野良猫より地獄なのは“放置された飼い猫”、猫マンガ家に聞く想い

野良猫より地獄なのは“放置された飼い猫”、猫マンガ家に聞く想い

画像は『ツレ猫 マルルとハチ』1巻より(以下同じ)

留まることのない猫漫画人気の中でも、異色のテイストで支持を集める『ツレ猫 マルルとハチ』(講談社)。作者である漫画家・園田ゆり先生(@sonoda_yuri)にオンラインインタビューを行い、連載のきっかけとなった短編『野良のボス猫が保護されようとする話』のこと、マルルとハチのモデルについて、園田先生の愛猫とのエピソードなどを聞いた<前編>に続き、<後編>では4月6日に発売予定の第3巻について聞きました。

 さらに現在の保護猫ブームに思うことや、園田先生おススメの猫漫画も教えてもらいました。

◆野良猫より生き地獄なのは放置された飼い猫

――多頭飼育崩壊、ネグレクトを含めた虐待、病気や介護、看取りなど、猫にまつわるテーマはたくさんあると思いますが、4月6日に保護猫編となる第3巻が出ると聞きました。

園田ゆり先生(以下、園田)「YouTubeなどでも本当にキツイ現場に潜入している動画などがあって、見てるだけで辛いんです。もちろんある程度のことは描くと思います。読者の方が辛くならないように表現を抑えたり、間接的にしたりといったことはするかもしれないです」

――漫画にするかは置いておいて、先生が実際に取材をしていて、本当にキツイと実感されたエピソードなどがあれば教えてください。

園田「ボランティアの方にもお話を伺ったりしていて思うのは、野良猫というのは大変な環境にいるんですけど、それよりも飼い主に飼われていて、多頭飼育崩壊したり、孤独死の現場で放置された猫のほうがよほどの地獄だということです。言い方は残酷ですが、野良猫はすぐに死ねたり逃げられます。でも放置された飼い猫は、地獄のような場所で生まれて逃げることもできない。人間の作った密室の生き地獄で誰にも助けを求められない子が、一番の地獄だと。近親交配で障害を持って生まれてきて、さらにそこから近親交配して狭い部屋の中でどんどん増えていくとか、本当に地獄ですよね」

◆ある程度、行政が法律を作らないとダメなんじゃないか

――現在、動物愛護が急速に盛り上がってきていますが、いわゆる保護猫ブームに関してはどう感じていますか?

園田「飼える環境にある人はいくらでも飼ったらいいと思います。お金があって広いお家に住んでいて、猫に使える時間もしっかりある。そうした人は飼えるだけ飼ったらいい。飼える環境にない人が飼うから不幸なことが起きるので。ただブームって、個人の思考の範囲で盛り上がったり盛り下がったりしているから問題なので、ある程度行政が法律を作ったりしないとダメなんじゃないかと思います」

――行政というお話が出ました。先ほども孤独死の現場に放置された猫という話も出ましたが、外国ではアニマルポリスに権限があって、鍵を開けて救出できたりしますね。でも日本では、中に動物がいると分かっていても入れなかったりします。

園田「遺された愛玩動物を助けるために、といった法律は作って欲しいですよね。海外では車の中に取り残された犬を見つけたら、ガラスを割って良いという法律があったりしますよね。緊急的な判断で動いた人は許してあげるといったことは当たり前のことだと思うんですけどね」

◆AIMで猫が30年生きる未来が来たら

――元東大教授の宮崎徹先生による、猫の死因トップである腎臓病を直すAIMの研究は、完成すると猫の寿命を30年に延ばすと言われています。画期的なことですが、30年生きる動物になることは、飼うことへのハードルが高くなるという意見もあります。

園田「独身で結婚しない人が増えて、結婚しても子どものいない家庭も増えていて、一方で猫を飼う人は増えている。猫の寿命が延びても、引き継ぐ子供がいない。そういったことも社会問題になっていくだろうとは思いますね。私だって40歳くらいで死んじゃうかもしれない。家族がいる人も、その家族が動物を飼える環境かもわからない。みんな何があるかわからない。繰り返しになりますが、法律で、ある程度システム化していくしかないんじゃないかと思います。自助努力でどうにかしろという考えが、私はあまりよくないと思ってるんです。社会が変わっていくしかないと思います」

◆その人が何か言ったり思ったりするトリガーになってくれたら

――ところで、先生が好きな猫本を教えてください。

園田「ちょっと前にすごく泣いたのはイシデ電さんの『ポッケの旅支度』(KADOKAWA)です」

――私も泣きました。

園田「ですよね。猫を看取るという実録の猫漫画なんですけど、猫飼いはみんな泣くと思います。もともとイシデさんの猫漫画が好きで読んでいたんですが、特にすごく泣ける内容でした。同じ職業ですし、私の将来の話かもしれないと思うと、本当に胸に来ましたね。おすすめです」

――『ツレ猫』も本当におすすめの漫画で、これから新しく出会う人が羨ましいです。最後に読者にメッセージをお願いします。

園田「読んだ方の感想で嬉しいのが、『うちの猫はこうです』とか、『自分はこうだ』とか、作品が、その人が何か言ったり思ったりするトリガーになってくれることです。肯定的な意見だけじゃなくても反応があることが嬉しいです。この漫画で何かを学んで欲しいとか、そういったことは特に思っていません。単純に漫画として楽しんでもらえたらと思います」

<取材・文/望月ふみ>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi

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