産婦人科医が、40歳の親友の前で涙した理由。「子どもをあきらめる選択」は患者だけじゃない|ドラマ『18/40~ふたりなら夢も恋も~』
2023年09月15日 08時45分女子SPA!

産婦人科医が、40歳の親友の前で涙した理由。「子どもをあきらめる選択」は患者だけじゃない|ドラマ『18/40~ふたりなら夢も恋も~』の画像
福原遥と深田恭子がダブル主演を務めたドラマ『18/40~ふたりなら夢も恋も~』(TBS系、火曜よる10時~)が、9月12日に最終話を迎えました。
放送前のコピー炎上問題からはじまり、話題と共感を生み続けた本作。主人公ふたりは、最終的にタイトル通り“恋も夢も”手に入れられるのでしょうか。ここで、全10話を見守っての総括をしたいと思います。
※以下、ドラマの結末についてのネタバレを含みます。
学芸員になってアートの世界で活躍する夢を抱きながらも、18歳で予期せぬ妊娠をした主人公・有栖(福原遥)。
物語の前半は、身勝手な言動に10代特有の“幼さ”がとにかく目立ちました。しかし、もう一人の主人公・瞳子(深田恭子)、父・市郎(安田顕)をはじめ、自分を支えてくれる周囲の人たちとの交流をきっかけに変わっていった有栖。そして何より、息子・海の出産と子育てを通じて成長していく姿は、見ていてとても微笑ましかったです。
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正直、第9話・最終話と、キュレーターになる夢も、祐馬(鈴鹿央士)との恋も一気に手に入れていったスピード展開には「さすがに、そんなに甘くはないだろうよ……」と感じましたが。アラフォーの筆者としては、瞳子ほどのお節介心はなくとも「がんばれ!」と応援したくなるヒロイン像を、福原が見事に表現していたと思います。
一方深田も、本作では「深キョン、40歳に見えない」「こんな40代憧れる」と、話題を集めました。
深田の過去の作品を思い返すと、10代では『神様、もう少しだけ』(フジテレビ系)や『to Heart ~恋して死にたい~』(TBS系)、30代では『ダメな私に恋してください』に『初めて恋をした日に読む話』(ともにTBS系)と、等身大の女性の“恋”を描く作品に出演。完璧ではない、でもとにかく頑張る――本作の台詞を借りるなら「握力全開ですべてを掴みにいく」――ヒロインを演じ、同世代を中心に多くの共感を集めてきました。
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深田の凄さは「そんなこと起こらないでしょう?!」という非現実的な設定や展開であっても、「でも、深キョンだもんね」と、なぜか腑に落ちてしまう圧倒的な説得力だと思います。それこそが彼女の唯一無二の魅力。
本作でも40歳になり「子どもを産めないかも」という悩みに直面する、等身大の女性を演じていました。しかし、18歳の有栖にお節介をやき同居し子育てもサポートしたり、12歳年下の顔も心もイケメンの加瀬(上杉柊平)に熱烈アタックされたりと、そのパワーで視聴者を驚かせ続けます。
最終話では加瀬に対し、高級ブランド・ハリー・ウィンストンのリングを使った“指輪パカッ”の逆プロポーズをかましました。「そんなバカな~」という展開でも、40代の深キョンが深キョンらしい魅力を炸裂させていたと思います。
本作では最終話を除き、冒頭で毎話ごとに違う登場人物が語り手となり、自身の背景や心情を語る導入方法が用いられました。この手法だったからこそ、展開される物語のなかで登場人物たちから発せられる“台詞”に、視聴者が感情移入しやすかったと思います。
特に、女性の生き方が多様化し、仕事に出産、子育てと常に何か選択を迫られ続ける私たちに、そっと寄り添う“台詞”が散りばめていたことも印象的でした。きっと視聴者それぞれに、響いた言葉は違うでしょう。
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筆者が全話を通して忘れられないエピソードになったのは、有栖の子どもを取り上げた産婦人科医であり、瞳子の主治医かつ親友・薫(松本若菜)の話。第9話は、薫の「人生は選択の連続だという。そしてその選択とは、何かをあきらめることでもあるのだ」という語りからはじまりました。
