DV夫に“復讐”した妻と、自殺未遂した夫。全力で傷つけあった夫婦に「予想外の結末」が|ドラマ『夫を社会的に抹殺する5つの方法』
2023年03月23日 15時03分女子SPA!

ドラマ『夫を社会的に抹殺する5つの方法』(画像はリリースより、以下同)
馬場ふみか演じる専業主婦がモラハラ夫に復讐しようと計画するドラマ『夫を社会的に抹殺する5つの方法』(テレビ東京系、火曜深夜0時30分~)がついに最終話を迎えました。話題のドラマを、夫婦関係について著書多数の亀山早苗さんが読み解きます(以下、亀山さんの寄稿)。
◆妻を流産させたモラハラ夫に“もうひとりの人格”が
夫のDVに悩んだ妻が、夫を社会的に抹殺しようとする復讐ドラマとして始まったこの作品だが、途中から夫が父親から激しい虐待を受けていたことによって解離性同一性障害(多重人格)となったことがわかる。妻に、夫を社会的に抹殺させようと手助けしていたのは、夫のなかのもうひとりの人格だったのだ。
最終話のタイトルは、「終わりと始まり」である。大輔(野村周平)が自殺を図ったと連絡があり、妻の茜(馬場ふみか)が病院に駆けつけた。大輔のPCの画面には「茜さん、もう奥田大輔のことは忘れてください。あの男は子どもを流産させたのです」という文章が残されていた。
◆夫さえ、妻さえいれば、じゅうぶん幸せだったのに
茜は、大輔と出会った日からの5年間を、日記を見ながら思い返していた。好きでたまらなかったから、婚姻届を出した日に泣いたこと、大輔がいれば幸せだと思っていたこと。意識を取り戻した大輔もまた、「茜さえいればじゅうぶん幸せだった」と思っていたと記憶を蘇らせる。
それなのにどうしてこんなことになってしまったのか。虐待によって生まれたもうひとりの人格、PTSD、そして仕事で追い込まれていったことなど大輔は少しずつ病んでいった。そして仕事で朝帰りになったとき、茜に「連絡くらいくれても」と言われて「めんどくせえな」と怒鳴りつけるのだ。そこから大輔のモラハラが始まる。父親と同じことをしていると気づきながら、自分を止められなかった。
◆夫婦の行方をはっきり示さない終わり方
退院した大輔が自宅に寄り、夫婦は初めて心からの会話を交わした。大輔は子どもを流産させたことやモラハラを詫び、茜もまた「あんなやり方をするんじゃなかった」と一連の行為を謝罪する。もう一度やり直したいと思いながらも言い出せない大輔。ただ、「もう遅いか」とつぶやくと、茜が「遅いよ」と答える。
「これからどうやって生きていけばいいんだろう」と言う大輔に、「そういう話をふたりでしたかった」と答える茜。
そしてラスト。花束をもった茜が道を歩いている。反対側の道には花束を持った大輔が自宅マンションへと歩いていく姿がある。茜は大輔に気づいたようだが、そのまままっすぐ歩いていく。マンションの部屋が写ると、そこには大輔が持っていた花束が置かれていて、壁にかかっていた茜の大好きな絵(大輔が描いた)がなくなっている。
これだけ見ると、茜は自宅を出て行ったのだろうと想像できるが、一時的に離れて再会、また新たな関係を構築するのかもしれないと期待もできる終わり方だ。
◆会社の先輩後輩、上司と部下のような関係から結婚すると
この夫婦、最初からどこか対等な関係ではなかったのだ。先輩でクリエイターとして名前が出始めていた大輔と、新入社員だった茜の出会い。大輔の父親は、会社を経営しているが、茜は両親を事故で同時に亡くしている。そのあたりを義両親に揶揄(やゆ)される場面もあった。結婚と同時に、茜は夫を支えるために退職。大輔の親に買ってもらったのかどうかはわからないが、ふたりは若さに似合わぬ高級マンションに住んでいる。
会社の先輩後輩、上司と部下のような関係から結婚すると、その当時の上下関係を引きずりがちだとよく耳にする。対等であるべき夫婦の力関係が、はなから決まってしまうのだろう。
茜は、「仮面さん」の助けを得て、夫を社会的に抹殺した。人格を破綻させるという目標は、仮面さん自身がそうしてほしかったのかもしれない。大輔の人格を、もうひとりの大輔が許せなかったということだろうか。
◆妻が、ほぼ寝たきり状態の68歳夫にしていること
夫への復讐で、私自身が今までにいちばん怖い話だと思いながら聞いたのは、40年連れ添ってきた夫が寝たきりになったときの妻の態度だ。彼女の夫は、今でいうDV夫で、彼女は専業主婦として3人の子をワンオペで育て上げた。
そして夫は定年退職、ちょうど結婚40年を迎えたところで脳卒中を患い、家でほぼ寝たきり状態となってしまう。66歳の妻が、68歳の夫を介護していたのだが、妻は少しずつ夫に復讐していく。
「もう慣れてきたから、数時間なら夫をひとりにして出かけてしまうの。そのときは夫が寝ている布団の周りに、水やティッシュを置いていく。夫がどうがんばっても、手が届きそうで届かない場所にね。帰ってくると、おそらく水を飲みたかったんでしょう、夫が必死で布団から這いずりだして水をとろうとしていた形跡がある。でも力尽きてとれないのよ。それを見ると毎回、スカッとするの」
◆復讐に顔を歪める妻……これほど怖い話はない
そんな復讐をするくらいなら、もっと早く離婚していればよかったのにと思うのは、第三者の言い分だろう。離婚できなかった彼女が、最後に自分を慰めるためにそうやって些細な復讐を繰り返しているのだ。スカッとすると言いながら、彼女の顔は歪んでいた。これまでの自分、そして今の自分も許してはいない表情だった。これほど怖い話はない。
