乳がん入院前夜の私が「小学生の息子と全裸ツーショット」を撮ったワケ

乳がん入院前夜の私が「小学生の息子と全裸ツーショット」を撮ったワケ

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2016年のクリスマスイブに突如乳がん宣告。(ステージⅡB)。晴天の霹靂だった「がん宣告」から約1年間、泣いたり笑ったり怒涛の日々を駆け抜けた、私のがん治療ドキュメンタリーを連載でお届けしています。

病院からの連絡を待つ日々



 紆余曲折を経て、優しくて親身になってくれる主治医のS先生と出会い、納得いくまで説明を受けたことで、私の心も決まりました。S先生に身を預け、手術をお任せすると決め、術式も乳房全摘手術と決定。

 私がお世話になった病院はがん専門病院。乳がんに限らず、あらゆるがんで手術を待つ人が押し掛けるので、常にベッドが満床。

「手術に間に合うようにベッドを手配し、ベッドが空き次第電話するので、連絡を受けたら即入院して欲しい」とのこと。ドキドキしながら待つしかありません。

 自分の身の回りにはがんを患っている人がいなかったので、今までピンと来ませんでしたが、これだけ多くの人ががんという病気に向き合っているのだなぁと肌で感じました。

「私だけが特別じゃなく、たくさんの人ががんの治療をしているのだから、大丈夫!」と思えたので、がん専門病院にお世話になってよかったのかなと思います。

乳がん壮行会で家族に元気をもらう



 病院からの連絡を待つ間に、夫が「入院中は病院食だから、美味しいものでも食べて体力をつけて行きなよ」と入院前の壮行会を兼ねて食事会を提案してくれました。

 誕生日や記念日などで行く、私が大好きな和食屋さんで、入院したら息子のお世話をしてくれる予定の母も一緒に食事。おいしいご飯と、がんが分かってから控えていたお酒も飲んで、思いっきり楽しいひと時を過ごしました。

 ふだんあまり外食が好きではない夫からの声掛けだったので、夫なりの気遣いだったのかなと思います。私が入院する間、子ども同士が仲良しの同級生のママ友や、学校の先生にも事情を話し、息子の様子も見守ってもらうようお願いしました。

 息子は私が病気で入院することは分かっていましたが、手術すれば治ると説明していたのであまりシリアスにはなっていないようでした。

「母ちゃん、がんばってー」とニコニコ応援してくれる姿が、これまた可愛い。この子のために絶対死ぬわけにいかないぞ! と気合いを入れました。

息子のお世話は家族の連携プレーで



 約10日間の入院の間、当時小学校3年生の息子の世話をどうするかについても家族と打ち合せをしておく必要がありました。

 夫はサラリーマンですが、少しだけ出社時間をずらして、朝息子を学校に送りだしてくれることに。夕方以降は、同じ市内に住む私の母が家に泊まり込んで、息子の帰宅から夕飯づくりまでを担当してくれることになりました。

 小さい子どもがいる中で入院となると、周りの人の助けをどうしても借りなくてはいけないと痛感。周りに親族がいなかったりすれば、それだけで治療が思うように進まないことだってあるはずです。

 特に乳がんは、40代あたりから患者数が急増するため、まだ子どもが小さいママさんがかかることも大いにありえます。実際、小さい子ども連れの人が病院の診察待ちをしている姿もたくさん見かけました。

 うちの場合は母が近くに住んでいて動けたことと、夫もある程度会社の融通がきいたので助かりましたが、そうでない家庭もたくさんあるでしょうし、今回のことで家族の助けを本当にありがたく感じました。

息子に説明すると、シンプルに解釈してくれた



 息子にも入院のことを伝えました。今まで、学校のお泊り会などの行事以外で離れ離れになったことがなかった私たち親子。10日間家を空けるなんて大丈夫かと、私のほうが心配でたまりません。

 息子には、がんがわかった頃からかみ砕いて伝えていました。病気のことを子どもにあまり詳しく伝えない人もいるようですが、わたしはストレートにそのまま伝えたほうがいいと感じたので、次のような内容を伝えたと記憶しています。

「母ちゃんはおっぱいが『がん』になっちゃった。『がん』はほっとくと大きくなって死んじゃう病気だから、今のうちに悪い『がん』を取らなくちゃいけないんだって。

 おっぱいを取るのに入院しなくちゃいけないから、行ってくるね。その間、おばあちゃんと父ちゃんがご飯を作って一緒にいてくれるからお留守番お願いね。帰ってきたら今度はものすごい薬で母ちゃんハゲちゃうらしいよ~(笑)。やだやだ」

 ありがたいことに息子は、深刻になる様子もなくアッサリと「うん、がんばってね」と言ってくれました。

 感受性の強い息子がだったので、どういう反応をするか心配だったのですが、あまりに淡白な息子の反応にほっとしつつも、逆に息子が内容を理解しているか不安になり「母ちゃん病気だし、いなくなるし、心配じゃないの?」と聞きなおす始末。

 すると息子はサラリと「とりあえず手術で治るんでしょ、じゃあいいじゃん。心配してない」ととてもシンプルに解釈してくれていました。そして気付いたのです。実は寂しかったのは私なのかもしれないと。