加瀬との結婚、妊活を考えはじめていた瞳子を、物語の中盤で呼び出す薫。ワインを飲みながら薫は告白します。「今日はね、卒業記念日なの。長い長ーい不妊治療の卒業」。瞳子は、薫が8年ものあいだ不妊治療をしていたとは知らず、子どもはつくらない主義だと思い込んでいたのです。
タイミング法や体外受精などあらゆる治療をおこない、やっと妊娠したと思ったら流産。そんな経験をしながらも、不妊治療を続けてきた薫。そして夫が「もうこれ以上、薫の体に負担になることはやめよう」「これからは、今まで以上にふたりで楽しく生きていこう」と言ってくれたことであきらめる決断をしたのでした。
ここまでずっと、産婦人科医として、親友として、有栖と瞳子に寄り添ってきた薫に、そんなバックボーンがあったなんて。でも実際、人生を左右するような選択を、軽々しく人に相談できる人は少ないように思います。なぜなら、それは相手のことを気遣って、遠慮してしまうから。薫もきっとそうだったのではないでしょうか。薫が、親友の瞳子に「私、頑張ったよね」と涙ながらに甘えたシーン。そして翌日も妊婦さんと向き合う薫の笑顔は、とても印象的でした。
私たちはもっと、甘え合ったり、助け合ったりしながら生きてもいいのではないか。本作は全話を通して描かれた、登場人物の一人ひとりの選択や、大切な人に寄り添う姿から、そんな風に感じました。
本作では人と人が寄り添う姿が多く描かれたからこそ、ときに“ご都合主義”と揶揄(やゆ)される展開もあったかもしれません。そんな中でも必ず毎話、ズシッと心に響く言葉を受け取ることができたのは、安田顕と片平なぎさの名演があったからだと思います。
第9話9/5(火)よる10時
『18/40 ~ふたりなら夢も恋も~』
第8話のお宮参りのオフショット⛩️
印象的なシーンだったのでは
ないでしょうか?
こちらのシーンを持って
康ちゃん母・由美子役 #シルビアグラブ さんがクランクアップ💐#福原遥 #深田恭子#八木勇征 #丸山智己 #安田顕 #エイフォー pic.twitter.com/Pxe3465Owd— 18/40 7月期TBS火曜ドラマ【公式】 (@1840_tbs) September 3, 2023
これまでのレビューでも触れてきましたが、有栖の父・市郎を演じた安田は父親としての葛藤、怒り、優しさを繊細に表現。ヤスケンが泣くたびに、私も涙を流しました。
瞳子の母・貴美子を演じた片平も、結婚も出産もしないという娘と向き合う母親の姿を、リアルに演じていたと思います。彼女が娘にかける言葉に、ときに傷つき、ときに励まされ、筆者自身が心を揺さぶられました。
最終話で、市郎と貴美子がふたりだけで語るシーンがありました。有栖は市郎と過ごした実家に戻り、瞳子も貴美子が暮らす金沢に戻るという方針を決めた後のことです。
貴美子は「私は(瞳子に)お世話になるつもりはない」「たとえ親子とはいえ、それぞれの人生」だと思っていると伝えます。市郎も、今は有栖と海のことをできる限り助けたいが「それは、いずれはちゃんと自分たちの力で、自分たちのやり方で、生きていく準備期間」「親が子どもに残せるって、それくらい」と語りました。
自分には自分の人生が、生き方があるように、親にも親の人生と生き方がある。その視点を、安田と片平がリアリティをもって表現したからこそ、少し突飛な設定の本作の物語全体に、説得力をもたせていたのだと感じました。
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この夏クールは、考察系のドラマとラブコメ作品に勢いがありました。そんななかで『18/40』は、少し立ち止まって人生の選択を振り返りたくなる人間ドラマとして、私たちに寄り添ってくれたと思います。
<文/鈴木まこと(tricle.llc)>
【鈴木まこと】
tricle.llc所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201
