「R-1に夢あります!」元ファイナリストが語る、優勝ネタの衝撃的“フリップの弱点”克服方法とは
2023年03月09日 08時03分女子SPA!

(画像:よしもと漫才劇場 Instagramより)
ひとり芸日本一決定戦「R―1グランプリ2023」(フジテレビ系)が3月4日に行われ、田津原理音(たづはらりおん)が21代目王者に輝きました。
昨年のM―1グランプリで優勝したウエストランドがネタの中で「R-1に無いのは夢!希望!」とブチ上げて笑いをとったことでも注目が集まる中、田津原は過去最多3537人の頂点に立ち、優勝賞金500万円を獲得しました。
かつてピン芸人「大輪教授」として活動し2007年R-1ファイナリストに選出され、現在はお笑い事務所の若手芸人のネタ見せもつとめる構成作家の大輪貴史さんに、優勝者をはじめインパクトを残したネタについて解説してもらいました。
◆「こんな見せ方があったのか!」カード開封動画ネタに衝撃
――優勝した田津原理音のネタは2本とも、YouTubeにあるようなゲームのカードの開封動画ネタでしたが、いかがでしたでしょうか?
<田津原さんのあのネタを初めて見たときは、「こんな見せ方があったのか!」と、衝撃を受けました。
開封動画というテーマも時代を反映していますし、モニターで手元を映し出す技法も現代ならではのやり方です。
舞台上のものを映し出す技術自体は、何年も前からもちろんありましたが、芸人の世界で言うと単独ライブのような状況でしかできませんでした。賞レースの予選や普段のライブでは、セッティングで前後の出演者に迷惑がかかりますし、現場でモニターをお借りするのもひと苦労でした。
個人での配信などが当たり前になってきて、技術が一般化して簡単かつ可能になった状況です。R-1グランプリで言えば、野田クリスタルさんが自作ゲームのネタで優勝したのが大きかったかもしれません>(大輪貴史さん 以下、山カッコ内同じ)
◆紙のフリップネタの弱点を克服
――ネタ披露前のVTRで「今までフリップ芸をしてきたんですけれども、今回ちょっと一新しまして、良いところを全部詰め込んで違った形での見せ方にこだわったんです」「僕からすると同じフリップ芸なんで」と本人が語り、「フリップの境界線」とキャッチフレーズがつけられていました。
<紙のフリップのネタを使ったネタは、ピン芸人の世界では非常に多いです。しかし、フリップのネタは弱点が2つあります。
1つ目は、あの大きな紙です。あの大きな紙のフリップは、日常生活に存在していません。日常生活にないものを、出演者の都合で持ち出してきているのです。そもそも不自然なんです。「紙芝居」という形で出すのも、令和では苦しくなってきましたし…。
2つ目は、用意されたフリップがどうしても予定調和に見えてしまうことです。ほとんどの漫才やコントには台本があって予定通りに進むものですが、お喋りや演技で予定調和感をなくしています。しかし、あのフリップをめくっていく作業はどうしても、用意された感が出てしまうのです。
ところが、田津原さんの開封動画のカードは、日常生活にある「フリップ」でした。これにはやられました!
しかも、「カードがダブる」「レアじゃないカードを雑に見せていく」「キラカードがある」など、開封動画じゃないとできないくだりがふんだんに盛り込まれていました。もし、大きな紙のフリップであのネタを作ったとして、カードがダブったくだりがあっても、あのようにはウケないと思いますし、それこそ出演者の都合に見えてしまいます。
そして、開封するドキドキ感が、予定調和の雰囲気を壊してくれました。観客は田津原さんと一緒に「次なんだろう?」とワクワクしながら見ることができたと思います。(本人はもちろん演技ですが)>
――なるほど!開封動画という設定をうまく活かしていました。
◆テレビより会場の方がより面白く感じられるネタかもしれない
<それから、本人のキャラクターも良かったですね。
ややオタクっぽく見えるところが、ネタの内容にマッチしていました。
台本がいくら面白くても、似合っていないことをやってしまうと、思うようにウケは取れません。ネタは、コンビでもピンでも、基本的には「脚本」「演出」「出演」すべて自分でやるものです。しかし、それにプラスして、実は「キャスティング」も非常に重要なんです。「自分がこの役に合っているかどうか」を見極めるセンスも大切です。田津原さんは、そこも完璧でした。
そして、あの人懐っこそうな笑顔。田津原さんは、ネタ中、観客に向かって喋っていました。
普通はあの設定であれば、完全に1人コントにして観客の方を向かずに配信者として演技すると思います。しかし、田津原さんは半分漫談のような形で見せていました。ここは賛否両論分かれそうなところです。けれども、あの無邪気な笑顔でその問題を軽々と飛び越えていきました。楽しそうにネタをやっている姿は、R-1ぐらんぷり2011で優勝した佐久間一行さんを彷彿(ほうふつ)とさせました。
賞レースにありがちですが、「2位の方が面白かった」という意見がどうしても出てきます。それ自体は見た人の感想なので、否定されることではありません。
しかし、今回の田津原さんのネタは、テレビより会場の方が、笑いが多く生まれていると思います。テレビではどうしてもモニターのアップの画面が多くなってしまいます。けれども、出たカードに一喜一憂している田津原さんのリアクションも楽しめるポイントになっているはずです。そういう意味では、きっと、会場で見た方がより面白く感じられるネタだったかもしれません。>
◆ファイナルステージが僅差になったワケは?