いよいよ入院前夜。いざおっぱいがなくなると思うと…



 いよいよ入院が迫ってきたので、買い出しに行ったりと、なんとなく気ぜわしい日々。入院中に使うパジャマはレンタルもできましたが、なんとなく旅行気分になりたくて、気にいったパジャマに新調してみたり。どうせ入院するなら楽しんじゃおう。

 先に入院した仲間から、持っていくとよいと教えてもらったグッズなども準備し、10日間の入院の準備は完了。あと連絡を待つだけです。

 なんとなく落ち着かない日々を過ごしていたある日、ついに病院から電話がありました。ベッドの空きが出て入院日が決まったので、3日後に来てくださいとのこと。いよいよです。

 入院まで、そわそわと過ごしていましたが、気づけばあっという間に入院前日。

 元気で帰ってこられると思いつつ、次にこの家に帰ってくるときには、私の右胸はなくなっているんだな……と思うと、なんとも言えない不思議な気持ちになりました。お風呂に入る前に洗面所で自分の身体を見て、本当にこれがなくなってしまうのか……と、しみじみ。

 私はあまりスタイルが良いわけでもないし、ボディケアなどをしてこず、自分の身体にもあまり興味がありませんでした。でも、いざおっぱいがなくなるとなると、もっと大事にしてあげればよかったのかなぁと反省の気持ちも湧きあがってきました。

息子と一緒にお風呂に入って、しんみり…



「明日から入院だから」と小3の息子も一緒にお風呂に入りました。

 完全母乳で育てて、おっぱいが大好きだった息子に「もうたくさんおっぱいも出したし、病気になっちゃったから、取ってくるね。おっぱいが一個のかっこいい母ちゃんになって帰ってくるよ」と伝えました。

 すると息子は「おっぱい全部じゃなくて、悪いところだけ取れないのかなぁ?」と寂しそうに言います。

 そう言われると私もなんだか寂しくなって、「悪いところだけ取って済めばよいんだけど、また病気になるといけないから、全部取るんだって」と伝えながら、親子でしんみり。

 少しの沈黙の後、息子はちょっと涙ぐみながら「でも、左のおっぱいがあるから大丈夫だね!」と半ば無理やり笑うのです。

 繊細なところがある息子ですが、いざというときには現状を受け入れて自分でしっかり納得ができる子に成長しているなと嬉しくなりつつ、そんな息子を見て思わず泣けてきました。

「じゃあ、裸で記念写真撮ってよ!」



 お風呂からあがり、夫に「いよいよこの胸ともお別れだわ」というと、夫はどういうテンションで接して良いかわからず戸惑ったのか「記念写真でも撮ってやろうか」と冗談ぽく言います。

 最初は「何言ってんの!?」と笑って流していましたが、よくよく考えてみれば、これで私の両胸揃った姿が最後。確かに写真に残すのも良い記念かもしれないと思い「じゃあ、裸で記念写真撮ってよ!」とノリで夫に頼みました。

 とはいえヌード写真なんて撮られたことがない私。しかもお風呂上がりの汚いスッピン顔。かといって今からお化粧をするのも面倒くさいし、そもそもいったいどんな顔で写真に写ればよいかも戸惑います。

 どうしようかなと思っていると、まだフリチンでうろうろしている息子を発見。そうだ! とひらめき、息子を捕まえて「一緒に裸で記念を写真撮ろう!」と巻き添えにすることに。

 小学生男子のノリで「撮る撮る!」と面白がって写真にはいってきた息子とノリノリで撮影会のスタートです。

家族のヌード撮影会がスタート!



 最初はパンツだけ履いて撮影してみたのですが、逆になんだかいやらしくなってしまったので、せっかくだからと親子ふたり、全裸でリビングに立って、パシャパシャといろんなポーズで写真撮影しました。

 どうせなら、できるだけ笑顔の写真を残したいと思い、バカなことを言って大爆笑しているところや、母ちゃんのおっぱいが2つある記念だよ!と言って、息子が切除するほうのおっぱいにタッチした写真も夫に撮ってもらい、撮影会終了。

 何回撮っても、もう最後だと思うと名残惜しく感じて、無駄にたくさん裸の写真を撮りましたが、思いきりふざけて、子どもも楽しかったようだし、なにより私自身も迫りくる手術のことをあまり考えずに済んで良かったかなと思います。

 翌日のことを考えると、夜はなかなか眠れませんでしたが、おっぱいは内臓ではないし、おっぱいを切っても死ぬことはないはず!! と自分に言い聞かせ、なんとか眠りにつきました。

 いよいよ明日から、入院、手術と怒涛の日々が始まります!

<文/塩辛いか乃 監修/石田二郎(医療法人永仁会 Seeds Clinic 新宿三丁目)>

【塩辛いか乃】
世の中の当たり前を疑うアラフィフ主婦ライター。同志社大学文学部英文学科卒。中3繊細マイペース息子と20歳年上の旦那と3人暮らし。乳がんサバイバー(乳房全摘手術・抗がん剤)。趣味はフラメンコ。ラクするための情熱は誰にも負けない効率モンスター。晩酌のお供はイオンのバーリアル。不眠症。note/Twitter:@yukaikayukako

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