燃え殻:す、すみません。初めてお会いしたのがいつだったか今となってはおぼろげなんですけど、「いつかお仕事をご一緒できたら」と探りながら、たまにお会いして飲む、という関係が何年か続いていたんです。

おかざき:実はそんなに飲んでないんですけどね。ツイッターで頻繁に交流しているから、たくさんお会いしているような気持ちになりがちですけど。

燃え殻:そうか。SNSではよくやりとりさせていただいていて(笑)。

おかざき:そうそう。

燃え殻:ひとつの作品が多くのメディアで展開していくときって、たとえば小説が原作だったら、まず原作となる小説があって、それをもとに漫画化やドラマ化、映画化されていくじゃないですか。こんなことを言うと原作者として失格かもしれないですけど、それじゃつまらないなというのが自分の中にずっとあったんです。その逆バージョンというか、僕がまず原案となる素材を提供して、それを自由にアレンジして漫画家さんが漫画化して、映像を制作する皆さんが映像化して、その後に僕が改めて小説にする、という流れが作れたらおもしろいなあと。それで、今回『あなたに聴かせたい歌があるんだ』の脚本ができたときに、これを漫画化したいなと思ってまず思い浮かんだ作家さんがおかざきさんでした。

◆「燃え殻さんの原作を読むと、映像が浮かぶ」

おかざき:燃え殻さんは「素材」とおっしゃっていますが、私が受け取った時には既に完成度が高い作品になっていました。しかも、原作を読んでいると次々に映像が浮かんできたんです。だから、「この原作からは自由にアレンジしてほしい」という気持ちは受け取りつつ、違う登場人物を出すとか、大きく組み立て直すことはせず、最初に浮かんだイメージに忠実に漫画にしました。そういう作り方をしたら自分はどうなるんだろう?というのも楽しみだったので。

燃え殻:週刊SPA!での連載を経て単行本化したんですが、連載中は自分もイチ読者になって、「おぉ、こうなるのか」と楽しみました。正直、つらい仕事も日々たくさんあるんですけど……今回は本当に良かったなと思える仕事でした。単行化にあたって、改めて漫画のゲラを仕事場で通しで読んで、すぐにLINEしたんです。

おかざき:朝早い時間に連絡がきて、珍しいなと思いました(笑)。

燃え殻:「おかざきさん、おはようございます。いま全部読み返したんですけど感動しました。おかざきさんと一緒にお仕事が出来て光栄でした」と。よく、「お金じゃない」とかいうじゃないですか。僕は結構リアリストなので、「なんでこんなにお金が儲からないんだ」と思ってしまうこともあるんですけど、今回この作品が1冊になるのが本当に嬉しくて、「お金じゃない」としみじみ思いました。

――おかざきさんはご自身の作品と燃え殻さんの小説は相性がいいとおっしゃっていましたが、どんなところに相性の良さを感じたのでしょう?

おかざき:それは、燃え殻さんがもともと映像畑(テレビ番組の美術制作会社)の人で、私自身は前職が映像に関わる仕事(広告代理店のCM制作)で、二人とも作品が映像的だからなんじゃないかと思います。燃え殻さんの読者には、映画やMV、もしかしたらYoutubeなんかも好きな、映像で育った方が多いイメージがあるので、私の漫画も楽しんでいただけるのではないかと思っています。そうそう、実は燃え殻さんとは25年ぐらい前に、今とは違う立場で出会っているんですよね。私が会社員で、燃え殻さんがスタジオマンで。

燃え殻:スタジオマンっていうと響きがいいんですけど、雑務係で。

おかざき:バイトされていたんですよね。私がよく行っていたスタジオで。

燃え殻:そうです。時給780円で(笑)。

◆KIRINJI『エイリアンズ』がキーになった理由

おかざき:ここでひとつ、声を大にして言いたいことがあるんですけどいいですか?

――どうぞ、どうぞ。

おかざき:この作品にはキーになっている曲があって、全編を通してその曲で人たちが繋がっていくんですけど、最初は違う曲だったんです。

――そうなんですか? KIRINJIの『エイリアンズ』しかありえないと思っていました。

燃え殻:最初はビートルズの『Let It Be』だったんです。それをHuluで映像にするため萩原監督のところに持っていったとき、「使用許諾を取らなくちゃいけない」と。「無理ではないが、いくらかかると思っているんだ?」という話になって。おかざきさんにお渡しした時点での自分の原案も『Let It Be』で、「外国曲、特にビートルズは使用許諾が取りづらいんですよ」という話をしたんです。