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放送前のコピー炎上問題からはじまり、話題と共感を生み続けた本作。主人公ふたりは、最終的にタイトル通り“恋も夢も”手に入れられるのでしょうか。ここで、全10話を見守っての総括をしたいと思います。
※以下、ドラマの結末についてのネタバレを含みます。
成長する姿を見せてくれた、福原遥“有栖”
学芸員になってアートの世界で活躍する夢を抱きながらも、18歳で予期せぬ妊娠をした主人公・有栖(福原遥)。
物語の前半は、身勝手な言動に10代特有の“幼さ”がとにかく目立ちました。しかし、もう一人の主人公・瞳子(深田恭子)、父・市郎(安田顕)をはじめ、自分を支えてくれる周囲の人たちとの交流をきっかけに変わっていった有栖。そして何より、息子・海の出産と子育てを通じて成長していく姿は、見ていてとても微笑ましかったです。
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正直、第9話・最終話と、キュレーターになる夢も、祐馬(鈴鹿央士)との恋も一気に手に入れていったスピード展開には「さすがに、そんなに甘くはないだろうよ……」と感じましたが。アラフォーの筆者としては、瞳子ほどのお節介心はなくとも「がんばれ!」と応援したくなるヒロイン像を、福原が見事に表現していたと思います。
40歳になっても深キョンは深キョンだった
一方深田も、本作では「深キョン、40歳に見えない」「こんな40代憧れる」と、話題を集めました。
深田の過去の作品を思い返すと、10代では『神様、もう少しだけ』(フジテレビ系)や『to Heart ~恋して死にたい~』(TBS系)、30代では『ダメな私に恋してください』に『初めて恋をした日に読む話』(ともにTBS系)と、等身大の女性の“恋”を描く作品に出演。完璧ではない、でもとにかく頑張る――本作の台詞を借りるなら「握力全開ですべてを掴みにいく」――ヒロインを演じ、同世代を中心に多くの共感を集めてきました。
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深田の凄さは「そんなこと起こらないでしょう?!」という非現実的な設定や展開であっても、「でも、深キョンだもんね」と、なぜか腑に落ちてしまう圧倒的な説得力だと思います。それこそが彼女の唯一無二の魅力。
本作でも40歳になり「子どもを産めないかも」という悩みに直面する、等身大の女性を演じていました。しかし、18歳の有栖にお節介をやき同居し子育てもサポートしたり、12歳年下の顔も心もイケメンの加瀬(上杉柊平)に熱烈アタックされたりと、そのパワーで視聴者を驚かせ続けます。
最終話では加瀬に対し、高級ブランド・ハリー・ウィンストンのリングを使った“指輪パカッ”の逆プロポーズをかましました。「そんなバカな~」という展開でも、40代の深キョンが深キョンらしい魅力を炸裂させていたと思います。
現実を生きる私たちに寄り添う“台詞”が温かい
本作では最終話を除き、冒頭で毎話ごとに違う登場人物が語り手となり、自身の背景や心情を語る導入方法が用いられました。この手法だったからこそ、展開される物語のなかで登場人物たちから発せられる“台詞”に、視聴者が感情移入しやすかったと思います。
特に、女性の生き方が多様化し、仕事に出産、子育てと常に何か選択を迫られ続ける私たちに、そっと寄り添う“台詞”が散りばめていたことも印象的でした。きっと視聴者それぞれに、響いた言葉は違うでしょう。
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筆者が全話を通して忘れられないエピソードになったのは、有栖の子どもを取り上げた産婦人科医であり、瞳子の主治医かつ親友・薫(松本若菜)の話。第9話は、薫の「人生は選択の連続だという。そしてその選択とは、何かをあきらめることでもあるのだ」という語りからはじまりました。
松本若菜“薫”が「あきらめる選択」をしたのは
