NHK『大奥』、風間俊介演じる“種なし”が見せてくれた「最も理想的な死」
2023年03月23日 08時03分女子SPA!

(C)NHK
徳川吉宗の逝去とともに、NHKドラマ10、男女逆転『大奥』の第1シーズンが幕を閉じた。現代の渋谷スクランブル交差点に立つ冨永愛(転生した吉宗?)の姿が映し出されるという展開に、心底驚かされた。そして本作が、現代へ向けられた多いなる序章というべきメッセージであると強く思わされた最終回であり、同時に、原作ファンも納得の平賀源内役の鈴木杏や、青沼役の村雨辰剛の顔見せを含め、第2シーズンへの期待を大いに抱かせるものとなった。
◆今の時代にこそ必要なドラマだった
村瀬(石橋蓮司)の死と同時に行方の分からなくなっていた没日録を受け取った吉宗は、そこで、紀州藩主の三女だった自分が、いかにして八代将軍に成り得たかの真相を知る(ラストの貫地谷しほりは本当に素晴らしかった)。
よしながふみによる傑作漫画『大奥』は、なによりその大胆な設定により、ファンタジーとしての要素が頭に入ってくるが、その実、非常にリアルな問題を突き付けてくる骨太な人間ドラマだ。しかも史実をなぞりながら。そのことは、原作ファンはもとより、本ドラマを見てきたファンならば十二分に感じてきたはず。
本ドラマ化は、岡本幸江プロデューサーがコメントしている通り、16年の歳月をかけて叶った念願の企画。長い年月がかかったが、むしろそのことにより、全19巻にわたる原作の完結を経て、この時代にこそ実現すべき運命だったと強く思わされる作品になった。
◆“生殖”が他人の手に握られることの暴力性を描いた
舞台は、赤面疱瘡なる流行り病により、男子の人口が女子の1/4にまで減少した江戸時代の日本国。いわゆる単純なジェンダー論に留まらず、“生殖”が他人の手に握られることの暴力性を、これでもかと浮き上がらせてみせた。しかも、「大奥」という鳥かごと言うべき場所で、家光(堀田真由)、綱吉(仲里依紗)ら悲しき個人の孤独にフォーカスしながら深い愛を描いて、私たち自身の持つ孤独へと共鳴させながら。
それを、吉宗という、加納久通(貫地谷)が、吉宗の姉たちを弑(しい)ても将軍にすべきと懸けた大きな人物を柱に、問題に取り組む姿を示していった。オリジナルを大胆に組み込んで構成した森下佳子の脚本には、拍手しかない。
くしくも新型コロナの経験と重なったために、流行り病のもとにおかれたことへの現実社会との共通点が浮かびがちだが、赤面疱瘡が差しているのはもっと奥にある病。少子化という問題を、なんとか国がコントロールしようとして瀕している今現在の状態に重なって見えてくるのである。
◆“もっとも理想的な死”を見せてくれた最終話
では第1シーズンの最終回では何が強く描かれたのか。杉下(風間俊介)の死だ。種なしという、大奥においては存在そのものが揺るがされる身でありながら、杉下は吉宗に「めおとじゃ」と言われ、手厚い介護を受け、家重(三浦透子)に「父上」と、家治には「じじさま」と呼ばれ、家臣たちからも最後まで慕われた。自分の遺伝子は残せなかった杉下が、家族に囲まれ、本作においてもっとも理想的な形での臨終を迎えたのである。この場面を、このドラマ『大奥』は、たっぷりと時間をかけて描き、「家族」の形に希望の光を当てた。
また、片岡愛之助が演じた藤波は、原作とはかなり印象の異なる愛すべき人物となり、ふたたびの登場が嬉しいサプライズとなったが、そこには、愛之助が自身の屋号である松嶋屋の大スター、片岡仁左衛門を強烈に推すというコミカルなシーンを演じた楽しさだけでなく、こうした空気を循環させる役割をもたらす人物を演じた愛之助自身が、歌舞伎界へ一般家庭から入り人気役者となった人だという点も、非常に効いたキャスティングだった。
◆期待値がガン!と上がった第2シーズン
「まこと大御所様は、偉大な将軍であられたことでございます」とされた吉宗公だったが、問題は持ち越しとなった。第2シーズンの放送は秋だが、渋谷に立つ冨永の姿からも、それは私たち自身の課題として託されることに。と、難しく考えることもできるが、そんなことは取っ払い、ため息ができるほど美しい衣装や、素晴らしい美術や照明、映像に演出、全員がピシャリとはまったキャスティングに、たただた楽しませてもらえるシーズンであり、素直に、幾度も泣かされた。確実に第2シーズンへの期待値がガン!と上がったが、きっとそれも楽々と超えてくれるはずだ。
