井浦新、47歳の今だから分かる仕事の楽しみ「未来に希望を投げてる」

井浦新、47歳の今だから分かる仕事の楽しみ「未来に希望を投げてる」

井浦新さん

『星の子』などの原作者で、芥川賞受賞作家でもある今村夏子さんのデビュー作を映画化した『こちらあみ子』が全国公開中です。風変りな女の子・あみ子(大沢一菜)を取り巻く世界を描いた本作で、あみ子の父・哲郎を演じた井浦新さん(@el_arata_nest)にインタビュー。

 本作で長編映画監督デビューを果たした森井勇佑監督とは、監督が助監督時代にも仕事をしていたという井浦さん。哲郎を演じながら感じたことだけでなく、「生きていれば、続けていれば、いつかまた会える時が来る」と語る、映画人としての思いを聞きました。

◆演じながら気持ちが追いつかないことが幾度もあった

――あみ子の父親・哲郎を演じました。あくまでも井浦さん個人としては、哲郎の姿はどう映りましたか?

井浦新さん(以下、井浦)「哲郎は、親として寄り添っているのか、そうでないのか。つかめない立ち位置でいますが、どこかであみ子に、自分に似ている部分も感じていたでしょうし、演じながら、僕はむしろずっとあみ子のことを考えていました。

 あくまで哲郎を僕自身から見ると、自分とは離れたお父さんだなと思いますし、演じながら気持ちが追いつかないことが幾度もありました。でも哲郎自身もきっと悩んだり苦しんだりしているのだろうと感じていました。

 あみ子への接し方として、哲郎自身、分からないことがたくさんあったのだろうし、時としてぶっきらぼうに突き放してしまったり、本当はつけられないはずの優先順位をつけてしまっていたのだと思います。決して子どもに関心がないわけじゃないのだけれど、本当に不器用なお父さんなんだなと感じていました。

 観る人たちを誘導しないように、でも決して無関心なのではなく、子どもたちへの愛情はしっかり持っているお父さんとしていようと、僕自身は思っていました。ただ簡単に表情などに出したくなかったですし、“伝わりづらくいたい”とは思っていました」

◆娘役の姿に、デビュー当時の自分のことを思い出していた

――哲郎の再婚相手である、あみ子の新しいお母さんを演じた尾野真千子さんとは何かお話しされましたか?

井浦「本作で重要だったのは、あみ子を演じた一菜(かな)を自由に、縦横無尽に泳がすことでした。あみ子との、予定調和にはならない、ある意味とても映画的な芝居というのは、僕は非常に心地よかったのですが、一方で、尾野さんとのお芝居は難しかったです。

 というのも、僕らがある程度の芝居をして、崩壊しない空間を作っていく必要があるので。でも固めすぎるとつまらなくなる。そこのバランスがとても難しかったです。それから、僕と尾野さんは、デビューの状況が似ているんです。急に映画の世界に放り込まれたと言いますか。僕は是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』で、尾野さんは河瀬直美監督の『萌の朱雀』で。

 年齢は違いますが、一菜の状況とも似ているので『一菜を見ていると、デビュー当時の自分を思い出しませんか?』という話をしたら、『そうですね』とおっしゃっていました。一菜は今回がデビューですが、誰かのデビュー作に立ち会えるというのは、本当にすごい、ステキなことだと思います」

◆集合と解散を繰り返す、未来に希望を投げておける仕事

――森井監督とは、大森立嗣監督の『光』の現場で一緒だったとか。俳優デビューの一菜さんもですが、スタッフ、俳優問わず、映画人が繋がっていく喜びを感じることはありますか?

井浦「僕らの仕事は、縁があってこそだと思うんです。俳優だけじゃなく、いろんな部署を含めて、数週間から数か月、毎日同じものを一緒に食べて、同じように悩んで苦しんで、楽しみながら作品を作っていく。

 でもいつも面白いなと思うのが、どんなにこの組で一生映画を作っていきたいと思ったとしても、またその組で集まるというのはとても稀なことで、僕らは集合と解散を繰り返し続ける。人生の中で見れば本当に刹那的な時間を一緒に夢中になって過ごして、解散していくんです。

 若い頃は、ずっと続いたらいいのにと、とてもセンチメンタルな気持ちになっていました。もちろん今でも寂しさはありますが、かつては知らなかったけれど、今ではまた会えることを知っています。生きていれば、続けていれば、いつかまた会える時が来る。10年、20年経つときもありますけど、未来に希望を投げておくというか、楽しみを未来に置いておけるんです。

 森井監督は『光』もですが、実は熊切和嘉監督の『莫逆家族 バクギャクファミーリア』でも一緒だったらしくて、当時僕も役作りが大変だったので、あまり記憶がないのですが、でもこうしてまた会えたわけです。

『光』や『莫逆家族〜』があったから、この作品に繋がったとは限りません。でも森井監督がこのプロジェクトを立ち上げて、その物語には哲郎というお父さんがいて、自分がいまそうしたお父さんの年齢になっていた。すべては縁なんだなと思います」

(C) 2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ

井浦新さんTwitter:@el_arata_nest/Instagram:@el_arata_nest

<撮影・文/望月ふみ ヘアメイク/NEMOTO(HITOME) スタイリスト/上野健太郎(KEN OFFICE)>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi

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