おかざき:実は最初に読んだときから、「これは『Let It Be』とか、ビートルズじゃないよな」と思っていたんです。今回の原作だけじゃなく、燃え殻さんの他の著作を読んでいる時も、『エイリアンズ』の歌詞にあるような、みんな月の裏側で生きていて、ひとりぼっちだけどみんな繋がっているような感覚があって。打ち合わせで『Let It Be』が難しいと聞いたとき、「燃え殻さんの文章を読むたび頭の中で流れる曲があるんですけど、どうですか?」って広告代理店ばりにプッシュしたんです。

――そうだったんですね。

燃え殻:映像を全部撮った後に萩原監督から連絡をいただいたんですけど、出演者の方々が、「これは『エイリアンズ』だから成立したんだ」と言っていたらしくて。僕が書いた時点では『Let It Be』だったのに。それでは成立しなかった(笑)。

◆成功のためではなく、納得するためにやる

燃え殻:でも、おかざきさんと一緒にやれたことで、映像のほうも『エイリアンズ』が流れることになったわけです。それこそ僕が最初に思っていた、しっかりした原作があって、それを映像や漫画にしていくのとは違うおもしろさが生まれたなと思いました。

おかざき:私も、漫画を描いていて気持ちがいいなと思う瞬間って、担当さんや誰かと打ち合わせしたり、相手が出してきてくれたものが、自分のイメージを超えるものだったときなんです。オリンピックレコード更新!みたいな。私たちはイメージで仕事をしている人間だから、100mのタイムを縮めていくような気持ちよさはないんですけど、人と仕事をすることでイメージが更新されていく気持ちよさっていうのがあって、それが出来た仕事はだいたいお気に入りです。

燃え殻:僕もそう思います。今、『あなたに聴かせたい歌があるんだ』の小説を書いているんです。それって小説を書く順番として絶対的に間違っていることはわかっているんですが、少なくとも自分の中ではしっくりきている。今回の仕事には、編集さんも含めて「この人と一緒に仕事がしたい」という人しかいない。そういう仕事は過程も面白いし、何よりかけがえがないとも思っています。

――作家が、自分主導で漫画も映像もブッキングするってなかなかないことですよね。作家とプロデューサーの中間というか、今までなかった仕事をご自身で作られたというか。

燃え殻:どうなんでしょう? ただ僕はテレビのバックヤードにいた人間なので、映像に固執しているところがあるというか、こういう絵を見たいと思って書いている時があるんです。もしかしたら、「小説ってそういうものじゃないだろう」と問いただされるかもしれないけど。あと、こういう仕事はお声がかからなくなったら終わる時なんで、ギリ今やれることをやっておきたいんです。最後はきっと、人から指さされて「アイツ、終わったな」って言われるんですよ。

おかざき:言われないですよ!

燃え殻:言われます……。でも、この仕事を始めたとき、成功とか失敗とかいう物差しを捨てなきゃいけないなって思ったんです。成功や失敗って人が判断することだから。じゃなくて、自分の中で納得したか、納得していないかを軸にする商売なんだと思ったんです。

おかざき:今回の燃え殻さんの原作『あなたに聴かせたい歌があるんだ』にあって、漫画にも描いたこのセリフが本当に素敵なので読みあげますね。バーの店主が小説家志望の方に言うセリフです。「あんたもね 失敗するなら今しかないわよ あたしは挑戦できなかったことを後悔してこの店に立ってるの 成功するためにやるんじゃないのよ 納得するためにやるのよ 人生は」。このセリフが本当に大好きで。漫画を描くってしんどい作業で、どこかで手を抜けばいいんですけど、抜くと納得できなくなるので、ここまで描きたいと思ったら描くしかない。つまりは、納得なんですよね。『あなたに聴かせたい歌があるんだ』は、17才から27才の十年間の間に、夢に向かって頑張るけど、叶わなかったという人もたくさん出てくる。それを周りが「失敗」だと言ったとしても、納得できたかどうかのほうが大事。燃え殻さんの仕事への姿勢が、原作の中にも通底するテーマとして描かれていたんだなって思います。(後編は近日公開)

◆Huluオリジナル『あなたに聴かせたい歌があるんだ』あらすじあの時、17歳だった僕らは27歳の大人を冷めた目で見ていた。17歳は、どんな夢も叶うと信じていた無敵で最強の時期だったけれど、時間は誰にでも平等に流れている。僕らはあの時の大人と同じ27歳になった。役者になる夢を諦めきれずにもがく荻野智史(成田凌)、アイドルになりたかった前田ゆか(伊藤沙莉)、小説家志望の片桐晃(藤原季節)、売れないバンド人生に区切りをつけラーメン屋を継ぐ中澤悠斗(上杉柊平)、人気アイドルのモノマネに活路を見出した島田まさみ(前田敦子)、そして17歳だった彼らに27歳という年齢を刻んだ元英語教師の望月かおり(田中麗奈)。27歳だった先生と27歳になった生徒たちの運命が10年の歳月を経て再び交わろうとしていた。

<取材・文/山脇麻生>

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