<文/望月ふみ>
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
◆今の時代にこそ必要なドラマだった
村瀬(石橋蓮司)の死と同時に行方の分からなくなっていた没日録を受け取った吉宗は、そこで、紀州藩主の三女だった自分が、いかにして八代将軍に成り得たかの真相を知る(ラストの貫地谷しほりは本当に素晴らしかった)。
よしながふみによる傑作漫画『大奥』は、なによりその大胆な設定により、ファンタジーとしての要素が頭に入ってくるが、その実、非常にリアルな問題を突き付けてくる骨太な人間ドラマだ。しかも史実をなぞりながら。そのことは、原作ファンはもとより、本ドラマを見てきたファンならば十二分に感じてきたはず。
本ドラマ化は、岡本幸江プロデューサーがコメントしている通り、16年の歳月をかけて叶った念願の企画。長い年月がかかったが、むしろそのことにより、全19巻にわたる原作の完結を経て、この時代にこそ実現すべき運命だったと強く思わされる作品になった。
◆“生殖”が他人の手に握られることの暴力性を描いた
舞台は、赤面疱瘡なる流行り病により、男子の人口が女子の1/4にまで減少した江戸時代の日本国。いわゆる単純なジェンダー論に留まらず、“生殖”が他人の手に握られることの暴力性を、これでもかと浮き上がらせてみせた。しかも、「大奥」という鳥かごと言うべき場所で、家光(堀田真由)、綱吉(仲里依紗)ら悲しき個人の孤独にフォーカスしながら深い愛を描いて、私たち自身の持つ孤独へと共鳴させながら。
それを、吉宗という、加納久通(貫地谷)が、吉宗の姉たちを弑(しい)ても将軍にすべきと懸けた大きな人物を柱に、問題に取り組む姿を示していった。オリジナルを大胆に組み込んで構成した森下佳子の脚本には、拍手しかない。
くしくも新型コロナの経験と重なったために、流行り病のもとにおかれたことへの現実社会との共通点が浮かびがちだが、赤面疱瘡が差しているのはもっと奥にある病。少子化という問題を、なんとか国がコントロールしようとして瀕している今現在の状態に重なって見えてくるのである。
◆“もっとも理想的な死”を見せてくれた最終話
では第1シーズンの最終回では何が強く描かれたのか。杉下(風間俊介)の死だ。種なしという、大奥においては存在そのものが揺るがされる身でありながら、杉下は吉宗に「めおとじゃ」と言われ、手厚い介護を受け、家重(三浦透子)に「父上」と、家治には「じじさま」と呼ばれ、家臣たちからも最後まで慕われた。自分の遺伝子は残せなかった杉下が、家族に囲まれ、本作においてもっとも理想的な形での臨終を迎えたのである。この場面を、このドラマ『大奥』は、たっぷりと時間をかけて描き、「家族」の形に希望の光を当てた。
また、片岡愛之助が演じた藤波は、原作とはかなり印象の異なる愛すべき人物となり、ふたたびの登場が嬉しいサプライズとなったが、そこには、愛之助が自身の屋号である松嶋屋の大スター、片岡仁左衛門を強烈に推すというコミカルなシーンを演じた楽しさだけでなく、こうした空気を循環させる役割をもたらす人物を演じた愛之助自身が、歌舞伎界へ一般家庭から入り人気役者となった人だという点も、非常に効いたキャスティングだった。
◆期待値がガン!と上がった第2シーズン
「まこと大御所様は、偉大な将軍であられたことでございます」とされた吉宗公だったが、問題は持ち越しとなった。第2シーズンの放送は秋だが、渋谷に立つ冨永の姿からも、それは私たち自身の課題として託されることに。と、難しく考えることもできるが、そんなことは取っ払い、ため息ができるほど美しい衣装や、素晴らしい美術や照明、映像に演出、全員がピシャリとはまったキャスティングに、たただた楽しませてもらえるシーズンであり、素直に、幾度も泣かされた。確実に第2シーズンへの期待値がガン!と上がったが、きっとそれも楽々と超えてくれるはずだ。
<文/望月ふみ>
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
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