カルト教団に月収10万円でこき使われる日々…。20代を搾取され続けた女性の苦しみ

カルト教団に月収10万円でこき使われる日々…。20代を搾取され続けた女性の苦しみ

※写真はイメージです(以下同)

―連載「沼の話を聞いてみた」―

寝不足の青白い顔で、深夜0時過ぎまでポスティング。プログラム習得のための各種ワーク、勧誘活動、反省会、勉強会、事務所の雑務。そして賃貸マンションで古参信者と同居する監視生活。報酬は歩合制で月10万円弱(気まぐれに減らされることもある)。自由のない生活、貧困、寝不足、社会との断絶。それでも地球防衛軍のような気持ちで精神の高みと理想社会の実現を目指し、苦渋の日々に20代を費やしたという。

――今回の語り部、30代女性K子さんだ。

K子さんが所属していたのは、アメリカで有名な某カルト宗教団体の日本支部。同教団はハリウッドセレブが何人も入信していることで知られ、たびたびネットニュースにもなるので、カルト宗教に格段興味はなくとも、名前は聞いたことがある人も多いだろう。

◆カルトへの入口はどこにあったのか教団では、世界を救うため高次元な精神を目指すという教義が掲げられているが、そのためには有料プログラムをクリアすることが必須。奉仕活動や献金も要求されるようで「やたら金がかかる」という印象だ。

K子さんが入信した当時は、日本で世間一般にはあまり知られていなかったかもしれない。そうしたなか、どのようにハマっていったのか。K子さんの体験した、カルト宗教沼の話を聞いてみた。この話は、決して教義の是非を問うものではない。信者がいかに搾取されていたかどのような経緯でハマっていったのか。元信者の、いち体験をまとめたものである。

◆親の離婚で不安定な心に入り込む

「母がやっているエステサロンに、本を置いてくれないかという営業が来たのが、その教団を知るきっかけでした。当時はもちろん、新興宗教団体だという認識はありません」

その時K子さんは高校生。両親は離婚して、母親とふたりで暮らしていた。親の離婚によって生活環境が変わり、周囲のゴタゴタに疲れて、人生について深く考えるようになっていったという。

「自然とスピリチュアルや精神世界に興味を持ち始めました。そんなタイミングで、私のようなつらい体験によるトラウマを取り除く技術を、唯一持っている団体だと聞かされ、本を買い始めたんですよね。これがすべての始まりです」

K子さんはその団体を新興宗教だという認識もなく、ましてやカルトだとは知る由もない。カウンセリングや自己啓発、コーチング、ライトな秘密結社、人生哲学。いわゆる伝統的宗教のそれとは違う雰囲気があり、とっつきやすさもあったようだ。

本を買い求め愛読しながら、K子さんは大学へ進学。しかし、大学生活はどこか物足りなかった。「大学でやりたいことが見つからない」。これはめずらしくない悩みだろう。そこから趣味やサークル、バイトに熱中していく人も多い。一方K子さんの場合は、教団と関わりを持っていたことから、幹部のひとりがビジネススクールを新設するという情報を手にいれた。人生の分岐点だ。

◆大学とは名ばかりだった

「教団幹部から“大学”だと聞かされ興味を持ち、それまで通っていた一般の大学を中退しました。その“大学”は、認可されたものではありません。幹部女性はこう話していました。日本にはこうした知識や技術を指導している大学はなく、先鋭的だから文科省も理解してくれない、と。それを聞き、先鋭的な学びを得るために私たちが戦う! という気分が高まってしまったんですよね」

確かにそのビジネススクール(※現在は廃業しているので存在しない)の授業は、一般的な大学で学べるものとは違う。「人を動かすには」「心に響く話術」「成功のヒケツ」等々。K子さんの説明するその“大学”が教えるその内容は、自己啓発もしくは情報商材の類に聞こえる。金額は、年間だいたい300万円。私立の経済学部や、専門学校の授業料と比べると、だいぶお高い。

「経営哲学と言い換えるものの、叩き込まれるのは教団の教えです。教団独自の用語ですが、多少強引に言い換えると仏教でいうところの『涅槃(ねはん)』。その域を目指し、世界をよりよく導くのが人生の目的。そうした教えを学び、理解し、実践できない人たちは一生救われないままだと」

◆教団は若者をどのようにリクルートしたか

「私は一攫千金を狙うような気持ちで必死でした。今までうまくいかなかった人生を、一発逆転したいというか。学歴とか家庭環境とか、コンプレックスを塗り替えることができるんじゃないかと。スクールでもコンプレックスを刺激されるようなことを言われ、それを改善しましょうと指導されるので、私はまさに術中にハマりまくりだったんでしょう。トラウマを解消して人生を変えるという言葉を信じ、どんどんのめり込んでいきました」

その時のK子さんはまだ教団幹部が作ったスクールの生徒でしかなく、「教団の信者」ではない。本格的な沼生活はここからだ。

「教団はいろいろなセミナーを定期的に開催していて、スクール生も参加するよう呼びかけられます。私が参加したのは、原発事故のあとだったので放射能についてのセミナーでした。放射能の影響も教団の技術を通じて浄化できます、というような話を聞いた記憶があります。そしてその場で本部のスタッフに『うちの教団で働きませんか』とリクルートされ、喜んで入信することとなります」

そうして、ビジネススクールを並行して、K子さんの滅私奉公生活が始まった。

◆朝から晩まで、教団漬け

スクールの授業がない土曜のタイムスケジュールを書き出してみよう。

起床~10:30 主に家事と買い出し(週に1度、唯一の自由時間)

11:00 出勤、ノルマや目標を報告しあう

12:00 勧誘のため街へくり出す。昼食はコンビニのイートインか路上で手早く(時間も金もないため)

14:00 収穫がなければ支部へ戻り、タウンページ片手に電話営業

16:00 勧誘成果報告&勉強会

19:00 電話営業再開

20:00 懺悔文作成(ノルマ未達成とは直接関係のない、プライベートな部分や思想もとことん開示するよう求められる)

21:00 集会(幹部のお説教を聞いた後、幹部がセレクトした陰謀論などのYouTubeを鑑賞)

23:00 支部の掃除・雑用

24:00 ポスティング

25:00 共同生活の部屋へ帰宅後、風呂の順番を待ちながら再び懺悔文を書くものの、寝落ちする

※日曜は、K子さんたちの教祖的存在である日本支部幹部の身の回りの世話(洗車や家の清掃など)が加わり、終わると勧誘、ミーティング、反省会が深夜まで続く

◆ノルマに追われて20代は終わった

基本的に休憩時間はなく、常に睡眠不足と疲労が蓄積されていく。「成功を目指す社会人サークル」等の誘い文句を入り口に若者が多く会員となり、過酷なノルマを課せられ搾取される「環境」という集団が少し前に話題となったが、それを見たK子さんは「自分を見ているかのようだ」と思ったそうだ。2/8(水)公開予定の中編に続く。

<文・取材/山田ノジル>

【山田ノジル】

自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru

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