宇垣美里「子どもが訴える『どうして』に、答えはまだない」/映画『モガディシュ 脱出までの14日間』

宇垣美里「子どもが訴える『どうして』に、答えはまだない」/映画『モガディシュ 脱出までの14日間』

撮影/中村和孝

元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。

 そんな宇垣さんが映画『モガディシュ 脱出までの14日間』についての思いを綴ります。

●作品あらすじ:1991年、ソマリアの内戦が激化し、反乱軍が首都のモガディシュを制圧、空港は封鎖され通信網が断たれる中、命の危険にさらされた外国人たちは、生死をかけて脱出しようとしました。

ソマリアに駐在していた韓国大使ハン(キム・ユンソク)は、いったいどんな運命のいたずらか、激しく敵対していた北朝鮮の大使たちと、脱出への死闘を共にすることに。果たして、全員で生きて脱出することができるのか、そしてその方法は──?

近年になってようやく事件の顛末が公表され、知られざる事実への丹念なリサーチが行われ、映画化が実現。第94回アカデミー賞国際長編映画賞部門の韓国代表作品にも選ばれたこの作品を、宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)

◆人は窮地に陥ったときに、秘められた人間性が出る

 人は窮地に陥ったときにこそ、その内に秘められた人間性が出るという。路上に転がる死体の山に、昼夜なく響き渡る銃声。孤立した状況のなか、なんとか全員の命を救わんと連帯し、力を尽くした2か国の外交官たちがいた。けれど、彼らの祖国の間には、いまだ大きな隔たりがある。

 1990年、ソマリアの内戦が激化。政府軍対反乱軍の戦場と化した首都モガディシュに取り残された韓国の大使館員たちは、同じく取り残された北朝鮮の大使館員たちと命懸けで脱出を試みる。

 国連加盟を目指し、腐敗だらけのソマリア政府に対するロビー活動に四苦八苦する様子や、韓国と北朝鮮で互いに足を引っ張り合う様子がコミカルに描かれる冒頭のユーモラスな政治劇から一転、内戦によって秩序が崩壊し、略奪や焼き討ちが横行するモガディシュのまがまがしさにどんどんと血の気が引いていくのを感じた。

 血煙立つ銃撃戦に幼い子どもまでもがおもちゃのようにライフルをもてあそび実弾を撃ち放ち、敵味方なく人がぼろぼろと死んでいくさまはまさしく地獄で、全編モロッコロケで撮られたそのスケールとリアルさは圧巻。

 ワンカットのカメラワークで魅せる命を懸けたカーチェイスシーンのすさまじい緊張感に、ラストまで一瞬たりとも目が離せない。心の動きが見て取れる両国の大使館員が食卓を共にするシーンや工作員同士の喧嘩アクションなど、見どころ満載で韓国年間ナンバーワンヒットも納得。

◆よかったよかった、で終わらせない苦い余韻

 よかったよかった、で終わらせないラストの苦い余韻に南北の現在を思う。死線を共にくぐり抜け確かな絆が芽生えたはずなのに、彼らの人生がその後交わることはなかっただろう。イデオロギーが、国が、人と人との間に生む溝は何のためのものなのか。

 ウクライナやアフガニスタン、今なお戦地は地上のそこここに存在している。死地で手を取り合った韓国と北朝鮮もまた、休戦状態にすぎない。子どもの目線によって訴えかけてくる「どうして」。けれどその目はそっと大人たちの手で遮(さえぎ)られる。答えは、まだない。

『モガディシュ 脱出までの14日間』

監督/リュ・スンワン 出演/キム・ユンソク、チョ・インソン、ホ・ジュノほか 配給/ツイン、カルチュア・パブリッシャーズ ?2021 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS & FILMMAKERS R&K All Rights Reserved.

<文/宇垣美里>

【宇垣美里】

’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。

関連記事(外部サイト)