埼玉系男子のややこしい自尊心に気をつけろ【辛酸なめ子】

埼玉系男子のややこしい自尊心に気をつけろ【辛酸なめ子】

埼玉系男子の上級者向けファッション



【いまどきの男を知る会 ファイルNo.2 埼玉系男子】

◆女優・夏菜の炎上で秘められた自尊心が露わに

 埼玉系男子、彼らの秘められた自尊心を最近感じたのは、女優の夏菜のプチ炎上事件です。酔っぱらって電車に乗って、気付いたら「埼玉の山奥の指扇(さしおうぎ)らへんまで行った」という発言(※)が、県民を刺激。「指扇が山奥だと……」「無礼だな」「指扇に山はねえぞ!」と怒りのコメントがネットに渦巻いていました。

 その後、「あのときは酔っ払いすぎてて山奥に見えたのです…w」と本人がインスタグラムで謝罪。夏菜自身は指扇よりも少し都会の戸田出身だそうですが、結局埼玉人同士の抗争だったのでしょうか。「w」が挑発的です。

※6月1日放送の『ダウンタウDX』(日本テレビ系)における発言。

◆ライバルは千葉、埼玉県内でも対立

 埼玉系男子は、ふだんは“東京の植民地”などと自嘲していますが、その実、千葉に対して強烈なライバル心を抱いていたり、埼玉内部でも地区同士対立していることがあります。東京はもとより、神奈川にはかなわない、と最初から降伏していますが、千葉については、浦和と浦安を混同されてイラッとしたり、千葉が「東京ディズニーランド」「ららぽーと東京ベイ」と東京を名乗っているのを内心蔑視しています。

 しかし千葉には海があります……。埼玉にはたくさんプールや水上公園がありますが、水量的に全然足りていません。私も埼玉出身ですが、船橋の知人に「海がある千葉の方が全然勝っている」と言われてピリッとしたことが。

 埼玉県内でも気が休まらないことに、「浦和 VS 大宮」「所沢 VS 川越」「越谷 VS 春日部」といった対立している地域があります。先日はテレビの埼玉ネタで、「京浜東北線 VS 埼京線」といった対立構造まで取り上げられていました。以前、「浦和出身です」と自己紹介したら、相手の男性が大宮出身で「………。」と十数秒ほど気まずい沈黙が流れたことがありました。同じさいたま市でも打ち解けられませんでした。

◆埼玉系男子の魅力

 埼玉は、「ダサイタマ」の呪縛が根強く、『翔んで埼玉』が受けたり、自虐マインドが発達している反面、実は競争意識が強い、という県民性があるようです。また、「どうせ埼玉だし……」と、埼玉を卑下しながらも、心の中では愛県心が強い傾向があります。

 先日、埼玉県の観光関係の男性の話を聞く機会がありました。「ガイドブック『ロンリーブラネット』に埼玉県の項目だけないんです」「埼玉のお土産はパッケージがダサい」と謙遜から入って、だんだん埼玉のアピールタイムに。「野菜の収穫高は全国6位なんです」「有名な東京土産も実は埼玉で作られています」「海以外のものなら何でもあります。ありすぎて絞り込めません」と、プレゼンする埼玉系男子。しかし、その声は妙に小さかったです……。奥ゆかしさが埼玉系男子の魅力です。

◆ダサさを極めておしゃれに

「ダサいたま」という言葉を逆手にとり、ダサさを極めると埼玉系男子は存在感を増してきます。以前、川口のスーパー銭湯で見た男性客のファッションが忘れられません。銭湯には、スウェットの上下セットアップを着用した埼玉系男子たちが何人かいて、しかも上に着るパーカーを腰に巻いたりして、こなれ感を出していました。柄もヤシの木柄とかパンチがきいていて、ダサさも一周回っておしゃれになるようです。東京の人にはマネできない上級者向けファッションです。

◆「ムーミンバレーパーク」で一気に挽回を狙う

 ところで、埼玉に住んでいる人は、ラッシュや遅延、終電など交通の便が懸案事項です。ある埼玉系男子は、「デートしても男性の方が終電を気にして早く帰らないとならない」という悩みを語っていました。

 彼女を連れて行けるような楽しいデートスポットが埼玉にあれば良いのですが、それがなかなかなくて結局東京に出て行くことに。川越や秩父頼みですが、まだ観光地としては発展途中です。飯能にムーミンバレーパークができれば北欧のおしゃれなイメージで一気に挽回できる、というのが埼玉人の夢です。

◆隠れ埼玉系男子に気をつけろ

 都会すぎず田舎すぎない地域だからか、埼玉系男子は複雑です。東京の人に対しては「田舎なんで」と謙遜しながら、地方の人に対しては強気に出ることが。千葉が施設名に「東京〜」と付けるのをバカにしている埼玉系男子も、地方に行って住んでいるところを聞かれたら「東京のほう」と答えると言っていました(結局千葉と同じじゃ……)。

 東京育ちのふりをしている人の中にも、隠れ埼玉系男子、結構多いのかもしれません。うっかり埼玉のことを悪く言わないように気をつけた方が無難です。埼玉人は、埼玉の悪口は一生忘れませんから……。

<TEXT/辛酸なめ子>

【辛酸なめ子 プロフィール】

東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。著者は『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)など多数。

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