――田津原の優勝の決め手はなんだったのでしょうか?
<「決め手」と言われると、正直言ってわかりかねます(笑)!
審査も3対2に分かれましたし、審査員が違う方だったらコットンきょんさんの優勝もありえたと思います。
僅差になった要因のひとつとしては、2人のジャンルが全然違うものだった、ということは挙げられるでしょう。同じジャンル同士…、例えばどちらも1人コントだったりすれば、優劣がつけやすかったかもしれません。とはいえ、同ジャンルであるはずのM-1グランプリなども最終決戦は僅差になることもありますが…>
◆サツマカワRPGのツカミ&Yes!アキトの設定が見事
――優勝者以外に印象に残ったネタはありますでしょうか。
<サツマカワRPGさんのツカミの「敗北を知る和田アキ子さん」には、完全に心を掴(つか)まれました。
本編の「ご注文は…」「ラーメン」からネタが始まった場合、ツカミが遅くなってしまいますし、ネタ単体としても、「敗北を~」の方が強いと思います。また、「ご注文は…」のネタのウケがイマイチだった場合、取り返すのが非常に難しくなります。本編の構成が高く評価されていますが、ツカミで自分の空気を作ったところが素晴らしかったです。
本編は、四コマ漫画を見ているような気分にさせられていると思いきや、終わってみれば1本の映画を見たような気分になる、不思議なネタでした。最後の回収が気持ちよく決まった爽快感がありました。>
――たしかに点数に比べて評価が高く、それには自分の空気を作ったことも大きく作用していそうです。
<Yes!アキトさんは、自身のギャグをうまくコントに取り入れてました。
ギャガーは若手のうちはみなさん苦労しています。通常のライブでは、他の漫才師やコント師と同じ持ち時間を与えられます。そこでギャガーは、今回のアキトさんのようにコント形式でギャグをやってみたり、持ちギャグをクイズ形式にしてみたり…、ということをするのですが、せっかくのギャグの魅力が損なわれてしまうケースも多々あります。
(そもそも、ギャガーは漫才師と持ち時間が同じじゃなくても、と思うところはあります。漫画雑誌でも、四コマ漫画はページ数が少ないですし)
そんななか、「プロポーズで緊張して言葉がうまく出ない」という設定は、お見事でした。「緊張しているからわけのわからないことを言っても仕方がない」「うまく言えていないので連発できる」『け、け、け…』と、ギャグの最初の一文字が前フリになる」などなど、いいことずくめの設定でした。>
◆「R-1に夢がない」?!
――M-1グランプリのネタでウエストランド井口に「夢がない」と言われたR-1グランプリですが、今後どうなっていくでしょうか?
<500万円もらえるだけで十分、夢、あります!
ネタの内容については、審査員のコメントの内容や決勝進出者の傾向から考えると、大喜利的なひとことネタと、紙のフリップを使うネタは少なくなっていくのではないでしょうか?
実際、今年の準決勝では、去年の審査員のコメントからか、ストレートにギャグの羅列をした人はいませんでした。
今後は、今回の田津原さんのように、今まで見たことない演出のものが増えるかもしれません。
自分だけのオリジナルのジャンルで来る芸人に、勝機が生まれると思います!>
――これからの展望や期待することがありましたらお願いします。
<2021年に出場資格が芸歴10年以内と発表されたときには、「若手だけで大丈夫か?」と不安の声も聞こえてきましたが、3年経った現在、どんどんレベルが上ってきており、まったく問題なく感じています。
まだ誰にも知られていない若い芸人さんが出てくるのが、非常に楽しみです!