<文/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
◆妻を流産させたモラハラ夫に“もうひとりの人格”が
夫のDVに悩んだ妻が、夫を社会的に抹殺しようとする復讐ドラマとして始まったこの作品だが、途中から夫が父親から激しい虐待を受けていたことによって解離性同一性障害(多重人格)となったことがわかる。妻に、夫を社会的に抹殺させようと手助けしていたのは、夫のなかのもうひとりの人格だったのだ。
最終話のタイトルは、「終わりと始まり」である。大輔(野村周平)が自殺を図ったと連絡があり、妻の茜(馬場ふみか)が病院に駆けつけた。大輔のPCの画面には「茜さん、もう奥田大輔のことは忘れてください。あの男は子どもを流産させたのです」という文章が残されていた。
◆夫さえ、妻さえいれば、じゅうぶん幸せだったのに
茜は、大輔と出会った日からの5年間を、日記を見ながら思い返していた。好きでたまらなかったから、婚姻届を出した日に泣いたこと、大輔がいれば幸せだと思っていたこと。意識を取り戻した大輔もまた、「茜さえいればじゅうぶん幸せだった」と思っていたと記憶を蘇らせる。
それなのにどうしてこんなことになってしまったのか。虐待によって生まれたもうひとりの人格、PTSD、そして仕事で追い込まれていったことなど大輔は少しずつ病んでいった。そして仕事で朝帰りになったとき、茜に「連絡くらいくれても」と言われて「めんどくせえな」と怒鳴りつけるのだ。そこから大輔のモラハラが始まる。父親と同じことをしていると気づきながら、自分を止められなかった。
◆夫婦の行方をはっきり示さない終わり方
退院した大輔が自宅に寄り、夫婦は初めて心からの会話を交わした。大輔は子どもを流産させたことやモラハラを詫び、茜もまた「あんなやり方をするんじゃなかった」と一連の行為を謝罪する。もう一度やり直したいと思いながらも言い出せない大輔。ただ、「もう遅いか」とつぶやくと、茜が「遅いよ」と答える。
「これからどうやって生きていけばいいんだろう」と言う大輔に、「そういう話をふたりでしたかった」と答える茜。
そしてラスト。花束をもった茜が道を歩いている。反対側の道には花束を持った大輔が自宅マンションへと歩いていく姿がある。茜は大輔に気づいたようだが、そのまままっすぐ歩いていく。マンションの部屋が写ると、そこには大輔が持っていた花束が置かれていて、壁にかかっていた茜の大好きな絵(大輔が描いた)がなくなっている。
これだけ見ると、茜は自宅を出て行ったのだろうと想像できるが、一時的に離れて再会、また新たな関係を構築するのかもしれないと期待もできる終わり方だ。
◆会社の先輩後輩、上司と部下のような関係から結婚すると
この夫婦、最初からどこか対等な関係ではなかったのだ。先輩でクリエイターとして名前が出始めていた大輔と、新入社員だった茜の出会い。大輔の父親は、会社を経営しているが、茜は両親を事故で同時に亡くしている。そのあたりを義両親に揶揄(やゆ)される場面もあった。結婚と同時に、茜は夫を支えるために退職。大輔の親に買ってもらったのかどうかはわからないが、ふたりは若さに似合わぬ高級マンションに住んでいる。
会社の先輩後輩、上司と部下のような関係から結婚すると、その当時の上下関係を引きずりがちだとよく耳にする。対等であるべき夫婦の力関係が、はなから決まってしまうのだろう。
茜は、「仮面さん」の助けを得て、夫を社会的に抹殺した。人格を破綻させるという目標は、仮面さん自身がそうしてほしかったのかもしれない。大輔の人格を、もうひとりの大輔が許せなかったということだろうか。
◆妻が、ほぼ寝たきり状態の68歳夫にしていること
夫への復讐で、私自身が今までにいちばん怖い話だと思いながら聞いたのは、40年連れ添ってきた夫が寝たきりになったときの妻の態度だ。彼女の夫は、今でいうDV夫で、彼女は専業主婦として3人の子をワンオペで育て上げた。
そして夫は定年退職、ちょうど結婚40年を迎えたところで脳卒中を患い、家でほぼ寝たきり状態となってしまう。66歳の妻が、68歳の夫を介護していたのだが、妻は少しずつ夫に復讐していく。
「もう慣れてきたから、数時間なら夫をひとりにして出かけてしまうの。そのときは夫が寝ている布団の周りに、水やティッシュを置いていく。夫がどうがんばっても、手が届きそうで届かない場所にね。帰ってくると、おそらく水を飲みたかったんでしょう、夫が必死で布団から這いずりだして水をとろうとしていた形跡がある。でも力尽きてとれないのよ。それを見ると毎回、スカッとするの」
◆復讐に顔を歪める妻……これほど怖い話はない
そんな復讐をするくらいなら、もっと早く離婚していればよかったのにと思うのは、第三者の言い分だろう。離婚できなかった彼女が、最後に自分を慰めるためにそうやって些細な復讐を繰り返しているのだ。スカッとすると言いながら、彼女の顔は歪んでいた。これまでの自分、そして今の自分も許してはいない表情だった。これほど怖い話はない。
<文/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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