松田聖子のコスプレPVに思う。邦楽PVはただの販促ツールなのか?

松田聖子のコスプレPVに思う。邦楽PVはただの販促ツールなのか?

松田聖子 https://www.youtube.com/watch?v=fxXIsa-K7Fwより



 先日、情報番組で松田聖子の新曲PV「春の風誘われて〜Spring has come again〜」を目にして、「またか」と思ってしまいました。

 ウェイトレスのコスプレで“いつまでもキラキラかわいい聖子さん”をアピールするのはいいのですが、では果たしてこれが本人とファン以外に何かアピールする要素があるのだろうかと思ってしまったわけです。

◆低予算のせいだけじゃない。何のためのPV?

 松田聖子に限らず、PVが一篇の映像作品として成り立っていないものが多すぎるのではないか。アーティストやバンドをあたかも大スターであるかのように祭り立てる演出ばかりで、作り手側の売り込みたい気持ちばかりが先走っているように感じられるのですね。

 もちろん、音楽市場の縮小によりビデオ制作に予算をかけられなくなった事情もあるのでしょうが、だったらPerfumeやサカナクションなどのPVが面白いかと言われると、そこもなかなか厳しい。先端技術を駆使した目新しさはあっても、深く納得できる味わいには欠けているからです。

 とはいえ、ケイティ・ペリーやビヨンセのようにカネをつぎ込むのも無理な話。でも洋楽のビデオだって全部が全部大作ではないわけですから、そこはやっぱり根本の考え方とアイデアが勝負になるのでしょう。

 そんなわけで急速に先細っている雰囲気の邦楽PVですが、それでも中身があり、繰り返しの鑑賞に耐え得る作品はあります。ここからは、洋楽の名作ビデオと比較しつつ、いくつかご紹介したいと思います。



◆@王道のストーリー仕立て エルトン・ジョンとレキシ

 曲のイメージを分かりやすく表現する手段として、ショートフィルムのように物語をまとめるのはいまも有効です。その際、歌詞をそのまま再現したのでは芸がないので、曲のトーンや演奏のスタイルなども加味して、そこからもう一つの味覚を抽出したような映像が後々まで残るのだと思います。

 エルトン・ジョンの「ブルースはお好き?」とレキシの「最後の将軍」は、その好例。どちらも三連のロッカバラードで、泣きのコード進行とメロディを持つ曲です。

 男が軍に入隊するために離れ離れになる恋人を描いた「ブルースはお好き?」と、同棲を解消するカップルのまさにその一日をとらえた「最後の将軍」。音楽と映像がセットになって、切なさが形をともなって現れてくる。

 やはり王道は強いと再認識する2作品です。

◆A神経を逆撫でする批評精神 カニエ・ウェストとCAPSULE

 音楽や映像でメッセージを伝えるのは、なかなか難しいものです。青年の主張っぽくなってしまうか、せいぜい出来損ないのシュルレアリスムになってしまうのがオチだからです。というわけで、そうならないために嫌悪感と物議を醸して、毒をもって毒を制すような形でしているのが、カニエ・ウェストなのだと思います。

 「Famous」では有名な絵画を模して、トランプ大統領やテイラー・スウィフトと思しき蝋人形がヌードで一列に横たわる。この時代に有名であることの意味についてカニエなりに見解を示したのだそう。確かに彼のメッセージには不快感が多く示されましたが、でもこのビジュアルは壮観ですよね。

 日本でカニエみたいなことやったら干されるのは間違いないのでよほど注意が必要なのですが、中田ヤスタカ率いるユニット「CAPSULE」の「Another World」のビデオはかなり辛辣です。

 福島第一原発をモチーフにしたと思しき廃墟の上を飛び回るドローン。それが撮影した映像を、商業ビルの巨大スクリーンやスポーツカフェのテレビを通して楽しむ一般市民の姿が描かれています。

 3.11以降、様々な議論がなされましたが、「Another World」のPVほど的確なものはありませんでした。“フクシマ”を憂えようと、原発への異議を唱えようと、それらはこの国においてはおしなべてエンターテイメントに他ならないのだと。

 これは、Jポップではチャレンジングな表現なのだと思います。

◆B音楽は色でもある Kungsとミツメ

 さて最後は若い世代のミュージシャンから。若干20歳、フランスのDJクングスの「This Girl」と、東京出身の4人組バンド「ミツメ」の「めまい」は、どちらも一コマを一枚のフォトグラフとして保存したくなるほど、豊かな色彩が強く印象に残ります。

 共感覚なる言葉が生まれる遥か以前から、たとえばモーツァルトなどは調性によって異なる色が見えていたのではいかと言われていますが、「This Girl」と「めまい」の映像から同様の神秘が伝わってきます。

 “音楽が売れない”と言われて久しい今日この頃ですが、だからこそ販促から離れてPVの役割を考え直す、よい時期なのかもしれないと思いました。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>

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