「ラストイヤー制度、撤廃(てっぱい)してくれー!」と断末魔を上げて散っていったサツマカワさんには申し訳ないですが(笑)。>
<文/女子SPA!編集部>
【女子SPA!編集部】
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昨年のM―1グランプリで優勝したウエストランドがネタの中で「R-1に無いのは夢!希望!」とブチ上げて笑いをとったことでも注目が集まる中、田津原は過去最多3537人の頂点に立ち、優勝賞金500万円を獲得しました。
かつてピン芸人「大輪教授」として活動し2007年R-1ファイナリストに選出され、現在はお笑い事務所の若手芸人のネタ見せもつとめる構成作家の大輪貴史さんに、優勝者をはじめインパクトを残したネタについて解説してもらいました。
◆「こんな見せ方があったのか!」カード開封動画ネタに衝撃
――優勝した田津原理音のネタは2本とも、YouTubeにあるようなゲームのカードの開封動画ネタでしたが、いかがでしたでしょうか?
<田津原さんのあのネタを初めて見たときは、「こんな見せ方があったのか!」と、衝撃を受けました。
開封動画というテーマも時代を反映していますし、モニターで手元を映し出す技法も現代ならではのやり方です。
舞台上のものを映し出す技術自体は、何年も前からもちろんありましたが、芸人の世界で言うと単独ライブのような状況でしかできませんでした。賞レースの予選や普段のライブでは、セッティングで前後の出演者に迷惑がかかりますし、現場でモニターをお借りするのもひと苦労でした。
個人での配信などが当たり前になってきて、技術が一般化して簡単かつ可能になった状況です。R-1グランプリで言えば、野田クリスタルさんが自作ゲームのネタで優勝したのが大きかったかもしれません>(大輪貴史さん 以下、山カッコ内同じ)
◆紙のフリップネタの弱点を克服
――ネタ披露前のVTRで「今までフリップ芸をしてきたんですけれども、今回ちょっと一新しまして、良いところを全部詰め込んで違った形での見せ方にこだわったんです」「僕からすると同じフリップ芸なんで」と本人が語り、「フリップの境界線」とキャッチフレーズがつけられていました。
<紙のフリップのネタを使ったネタは、ピン芸人の世界では非常に多いです。しかし、フリップのネタは弱点が2つあります。
1つ目は、あの大きな紙です。あの大きな紙のフリップは、日常生活に存在していません。日常生活にないものを、出演者の都合で持ち出してきているのです。そもそも不自然なんです。「紙芝居」という形で出すのも、令和では苦しくなってきましたし…。
2つ目は、用意されたフリップがどうしても予定調和に見えてしまうことです。ほとんどの漫才やコントには台本があって予定通りに進むものですが、お喋りや演技で予定調和感をなくしています。しかし、あのフリップをめくっていく作業はどうしても、用意された感が出てしまうのです。
ところが、田津原さんの開封動画のカードは、日常生活にある「フリップ」でした。これにはやられました!
しかも、「カードがダブる」「レアじゃないカードを雑に見せていく」「キラカードがある」など、開封動画じゃないとできないくだりがふんだんに盛り込まれていました。もし、大きな紙のフリップであのネタを作ったとして、カードがダブったくだりがあっても、あのようにはウケないと思いますし、それこそ出演者の都合に見えてしまいます。
そして、開封するドキドキ感が、予定調和の雰囲気を壊してくれました。観客は田津原さんと一緒に「次なんだろう?」とワクワクしながら見ることができたと思います。(本人はもちろん演技ですが)>
――なるほど!開封動画という設定をうまく活かしていました。
◆テレビより会場の方がより面白く感じられるネタかもしれない
<それから、本人のキャラクターも良かったですね。
ややオタクっぽく見えるところが、ネタの内容にマッチしていました。
台本がいくら面白くても、似合っていないことをやってしまうと、思うようにウケは取れません。ネタは、コンビでもピンでも、基本的には「脚本」「演出」「出演」すべて自分でやるものです。しかし、それにプラスして、実は「キャスティング」も非常に重要なんです。「自分がこの役に合っているかどうか」を見極めるセンスも大切です。田津原さんは、そこも完璧でした。
そして、あの人懐っこそうな笑顔。田津原さんは、ネタ中、観客に向かって喋っていました。
普通はあの設定であれば、完全に1人コントにして観客の方を向かずに配信者として演技すると思います。しかし、田津原さんは半分漫談のような形で見せていました。ここは賛否両論分かれそうなところです。けれども、あの無邪気な笑顔でその問題を軽々と飛び越えていきました。楽しそうにネタをやっている姿は、R-1ぐらんぷり2011で優勝した佐久間一行さんを彷彿(ほうふつ)とさせました。
賞レースにありがちですが、「2位の方が面白かった」という意見がどうしても出てきます。それ自体は見た人の感想なので、否定されることではありません。
しかし、今回の田津原さんのネタは、テレビより会場の方が、笑いが多く生まれていると思います。テレビではどうしてもモニターのアップの画面が多くなってしまいます。けれども、出たカードに一喜一憂している田津原さんのリアクションも楽しめるポイントになっているはずです。そういう意味では、きっと、会場で見た方がより面白く感じられるネタだったかもしれません。>
◆ファイナルステージが僅差になったワケは?
