磯村勇斗の過激な濡れ場も…カルト宗教の危険性を描く怪作『ビリーバーズ』

磯村勇斗の過激な濡れ場も…カルト宗教の危険性を描く怪作『ビリーバーズ』

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7月8日より映画『ビリーバーズ』が公開されている。

 本作は、時に有害図書に指定されるほどに過激な作風の漫画家・山本直樹の同名コミックを原作とし、多くの成人向け映画を手がけてきた城定秀夫監督がメガホンを取っている。

 もちろん、直接的な性描写があり堂々とR15+指定がされている。しかしながら十分なエンタメ性があり、インモラルな設定のようで作中のモラルは真っ当という、意外な万人向けの親しみやすさもあった。主演の磯村勇斗を中心にした、さらなる魅力を記していこう。

◆笑うに笑えないけど笑えるダークコメディ

 この『ビリーバーズ』の基本的な内容は、「宗教団体に属する3人の男女が無人島で共同生活をする」というシンプルなもの。ジャンルは、あまりの事態に笑うに笑えないが、それでも笑ってしまいそうになる「ダーク(ブラック)コメディ」と言い切っていい。

 何しろ、彼らは「俗世の汚れを浄化し、安住の地を目指すための修行」という名目で無人島にいて、瞑想や見た夢の報告やテレパシーの実験など、側から見れば「あっ……この人たちカルト宗教に洗脳されていてヤバいな……」と思うばかりの日常を過ごしているのだから。世間から隔絶されたコミュニティで危険な思想が信じられている様から、口コミで話題を集めたホラー映画『ミッドサマー』(2020)を連想する人もいるだろう。

◆洗脳された人たちの無人島サバイバル

 彼らは自身たちの日々の行いが正しいと信じきっているし、時には厳格すぎる態度で他のメンバーの規律に反した言動を「告発」しようとする。さらには宗教団体の本部から時おり送られてくる食糧を頼りにギリギリの生活をしていて、どう考えてもヤバいものも口にする。

 それらには良い意味での「ツッコミ不在の恐怖」も感じるし、時に思わず吹き出してしまいそうな凶悪なギャグも飛び出す。なんだかんだで3人が仲良く過ごしている様子にほっこりもしたりもするが、一方で平和を脅かす悪意へ本気の恐怖を覚える場面もある。

 そんなバラエティ豊かな「カルト宗教に洗脳された人たちの無人島サバイバル」ぶりを大いに楽しめる内容なのだ。

◆磯村勇斗の役は大真面目

 本作のさらなる目玉は、磯村勇斗が映画初主演を務めたことだ。飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍し、2022年は8月26日に『異動辞令は音楽隊!』、9月1日に『さかなのこ』と出演映画が待機する磯村の今回の役はまさに当たり役だった。

 何しろ、今回の『ビリーバーズ』で磯村が演じる主人公は、「バカ」がついてしまいそうなほどに大真面目な役柄だ。規律を厳格に守ろうとし、北村優衣演じる「副議長」がいかに魅力的でも性欲を必死で抑えようと頑張るし、時には勇気を持って悪意に立ち向かう場面もあるが、それでも周りに振り回されてしまうし、間が抜けているところがあって憎めない。

 メインキャラ3人の中でもっとも観客に近い、ストレートに感情移入しやすい役柄だろう。

◆不良に近い役柄でも思わせてくれること

 磯村はこれまでも「内面に真面目さがある」役柄を好演してきた。例えば、現在公開中の『PLAN75』(2022)では淡々と商品の説明しながらも優しさを滲ませる市役所職員を、『ヤクザと家族 The Family』(2021)では尊敬する者のために奔走する“半グレ”の若者の役を、『恋は雨上がりのように』(2019)では一見すると軽薄だが実は思慮深さもある青年を好演していた。

 彼は独特の目つき、特に涙袋が目立つルックスのためか、その笑顔を含めた表情にはどことなく横浜流星にも近い「儚さ」を感じさせる。同時に、複雑な感情を表情ひとつで表現できる演技力を持っているため、表面的には不良またはそれに近い役柄でも「それだけじゃない」多層性のある性格が見えてくる。もっと言えば「ああ、この人は良い人なんだ」と思わせてくれるのだ。

◆過激な濡れ場も美しい

 そして、今回の『ビリーバーズ』では初めから最後まで大真面目な主人公だからこそ、磯村の「根底に感じさせる良い人ぶり」が最大限に発揮されたと言えるのではないか。その真面目さは時に行き過ぎてコメディとして笑えるし、不器用さも含めて好きになれる。しかも、磯村は無人島でサバイバル生活をする役柄に説得力を持たせるため食事制限をして体重を減らし、そして全裸での過激な濡れ場にも挑戦している。

 その濡れ場に至るまでに葛藤する様も愛おしく、痩せているようでがっしりともしている身体が美しく見えるため、まったく露悪的に見えない。磯村の放つエロスを脳裏に焼き付けたい人はもちろん、彼の役者としての実力が「大真面目(だけどちょっとバカでヘタレ)」というステータスに全振りした様を見たい人には、是が非でも見てもらいたいのだ。

 もちろん、他のメインキャラであり磯村に負けず劣らず真面目な女性に扮した北村優衣の文字通りの体当たり演技、カルト宗教の考えにどっぷりハマっていてヤバい中年男に扮した宇野祥平の“狂演”も見所だ。彼らの予測不能の三角関係(?)が、どのように帰結するのかにも注目してほしい。

 なお、劇中では直接的に見せないまでも、磯村以外の役者による性暴力の表現、それに類するシーンがあることは注意点としてあげておく。とはいえ、作り手が性暴力を悪逆的で断罪すべき行為として描いているのは明白で、実際に性暴力を働くキャラにはこれ以上のない「罰」が待ち受けているので、溜飲を下げることができるだろう。

◆カルト宗教の危険性は他人事じゃない

『ビリーバーズ』の原作漫画が連載されていたのは1999年。実に20年以上を経ての実写映画化となるわけだが、主題となっているカルト宗教の危険性は、むしろコロナ禍で陰謀論がはびこり、分断や差別が問題視される今ではより身近なテーマとして受け取れるのではないか。

 前述した通り「カルト宗教に洗脳された人たちの無人島サバイバル」はかなり極端な設定かつ描写であるし、俯瞰的に見られるのでダークコメディとして笑えるのだが、彼らが「世間から隔絶されて」「信じきっている」事実そのものはやはりホラーとしても映る。

 しかも、終盤で突きつけられる事実と、とあるスペクタクル的な展開では、より「あなたも他人事ではないかもよ」と突きつけてくる。ここで重要な人物を、原作漫画の作者である山本直樹が演じているというのもインパクトがあった。さまざまな誘惑も多い現代で「カルト宗教や詐欺には騙されないぞ!」という気持ちを新たにするためにも、本作を観てみてはどうだろうか。

<文/ヒナタカ>

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