「首浮き輪」赤ちゃんの命を危険にさらす使い方が拡散…虐待では?と小児科医も警鐘

「首浮き輪」赤ちゃんの命を危険にさらす使い方が拡散…虐待では?と小児科医も警鐘

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赤ちゃんの首につける浮き輪型のアイテムを知っていますか? 様々なメーカーから商品が出ており、SNSでも、首浮き輪をつけてお風呂で浮かぶ赤ちゃんの投稿写真をたくさん見ることができます。

 しかし、浴室で首浮き輪を使用した際に赤ちゃんがおぼれるなどの事故も複数報告されており、メーカー側も「赤ちゃんから目を離さずに使ってください」と注意喚起をしています。

 この首浮き輪の使用方法や注意点について、小児科医ですずきこどもクリニック院長の鈴木幹啓(すずき・みきひろ)先生にお話を聞いてみました。

参考:消費者庁 国民生活センター「首掛式の乳幼児用浮き輪を使用する際の注意について」

◆赤ちゃん用の首浮き輪は、存在自体が危ないのでは

――赤ちゃんの首浮き輪での事故が多数報告されていますが、先生は首浮き輪についてどのような考えでしょうか。

鈴木先生(以下、鈴木)「首浮き輪を、赤ちゃんを一人で浴槽に浮かせて大人が目を離す、お風呂の便利アイテムと思い込んで使用している方が多くいらっしゃるのですよね。そのような使い方をされてしまっている以上、首浮き輪の存在自体が危ないと、私は考えています」

――メーカーは知育玩具やスポーツ玩具としていますが、たしかに、首浮き輪で赤ちゃんを浮かせている間に、親が自身の体を洗う「便利グッズ」にしているケースも少なくないと思います。SNSなどでも拡散されていますよね。

鈴木「首浮き輪には着脱式のものや円形のものがありますが、赤ちゃんの首が入るということは抜けるということでもあり、目を離した隙に抜け落ちる可能性は十分にあります。

 また、赤ちゃんの体はすぐに大きくなります。首浮き輪を購入した時に赤ちゃんの体にフィットしていても、赤ちゃんの体はすぐに大きくなるので、1ヶ月もすればサイズが合わなくなります。小さいサイズの商品を使うことで、赤ちゃんの頸動脈(けいどうみゃく)を締め付けて脳血流を低下させる可能性もあります」

◆おぼれる以外に、脳血流の低下、窒息の危険も

――おぼれなくても、首を締め付けられて脳血流を低下させる可能性があるんですね。

鈴木「そうなります。また、首浮き輪が顎より前に大きくズレて出てしまい、鼻や口を覆ってしまった場合も窒息します。布などと違い破れない素材でできているので、鼻や口に密着すると水におぼれなくても窒息の危険があるのです」

――そう考えると、かなり危険なアイテムですね。

鈴木「首浮き輪に関わらずお風呂での事故は多く、日本小児科学会によれば、乳児の5人に1人が『お風呂でおぼれそうになった・おぼれた経験がある』という調査結果も出ています。

 日本では入浴の習慣があることから、浴室は家庭内でも一番と言えるほど死亡リスクの高い場所なのです。そのような場所で安易な便利グッズを使うこと自体、間違っていると私は思います」

◆赤ちゃんがおぼれる時は、声を出さないで無言で沈む

――正しい使い方をして注意事項を守っても、首浮き輪の使用はやめた方が良いでしょうか。いずれの商品もかなり細かい使用説明や注意事項が書かれています。

鈴木「それでも使用はやめた方がよいと思います。まず、注意事項が守れるか守れないかは親にかかっており、仮に正しい使い方をしていたとしてもそこには必ずヒューマンエラーが起きます。毎日使用前に商品のチェックをする人も少ないと思いますし、そのチェックが正しいとも限りません。

 小児科学会の資料でも『赤ちゃんは声を出さないで無言で沈む』というデータがあります。溺水(できすい)のトラブルの発生時、86.5%の乳幼児は声を出さず、さらに33.9%の乳幼児が水飛沫などの音を出さずに沈んでいたという調査結果もあります。音もなく沈んでしまうので目を離していると気がつかないのです」

――そう考えるとゾッとします…。

◆初めて見たとき「これは虐待なのでは?」と思った

鈴木「例えば、自動車でも運転していれば事故が起きます。でも自動車が無くならないのはそれがなくては困る生活必需品だからです。では、事故報告が多数ある首浮き輪はどうでしょうか。これは便利グッズであり生活必需品ではありません。なくてもよいのに事故がおきるものを、わざわざ事故が起きやすい場所に持ち込んではダメです。

 また、私がこの首浮き輪を初めてみたときに安全性以外にも驚いたことがあります」

――安全性以外にですか?