――田津原の優勝の決め手はなんだったのでしょうか?
<「決め手」と言われると、正直言ってわかりかねます(笑)!
審査も3対2に分かれましたし、審査員が違う方だったらコットンきょんさんの優勝もありえたと思います。
僅差になった要因のひとつとしては、2人のジャンルが全然違うものだった、ということは挙げられるでしょう。同じジャンル同士…、例えばどちらも1人コントだったりすれば、優劣がつけやすかったかもしれません。とはいえ、同ジャンルであるはずのM-1グランプリなども最終決戦は僅差になることもありますが…>
◆サツマカワRPGのツカミ&Yes!アキトの設定が見事
――優勝者以外に印象に残ったネタはありますでしょうか。
<サツマカワRPGさんのツカミの「敗北を知る和田アキ子さん」には、完全に心を掴(つか)まれました。
本編の「ご注文は…」「ラーメン」からネタが始まった場合、ツカミが遅くなってしまいますし、ネタ単体としても、「敗北を~」の方が強いと思います。また、「ご注文は…」のネタのウケがイマイチだった場合、取り返すのが非常に難しくなります。本編の構成が高く評価されていますが、ツカミで自分の空気を作ったところが素晴らしかったです。
本編は、四コマ漫画を見ているような気分にさせられていると思いきや、終わってみれば1本の映画を見たような気分になる、不思議なネタでした。最後の回収が気持ちよく決まった爽快感がありました。>
――たしかに点数に比べて評価が高く、それには自分の空気を作ったことも大きく作用していそうです。
<Yes!アキトさんは、自身のギャグをうまくコントに取り入れてました。
ギャガーは若手のうちはみなさん苦労しています。通常のライブでは、他の漫才師やコント師と同じ持ち時間を与えられます。そこでギャガーは、今回のアキトさんのようにコント形式でギャグをやってみたり、持ちギャグをクイズ形式にしてみたり…、ということをするのですが、せっかくのギャグの魅力が損なわれてしまうケースも多々あります。
(そもそも、ギャガーは漫才師と持ち時間が同じじゃなくても、と思うところはあります。漫画雑誌でも、四コマ漫画はページ数が少ないですし)
そんななか、「プロポーズで緊張して言葉がうまく出ない」という設定は、お見事でした。「緊張しているからわけのわからないことを言っても仕方がない」「うまく言えていないので連発できる」『け、け、け…』と、ギャグの最初の一文字が前フリになる」などなど、いいことずくめの設定でした。>
◆「R-1に夢がない」?!
――M-1グランプリのネタでウエストランド井口に「夢がない」と言われたR-1グランプリですが、今後どうなっていくでしょうか?
<500万円もらえるだけで十分、夢、あります!
ネタの内容については、審査員のコメントの内容や決勝進出者の傾向から考えると、大喜利的なひとことネタと、紙のフリップを使うネタは少なくなっていくのではないでしょうか?
実際、今年の準決勝では、去年の審査員のコメントからか、ストレートにギャグの羅列をした人はいませんでした。
今後は、今回の田津原さんのように、今まで見たことない演出のものが増えるかもしれません。
自分だけのオリジナルのジャンルで来る芸人に、勝機が生まれると思います!>
――これからの展望や期待することがありましたらお願いします。
<2021年に出場資格が芸歴10年以内と発表されたときには、「若手だけで大丈夫か?」と不安の声も聞こえてきましたが、3年経った現在、どんどんレベルが上ってきており、まったく問題なく感じています。
まだ誰にも知られていない若い芸人さんが出てくるのが、非常に楽しみです!
「ラストイヤー制度、撤廃(てっぱい)してくれー!」と断末魔を上げて散っていったサツマカワさんには申し訳ないですが(笑)。>
<文/女子SPA!編集部>
【女子SPA!編集部】
大人女性のホンネに向き合う!をモットーに日々奮闘しています。メンバーはコチラ。twitter:@joshispa、Instagram:@joshispa
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