天下の“田中圭スマイル”が秘めるものとは?『リバーサルオーケストラ』が描く楽団の世界

天下の“田中圭スマイル”が秘めるものとは?『リバーサルオーケストラ』が描く楽団の世界

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田中圭と門脇麦がデコボコ・オーケストラコンビを演じる『リバーサルオーケストラ』が日本テレビ系で毎週水曜日よる10時から放送されている。

 今や国民的人気を得ている田中圭だが、本作で演じる常葉朝陽役もまたこれまで以上に彼の魅力を余すところなく引き出している。クラシック音楽のオーケストラを題材に、世界的な指揮者をどう演じきるのか。

 クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、「イケメンと映画」について考察を続ける筆者・加賀谷健が、クラシックの世界でも申し分ない存在感を発揮する田中圭の演技力を深掘りする。

◆指揮者として申し分ない最強の俳優

 田中圭は常に最強の俳優である。つくづくそう思う。彼はどんな作風の作品でも持ち前の人柄がにじむ人間くさい雰囲気で画面を躍動して、たちどころに見る者を魅了してくれる。仮に人間くささがにじみづらい難役だったとしても、どんとこいである。

 今回の『リバーサルオーケストラ』で演じるオーケストラの指揮者・常葉朝陽役は間違いなく難役だが、第1話冒頭から指揮台に立つ姿が様になっているばかりか、指揮を振り終わる瞬間に輝く瞳に宿る眼力が「マエストロ」と呼ばれるにふさわしい佇まいを醸し出している。

 服装にしても、公演中の燕尾服はエレガントだし、普段着の白や黒のタートルネックはダンディな萌え袖ならぬ萌首で、やっぱり最強な俳優です。

◆愛すべき若きマエストロに寄せる期待

 ところが急遽ドイツから帰国した若きマエストロを待ち受けていたのは、まとまりなんて微塵もないプロオケなのに素人同然のオーケストラだった。

 西さいたま市唯一のプロ・オーケストラである「児玉交響楽団」(以下、玉響)は団員の意識の低さが音色にもろに出ていて、せっかく盛り上がるはずの「ラデツキー行進曲」(ニューイヤーコンサートなどでは客席が一丸となって手拍子する)も演奏がばらっばら。常任指揮者が演奏途中で指揮を投げ出してしまうほど。

 なによりコンマス(コンサートマスター)が悪い。第1ヴァイオリン主席であるコンマスは指揮者に次ぐ地位で、楽団全体をまとめる役目の最重要ポジション。指揮者に代わって団員をまとめる必要もある大変な役回りだ。

 筆者は普段、クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで企画プロデュースをしているが、世界的なコンマスの威厳あふれる神々しい現場は日頃から目にしているからよくわかる。コンマスがこの様子だと玉響にどんな有名指揮者が入ってきても形になるかどうか。でもここはひとまず田中圭扮する愛すべき若きマエストロに淡き期待を寄せてみたいと思うのだ。

◆古典音楽の威厳を体現する田中圭

 玉響の常任指揮者に就任した朝陽は、早くもしびれを切らしている。ビオラの桃井みどり(濱田マリ)はパート譜を忘れるし、チェロの佐々木玲緒(瀧内公美)は恋愛依存症、フルート主席の庄司蒼(坂東龍汰)にいたっては遅刻の常習犯。庄司が寝坊したといって平然と席に座っても、他の団員は気にするでもない。楽団全体が怠惰にゆるみきっている。

 ある公演のリハーサル途中で、遅れてきたヴァイオリン奏者が平謝りで入ってきたところ、他の団員は彼をいないものとして演奏を続けたなんて話もよく耳にするのが、クラシック音楽の舞台裏だ。プロオケ団員たちの性格が冷たいわけではない。彼らはむしろ温かい心根の人ばかり。古典音楽を奏でるオーケストラにはこれくらい凍てついた厳しい雰囲気が流れる中、緊張感を持つことが当たり前の感覚だということだ。

 その意味でも団員たちから「あんな偉そうな指揮者見たことない」と陰口を叩かれる朝陽は、この世界にふさわしい態度の人だ。リハ時間ぴったりに入ってきたかと思えば、開口一番に団員たちを叱責する。激しく厳しいその口調。場の雰囲気は凍りつくが、古典音楽の威厳を体現する田中圭の熱演に清き一票を投じたい。

◆豊かで、楽しく、胸踊るシンフォニー

 朝陽が冒頭で指揮していたドイツ・ライプツィヒの楽団は、おそらくライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団がモデルになっているのではないかと思う。世界の名門であるこの楽団の歴代指揮者といえば、フルトヴェングラーやリッカルド・シャイーなど、そうそうたる強面指揮者たちが名前を連ねている。

 プロの音楽家である以上は音楽に対して厳格な態度が求められるものだけれど、音楽そのものは肩肘張って聴くものではない。身体が踊るビートを刻むポップスナンバーと同じようにクラシック音楽も楽しく聴いてもらいたいものである。

「ダメ出しマシンガン」と揶揄される朝陽も、音楽に誠実に向き合う愛を持っているからこその厳格さ。彼もまた人間として冷たいわけではなく、彼がまとめ、作り上げる音楽は豊かで、楽しく、胸踊るシンフォニーだ。

 事実、朝陽が救世主とするのはかつて神童と呼ばれた天才ヴァイオリニストの顔を隠して今は市役所で働いている谷岡初音(門脇麦)で、まさに彼女の音楽は温かで、音楽を奏で、聴く喜びに満ちている。このふたりの掛け合いが果たしてどんな楽しげな和音を奏でるのか。

◆天下の田中圭スマイルが秘めるもの

「オケを生かすも殺すもコンマス次第」

 朝陽はそう言って、天才に蓋をした初音を玉響のコンマスにスカウトする。もちろん訳ありな彼女は断る。強情な朝陽も食い下がる。「あなたの教え子は心から楽しそうにヴァイオリンを弾きますね。あれは音楽が好きで好きでたまらない人間の弾き方です」と口説き文句を浴びせ、あげくには朝陽の父親である市長(生瀬勝久)の力まで借りる。半ば無理強いさせられるように楽団の広報を任された初音だったが、いざリハに行ってみると、手渡されたのはヴァイオリンだった。

 朝陽が指揮を振る「ウィリアム・テル序曲」。トランペットによる有名な序奏のあと、初音は構えたヴァイオリンを弾き始める。すると途端に画面上のあちらこちらで楽しげな音色が賑わう。第二の指揮者と言われるコンマスの力が推進力となって指揮者のタクトを軽やかに飛翔させる。一瞬のうちにまとまりを得た楽団を見て、さすがの朝陽もしたり顔。

 音楽を奏でる喜びを取り戻した初音はコンマスを引き受ける。朝陽と初音によるデコボコなコンビが手を取り合う場面、その瞬間、朝陽の表情が自然とゆるむ。やっといただけました、天下の田中圭スマイル。爽やかな序曲のような彼の笑顔を見て、クラシック音楽は偉大な力を秘めているなと心底思った。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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