鈴木「はい。私も子どもが3人おり全員の入浴を私がしていましたが、その当時はこのような商品を知りませんでした。後に、この商品を初めて目にした時、小児科医の立場として『これは虐待なのでは?』と思ったのです。

 というのも首浮き輪は首で支えてお風呂に入れるものですよね。でも普通に考えて、赤ちゃんの首を持って入浴させる人はいないと思います。首で支えて入浴させるなんて、赤ちゃんが可哀想だと思いました。

 これらのことを全て考慮した上で、改めて首浮き輪は危険をはらんでいるという警鐘(けいしょう)を鳴らしたいと思います」

◆水に対する恐怖心がなくなる、なんておかしな話

――首浮き輪を使うことで赤ちゃんが水に慣れ、水に対する恐怖心がなくなるという声もあるようです。

鈴木「それは理屈として全くおかしな話だと思います。水に慣れるという言葉には『水に顔をつけられるか・浮いていられるか』という定義があると思います。ですから、首浮き輪で浴槽に浮かんでいるからと言って『水に慣れている』というのは間違っています。

 また、生後間もない恐怖心も芽生えていない赤ちゃんが『水に慣れる』というのもおかしな話です。そもそも前提として、小さな赤ちゃんを危険な方法で無理やり水に慣らす必要もありません」

◆赤ちゃんを安全に入浴させる方法は?

――とはいえワンオペ育児など、どうしても首浮き輪に頼りたいという状況の母親・父親も多いかと思います。

鈴木「ワンオペかどうかに関わらず、まず親の入浴と赤ちゃんの入浴は分けてください。そして入浴時はベビーバスを使ってください。赤ちゃんと一緒に大人もお風呂を済ませようとすると自分の洗髪のために、浴室内で赤ちゃんから手を離さないといけなくなります。

 生後4・5ヶ月ほどで、自分で寝返ったり動いたりしない時期はベビーバスで洗った後、バウンサーやコットなど、移動できるベッドを脱衣所に置いてそこに赤ちゃんを置いてください。赤ちゃんを浴室の近くに置いている間に自分が体を洗います。赤ちゃんの近くにいれば物音がしたときに気づけます」

――親と子で別に入浴するのが基本なんですね。

鈴木「はい。生後7・8ヶ月になると赤ちゃんはハイハイもするし動くようになるので、バウンサーやコットでは危険です。ですので、脱衣所に赤ちゃんを置いて突っ張り棒などで出られないようにしてください。『赤ちゃん』と一言で言っても月齢で状況は全く異なるので、都度対策する必要があります」

◆とにかく目を離さない・湯船に一人で残さない

――入浴時は慎重になる必要があることを改めて知りました。

鈴木「先ほども申しましたが、家庭内の事故は浴室で起きていることがほとんどです。改めて浴室が危険な場所であることを認識してください。

 首浮き輪を持ち込まないこともですが、溺水を防ぐためにとにかく目を離さない・湯船に一人で残さないようにしてください。そして入浴中に誰かから電話がかかってきても出ないようにしてください。また入浴時以外でも『湯船に入らないで』という目印にするために、浴槽に蓋をするのがいいと思います。子供が開けられない重い蓋だと安心です。

 災害時に備えて、浴槽に水を張っているご家庭もあるかと思いますが、小さい子がいる家庭では水を張らない方が良いと思います。危険な場所を自ら作らないことが大事です。浴室は滑るし、誰の助けも来ない場所なので、特に安全に気を使ってもらいたいと思います」

◆子どもの入浴は大変だけど、改めて安全の意識を

 鈴木先生の話を聞き、首浮き輪が抱える事故のリスクの恐ろしさを知りました。『少ししか目を離さないから大丈夫』と思っていても、その少しの間に乳児は音もなくおぼれます。ワンオペ育児など、子どもをお風呂に入れる作業は大変ですが、浴室が特に危険な場所であることを念頭に置き、危険なものは持ち込まない・十分に注意をするという意識を持つ必要がありそうです。

【鈴木幹啓(すずき・みきひろ)先生】

日本小児科学会認定小児科専門医。すずきこどもクリニック院長。株式会社やさしさ代表取締役。株式会社オンラインドクター.com代表取締役。自治医科大学卒業。地域医療に従事する傍ら、「親・子・孫の三世代が集まれる地域づくりをしたい」という思いから、介護サービス付き高齢者住宅や商業施設が入った「海賊公園スクエア」をオープン。

参考:子どもの水の事故を防ごう! -7月25日は「世界溺水防止デー」、予防策を再確認して行動を!-

消費者庁「御家庭内での子どもの溺水事故に御注意ください! −入浴後はお風呂の水を抜く、ベビーゲートを設置するなどの対策を−」

<取材・文/瀧戸詠未>

【瀧戸詠未】

大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。Twitter:@YlujuzJvzsLUwkB

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