加瀬との結婚、妊活を考えはじめていた瞳子を、物語の中盤で呼び出す薫。ワインを飲みながら薫は告白します。「今日はね、卒業記念日なの。長い長ーい不妊治療の卒業」。瞳子は、薫が8年ものあいだ不妊治療をしていたとは知らず、子どもはつくらない主義だと思い込んでいたのです。
タイミング法や体外受精などあらゆる治療をおこない、やっと妊娠したと思ったら流産。そんな経験をしながらも、不妊治療を続けてきた薫。そして夫が「もうこれ以上、薫の体に負担になることはやめよう」「これからは、今まで以上にふたりで楽しく生きていこう」と言ってくれたことであきらめる決断をしたのでした。
ここまでずっと、産婦人科医として、親友として、有栖と瞳子に寄り添ってきた薫に、そんなバックボーンがあったなんて。でも実際、人生を左右するような選択を、軽々しく人に相談できる人は少ないように思います。なぜなら、それは相手のことを気遣って、遠慮してしまうから。薫もきっとそうだったのではないでしょうか。薫が、親友の瞳子に「私、頑張ったよね」と涙ながらに甘えたシーン。そして翌日も妊婦さんと向き合う薫の笑顔は、とても印象的でした。
私たちはもっと、甘え合ったり、助け合ったりしながら生きてもいいのではないか。本作は全話を通して描かれた、登場人物の一人ひとりの選択や、大切な人に寄り添う姿から、そんな風に感じました。
安田顕が泣くたびに、私も涙を流しました
本作では人と人が寄り添う姿が多く描かれたからこそ、ときに“ご都合主義”と揶揄(やゆ)される展開もあったかもしれません。そんな中でも必ず毎話、ズシッと心に響く言葉を受け取ることができたのは、安田顕と片平なぎさの名演があったからだと思います。
第9話9/5(火)よる10時
『18/40 ~ふたりなら夢も恋も~』
第8話のお宮参りのオフショット⛩️
印象的なシーンだったのでは
ないでしょうか?
こちらのシーンを持って
康ちゃん母・由美子役 #シルビアグラブ さんがクランクアップ💐#福原遥 #深田恭子#八木勇征 #丸山智己 #安田顕 #エイフォー pic.twitter.com/Pxe3465Owd— 18/40 7月期TBS火曜ドラマ【公式】 (@1840_tbs) September 3, 2023
これまでのレビューでも触れてきましたが、有栖の父・市郎を演じた安田は父親としての葛藤、怒り、優しさを繊細に表現。ヤスケンが泣くたびに、私も涙を流しました。
瞳子の母・貴美子を演じた片平も、結婚も出産もしないという娘と向き合う母親の姿を、リアルに演じていたと思います。彼女が娘にかける言葉に、ときに傷つき、ときに励まされ、筆者自身が心を揺さぶられました。
主人公の親同士の会話
最終話で、市郎と貴美子がふたりだけで語るシーンがありました。有栖は市郎と過ごした実家に戻り、瞳子も貴美子が暮らす金沢に戻るという方針を決めた後のことです。
貴美子は「私は(瞳子に)お世話になるつもりはない」「たとえ親子とはいえ、それぞれの人生」だと思っていると伝えます。市郎も、今は有栖と海のことをできる限り助けたいが「それは、いずれはちゃんと自分たちの力で、自分たちのやり方で、生きていく準備期間」「親が子どもに残せるって、それくらい」と語りました。
自分には自分の人生が、生き方があるように、親にも親の人生と生き方がある。その視点を、安田と片平がリアリティをもって表現したからこそ、少し突飛な設定の本作の物語全体に、説得力をもたせていたのだと感じました。
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この夏クールは、考察系のドラマとラブコメ作品に勢いがありました。そんななかで『18/40』は、少し立ち止まって人生の選択を振り返りたくなる人間ドラマとして、私たちに寄り添ってくれたと思います。
<文/鈴木まこと(tricle.llc)>
【鈴木まこと】
tricle.llc所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201
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