ブランド乱立の国産豚をよそに、カナダポークがすごく伸びている理由

ブランド乱立の国産豚をよそに、カナダポークがすごく伸びている理由

写真提供:カナダポーク・インターナショナル



<フードクリエーター 畑井貴晶>

 豚肉はいろいろありすぎます。

 銘柄なのか、種類なのかも定かではなく、非常にわかりにくいんじゃないかと思います。

◆豚の名前がゴチャゴチャで意味がわからない!

 牛肉は、和牛と輸入牛が大きくちがうのでそこで一区切りつきます。和牛のほとんどは純粋種ですから、それもわかりやすい。対して豚肉は、和豚の区分けが明瞭ではないというか、そもそも和豚という言い方自体が流通していません。

 ためしに検索してみると、「和豚」は「和豚もちぶた」とセットで出てきて、「もちぶた」はもちもちして美味しい豚というのがおおよその定義のようなのですが、外国産でも「もちぶた」は使っています。

 以下に整理してみると、

●もちぶた

品種や肥育法ではなく、肉質がもっちりとしてきめの細かい良質の豚肉を指す名称。出荷量はもっとも多いもの。品質を指す言葉なので、外国産のもちぶたもあります。

●黒豚

黒毛和牛と同期するようにややリードしているのが「黒豚」です。鹿児島や沖縄で育てられた、種としては純粋バークシャー種同士の交配から生まれた豚のことですが、その種を指しているのでカナダ産の黒豚があったりします。

●三元豚

三種の純粋種を交配させた、それぞれの長所を引き出すように作られている一代限りの交雑種。もっとも多く生産されているのはランドレース種、大ヨークシャー種、デュロック種の掛け合わせ。近年、黒豚のバークシャー種や金華豚などを交配させた三元豚も見かけるようになりました。

●SPF豚

母豚から外科手術によって無菌的に取り出した子豚を種豚として育成した特定病原菌不在の豚のこと。

 おわかりになりますか? たったこれだけでも、けっこう混乱しますね。なぜならば、品種と品質と育て方がごちゃまぜになって命名されているからです。

 さらにこれらに、土地名の銘柄や農場主の名前ブランドが掛け合わさります。越後もちぶた、房総もち豚、瀬戸のもち豚、カナダもち豚。山形三元豚、米沢三元豚、カナダ三元豚。岩手SPF、信州SPF。

 平牧三元豚、折爪三元豚などは農場主の銘柄。

◆イベリコ豚のうち、どんぐりを食べて育ったのは10%だけ

 まさに群雄割拠している状態ですが、この中から二つ、イベリコ豚とアグー豚はブランドとして一線を画しています。

 どんぐりを食べて育った豚がイベリコ豚、600年前に中国から渡ってきた島豚の純粋種がアグー豚、というのが一般的な理解と思われますが、実はイベリコ豚とは血統のことで、放牧されどんぐりを食べて育った豚はイベリコ・ベジョータという名前がついています。全体の10%程度と言われます。

 ベジョータという別名があるということは、単にイベリコ豚といったら、どんぐりを食べて育っていない豚だということになります。

 アグー豚はいま生産量が追いつかず、育ちの遅い、育っても小さい純粋種はほとんどいなくなり交雑種になっているそうです。

 こういった独自ブランド乱立の豚肉業界には、これといった工夫も効能もないのに安易に土地名を冠して、もっともらしい銘柄にするようなことはやめたらどうか、という規制が公的機関からかかってきている始末。

◆カナダポークが、すごい勢いで伸びている

 和牛業界が格付けによって輸入牛と棲み分けたように、個々の銘柄に思い入れるだけでなくて、「和豚」という総体的な防衛をしないとまずいんじゃないのかなあと傍目にも心配になっていたところへ、銘柄豚から頭一つ抜け出たのがカナダポークです。

 和牛と輸入牛にあるような決定的なちがいは和豚と輸入豚にはなく、味も見た目もほとんど差がないところを突いた会心のブランド展開で、頭一つどころか三馬身(三豚身?)ほどもリードしていると思うくらい、破竹の勢いで伸びています。

 そんな値段でとんかつが出せるのかと驚かせている出店ラッシュの「かつや」や、全国の百貨店などで販売されている某有名カツサンドも当初からカナダポークを使っているそうです。

 この数年スーパーにもたくさん出回りはじめましたが、このカナダポークを日本に広めてきた、カナダポーク・インターナショナルのマーケティングディレクター野村昇司さんによれば、

「まず種が日本と同じ三元豚であること、飼料もコーンと麦を使って同様のものであること、自然環境も日本と似ているし、日本の優れた畜産技術からさまざまなことを学んでいること、などが特徴的で、同じ実力を持っているのは実は当たり前なんです」(野村さん、以下同じ)

 それでいて3割くらい安いのですから、国産豚は危機的な状況です。

◆安い・安全・美味しいカナダ産…どうする国産豚!?

「近年、チルド(冷蔵パッケージ)の技術が飛躍的に上がって、冷凍でなくても持ってこられるようになりました。味が劣化しないどころか、奇しくも運んでくる日数がちょうど熟成期間になって、もともと柔らかいものがいっそう柔らかくなったのです」

 いわばエイジドビーフならぬエイジドポークということですね。一度も冷凍せずにはるかカナダから届く。そういう時代。もっとも気になるところの安全基準は、

「日本より高い水準でクリアしていて、トレーサビリティに至っては制度と整備が遅れている日本よりはるかに厳密なルールで管理されています。畜舎が人里から遠く離れており――カナダですからねそういう場所はたくさんある(笑)、そして飼育枠も大きいので飼育密度が低く病気感染しにくいんです」

 美味しくて安くて安全。なかなかここまで完膚なきまでにやられてしまった食材も珍しいように思えます。昨年私はランチボックスを1万食近く作りましたが、豚肉料理の場合はすべてカナダポークを使い、お客様に「原価だいじょぶなの?」と心配されるくらいの出来栄えで提供できました。

 いったい、この完全さに日本の豚肉産業はどう対抗するのでしょうか。

 消費者から見れば、美味しくなる、美しくなる、安全になる、それでいて安くなるような競争は歓迎すべきもの。和牛のようにサシは入らないそうですが、豚肉にもマーブリング(霜降り)をどう入れるかという技術開発が行われているそうで、これからの和豚産業(あえて和豚と呼んでおきます)の展開には目が離せません。

<TEXT/畑井貴晶>

【畑井貴晶】

フードクリエイター、マーケティングコンサルタント。白金のカフェ&ダイニングバー「blanc noir」、みなとみらい「Audi Cafe by blanc noir」をプロデュース。現在、新橋「炭火焼肉有田牛」料理長、茅ヶ崎駅ビル「アロハストリートカフェ」のフードコーディネーターなどを務めているが、元々はマーケティング業界に籍を置いていた。著書『大人のマーケティング』(古本のみ)。

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